• 公開日: 2020/5/25
  • 更新日: 2020/6/11

【2020年保険料引上げ!】介護保険制度の基本と今後の見通し

2020年3月分(4月納付期限分)より、全国健康保険協会の介護保険料率の引上げが行われました。40歳以上になると介護保険への加入が義務付けられています。介護保険料は介護の現場を支える財源となります。看護師が介護保険の基本からしっかり理解できると、患者さんへ的確な説明・提案ができるようになりますよ。本記事では介護保険制度の基本と保険料の引き上げについて、そして今後の見通しを説明していきます。

 

介護保険制度の仕組み

介護保険制度は、介護が必要な人やその家族を社会全体で支えていくための制度です。介護保険は40歳以上になると加入しなければなりません。この介護保険料は無職やパート勤務者であっても納めなければなりません。正社員であれば、介護保険料は勤務先と労使折半するので半分のみの負担で済みます。また、扶養家族がいる場合に被扶養者の保険料は負担する必要がありません。*1 例えば、二人暮らしをする夫婦で妻が正社員の夫の扶養に入っている場合は、夫一人分の保険料を会社と労使折半して支払うだけで済みます。

40歳以上の人が納めた介護保険料と国や地方自治体の公費を組み合わせて介護サービスの費用にあてる仕組みです。介護保険制度により介護サービスの利用者の自己負担は大きく軽減されます。

 

介護保険料はどのようにして決定されるか

介護保険料は以下の計算式で毎月の納付額が決定*2されます。

介護保険料=(標準報酬月額+標準賞与額)×(介護保険料率)

標準報酬月額とは、4~6月の給与の平均を、標準報酬月額表の等級区分に当てはめたものです。標準報酬月額表の等級区分は、お住まいの地域により異なります。例えば東京都在住の看護師で給与が29万円だとすると、等級は21級で標準報酬月額は28万円とされます。*3 算出された標準報酬月額に介護保険料率をかけた数字が毎月の納付額です。

標準賞与額は支給されたボーナスの総額から1,000円未満を切り捨てた金額です。 1年間の賞与の合計で計算し、標準賞与額に保険料率をかけた金額を毎月納付します。

 

介護保険料の引上げについて

2020年3月より、全国健康保険協会の介護保険料率が従来の「1.73%」から「1.79%」へ引上げられました。*4 「0.06%」の保険料率引上げです。介護保険料は当月分を翌月に納付する仕組みのため、2020年4月納付分の保険料から値上がりします。

0.06%の介護保険料率の引上げと言っても、あまり想像がつかないかもしれません。 東京在住の標準報酬月額28万円、標準賞与額40万円の看護師(正社員)の例で計算してみましょう。

2020年2月分の介護保険料は【(28万円+40万円)×1.73%=11,764円】で、本人負担分は半分の「5,882円」です。2020年3月分からの介護保険料は【(28万円+40万円)×1.79%=12,172円】で、本人負担分は半分の「6,086円」となります。つまり毎月204円、年間にすると1,004円の介護保険料の自己負担分値上げです。

介護保険料率の引上げの背景にあるとされるのが、団塊世代が後期高齢者となる「2025年問題」です。高齢者の増加に伴い要介護者も増加しています。介護保険制度が開始された2000年は要介護(要支援)認定者が「218万人」であったのに対し、2019年は「659万人」とおよそ3倍増加しました。*5 増え続ける介護需要に対応するには財源を確保しないといけません。

 

介護保険の財源

厚生労働省老健局の資料によると、2019年の介護給付費の予算は「10.8兆円」*6だとされています。介護保険制度の財源は介護保険料と公費がそれぞれ50%ずつです。公費とは国家または公共団体の費用のことです。ちなみに公費の内訳は国庫負担金(調整交付金+定率分)25%、都道府県負担金12.5%、市町村負担金12.5%とされています。

 

訪問看護は介護保険が適応される場合がある

看護師の仕事の中でも、訪問看護は特に介護保険について詳しく知っておく必要があります。介護保険と医療保険は併用することができない*7のですが、どちらを適応するかによって訪問看護を利用できる範囲が異なりますので注意しましょう。

医療保険による訪問介護の対象は年齢制限がありません。要介護認定を受けていなくても、医師が訪問看護を必要だと判断すれば利用可能です。原則として「1日1回90分まで」「週3回まで」「1箇所の訪問看護ステーションから看護師1人で」といった範囲に限定されます。*8ただし、特別訪問看護指示書が出ている場合や、厚生労働大臣が定める疾病や状態に該当する場合にはこの限りではありません。また、医療費の自己負担割合は年齢や所得に応じて変化します。

要介護または要支援の介護認定を受けている人は、基本的に介護保険による訪問看護を利用します。介護サービスの利用限度額に応じて、他の介護サービスと組み合わせて利用回数を決定していくのが一般的です。ただし、要介護または要支援の介護認定を受けた人でも、特定疾患や状態により主治医の支持を受けた場合は、医療保険での訪問看護を受けることができます。また、介護認定の利用限度額を超えて訪問看護を利用することも可能ですが、この場合、利用限度額を超過した分の費用は全額自己負担となります。

 

高齢者の増加に伴いさらなる介護保険料引上げが予想される

日本の高齢者人口は2042年にピークを迎えると予測*9されています。介護保険制度が開始された2000年の介護保険料率は「0.60%」*10でした。それが徐々に引上げられ、2020年3月の改定で介護保険料率が「1.79%」になっています。今後も介護の需要は伸び続け、財源の確保が難しくなると思われます。

また、介護保険料の負担を少しでも軽減するには要介護者の自立支援が欠かせません。地域包括ケアシステムを始めとした自立支援の推進も期待されています。

 

参考文献

*1 けんぽっぽnet.”介護保険制度”(参照 2020-4-20)
*2 全国健康保険協会.”費用の負担”(参照 2020-4-20)
*3 全国健康保険協会.”令和2年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表”(参照 2020-4-20)
*4 全国健康保険協会.”協会けんぽの介護保険料率について”(参照 2020-4-20)
*5 財務省.”社会保障について①”(参照 2020-4-20)
*6 厚生労働省 老健局.”被保険者・受給者範囲”(参照 2020-4-20)
*7 訪問看護支援センター かごしま.”介護保険と医療保険どちらをつかうの?”(参照 2020-4-20)
*8 日本訪問看護財団.”訪問看護とは(医療・福祉関係者むけ)”(参照 2020-4-20)
*9 内閣府.”第1章 高齢化の状況(第1節)”(参照 2020-4-20)
*10 全国健康保険協会.”保険料率の変遷”(参照 2020-4-20)

この記事を書いたのは

看護師FP:しまづ 看護師として働く中で、お金の知識がないと時に自分や大切な家族の生活を脅かすことを実感し、ファイナンシャルプランナーの資格も取得。みなさんのお財布の健康を守るお手伝いをさせていただきます!

イラスト・まえかわしお

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