給与明細を毎月楽しみにしている看護師は多いと思います。しかし、給与明細のうち「銀行にいくら振り込まれるのか」しか確認しない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
これは、実は非常にもったいないことです。 給与明細には多くの情報が記載されており、この情報をうまく活用すれば、手取り額を増やすこともできますよ。
また、看護師の給与明細には独特な項目があります。それぞれをきちんと理解すれば転職の判断材料にもなります。 今回は看護師の給与明細の見方や利用方法について解説します。
手当の金額を把握するのに必要な給与の「締め日」と「支給日」
多くの看護師は月給制で給与が支給されていると思います。 給与明細を見るにあたって「締め日」と「支給日」は非常に重要なので先に説明します。
給与の締め日は給与計算を行うために働いた期間を区切ることで、支給日は計算された給与が支払われる日付のことです。 例えば、月末締め・25日支払いの職場で1月に勤務した場合を見てみましょう。 月末締めなので1/1~1/31の期間で給与計算が行われ、1月分の給与が翌月の2/25に支給されます。
看護師は夜勤や早番・遅番などがあり、不規則シフトになりがち。残業が多い方もいるでしょう。 締め日や支給日を知っておけば、夜勤や時間外労働に対する手当がどのタイミングで支給されるかわかります。
給与明細の4つの構成
給与明細は職場ごとにさまざまな形式が取られています。しかし、基本となる4つの構成は共通です。
1.勤怠
2.支給
3.控除
4.差引支給額
「差引支給額」が銀行に振り込まれる、いわゆる手取りになります。それ以外の項目については、少し詳しく見ていきましょう。
勤怠
勤怠の欄には、「締め日」までの出勤日数や夜勤回数、時間外労働時間が記載されています。夜勤回数や時間外労働が間違って計算されていると、支給金額が変わってきますので必ずチェックしましょう。
体調不良などでやむを得ず欠勤した場合、休んだ日数に応じて給与が差し引かれます。差し引かれる金額は職場の規定により異なるので一律ではありません。また、欠勤日を有給休暇に振り替えたい場合は上司に相談してみましょう。有給休暇は事前申請が原則のため、雇用側は応じる義務はないものの相談により振り替えることは可能*1です。
支給
支給の欄にはプラスとなる金額が項目ごとに記載されています。 支給金額の合計がいわゆる「額面給与」です。 手取りと額面給与は別物なので区別しておきましょう。
■基本給
基本給は給与の基本となる金額です。
病院や施設ごとの規定に沿って年齢や勤続年数、ラダーレベルなどを基準に決められ、ボーナスの金額にも影響します。
■残業手当
1日8時間の法定労働時間を超えた時間外労働に対して割増で支給される手当です。
夜間や休日の時間外労働に対してはさらに割増されて支給されます。
■役職手当
主任、副師長、師長、看護部長などの役職がついた看護師に支給される手当です。
役職が上がるにつれて金額も大きくなるのが一般的で、職場によっては基本給に含まれることもあります。
■調整手当
看護師の能力や経験年数などに見合った給料を支給するための手当です。
職場ごとに基準が異なり調整手当そのものがない場合もあります。
■資格手当
看護師資格に対して支給される手当です。
これも職場の規定により異なり資格手当がない場合もあります。
認定看護師や専門看護師の資格に対しての手当は支給されない職場が半数以上なのが現状*2です。
■夜勤手当
夜勤をした回数に応じて支給される手当です。
夜勤手当は職場の規定によって決定され、職場ごとに大きな差があります。
深夜の時間外労働に対する割増賃金と異なり法律の定めはありません。
■危険手当
看護業務に危険が伴う場合に支給される手当です。
同じ病院内でも所属する科によって支給される場合とされない場合があります。
精神科、手術室、ICU、放射線科などで支給され、1万円前後が相場です。
■通勤手当
自宅から職場までの移動にかかるガソリン代や交通機関代が支給される手当です。
職場の規定により上限金額が決められています。
他の支給項目と異なり、月15万円までの通勤手当には住民税・所得税がかかりません。*3
■住宅手当
住んでいる家賃に応じて支給される手当です。
職場の規定により上限が決められていたり、住宅手当がそもそもなかったりします。
住宅手当は課税対象です。
借り上げ社宅の場合は税負担がありません。
■家族手当
扶養家族がいる場合に人数に応じて支給される手当です。
職場の規定によって金額や含まれる家族の範囲、収入の制限が異なります。
控除
控除の欄では、マイナスとなる金額が項目ごとに記載されています。 税金や社会保険が主ですが、すべてが決められた金額ではありません。 工夫次第で金額を減らすことができますので内容をよく理解しておきましょう。
■所得税*4
所得に応じた税金の控除です。
病院や施設に勤める看護師は、所得税は職場が給与から天引きする形で支払っています。
この仕組みが「源泉徴収」です。
源泉徴収では、本来納めるべき所得税よりも少し多めにされる仕組みになっています。
多く徴収された分は「年末調整」で返還されることを覚えておきましょう。
■住民税
前年の所得を基準にした税金の控除です。
1年目の看護師は前年の所得がないので住民税は控除されません。
ただし、退職して無収入の状態でも前年分の住民税は支払わなくてはいけないので注意しましょう。
■健康保険
常勤で働く看護師が加入する公的健康保険の保険料の控除です。
本来かかるはずの保険料の半分を職場が負担する仕組みになっています。
健康保険には扶養家族を入れることができ、何人いても保険料は変わりません。
健康保険の保険料は、毎年4~6月の間の基本給・残業手当・通勤手当などを基準にして決められます。*5
■厚生年金
常勤看護師は基礎年金に加えて厚生年金に加入でき、その掛け金の控除です。
保険料同様に毎年4~6月の基本給・残業手当・通勤手当などを基準にして決められ職場が半分負担します。
■雇用保険
雇用保険は職場が倒産したり、退職したりした場合に受けられる保険でその保険料の控除です。
保険料は毎月の給料を基準に決められ職場が半分負担します。
■介護保険
40歳以上になると介護保険の加入が義務付けられ保険料が控除されます。*6
職場が半分負担するので自分の負担は半分です。
所得控除を使いこなして手取り額を増やそう!
看護師が手取りを増やすポイントは所得控除を使いこなすことです。 支給金額を増やすことはなかなか難しいでしょう。 しかし、所得控除は申請さえすれば誰でもできます。 所得控除は以下の14種類です。*7
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
職場が利用してくれるのは最低限の所得控除のみで3~4種類に過ぎません。 それ以外の所得控除は自分で調べて申請するしかないのです。 人によっては多く払いすぎた税金がかなり取り戻せますので、ぜひ調べてみて下さいね。
参考文献
*1 厚生労働省.”改正労働基準法に関するQ&A”(参照 2020-2-25)
*2 日本看護協会.”看護職の賃金 処遇の現状と改善に向けたポイント”(参照 2020-2-25)
*3 国税庁.”通勤手当の非課税限度額の引上げについて”(参照 2020-2-25)
*4 国税庁.”給与と源泉徴収”(参照 2020-2-25)
*5 全国健康保険協会.”標準報酬月額の決め方”(参照 2020-2-25)
*6 厚生労働省.”介護保険制度について”(参照 2020-2-25)
*7 国税庁.”所得控除のあらまし”(参照 2020-2-25)
この記事を書いたのは
看護師FP:しまづ 看護師として働く中で、お金の知識がないと時に自分や大切な家族の生活を脅かすことを実感し、ファイナンシャルプランナーの資格も取得。みなさんのお財布の健康を守るお手伝いをさせていただきます!
イラスト・まえかわしお