• 公開日: 2020/1/6
  • 更新日: 2020/2/10

夜勤をする看護師は寿命が短い?交代勤務による健康障害とは

看護師として夜勤をしている方は、疲れが取れない、体調がよくないと感じている、ということをよく耳にします。おそらくほとんどの人が気づいていると思いますが、夜勤は健康に悪影響を与えます。今回は、交代勤務をする人に起こりやすい健康障害についてご紹介します。

 

交代勤務による健康障害の原因とは

交代勤務のリスクを言い表すときによく使用される言葉に、「夜勤をしていると寿命が10年縮まる」というものがあります。これは、40年ほど前にフランスで行われた調査の結果です。当時はその原因が明らかではありませんでしたが、現代ではサーカディアンリズムの乱れが元凶であることがわかっています。これに不規則な生活習慣やストレスが加わることで、様々な健康障害が現れると考えられます。

サーカディアンリズムの乱れ

夜勤をするということは、サーカディアンリズム(約24時間周期の、人が生まれながらにして持っている生活リズム)に反した生活をするということです。これによって、ホルモンバランスや自律神経の働きが乱れ、睡眠や代謝・細胞の再生・血圧の調整など様々な生命活動に支障が出ます。また、このうちの睡眠障害によって慢性的な睡眠不足になると、それだけでも多くの疾患の原因となります。

不規則な生活習慣とストレス

夜勤をしていると、睡眠や食事をはじめとする生活習慣全般が不規則になりがちです。様々な疾患の予防として効果的な運動をする時間もとりにくいでしょう。また、限られた人数で患者さんを看る夜勤の病院勤務などでは、心身へのストレスが強いことが多く、これらが健康障害につながっていく可能性があります。

 

交代勤務による健康障害あれこれ

夜勤を含む交代勤務による健康への影響については、現在も研究が重ねられており、主に以下のような健康障害を起こしやすいといわれています。

肥満

夜勤をしていると、食生活が乱れやすいこと、夜間の食事量に見合う代謝が確保しにくいことなどによって、肥満しやすくなります。特に、「BMAL1」という物質の分泌が多い22時~2時の間に食事をすると、脂肪の溜め込みが促進されます。

また睡眠不足の状態では、食欲を抑えるレプチンが減少し、食欲を増進するグレリンの分泌が増えます。さらに、ストレスが強いと、コルチゾールの分泌量が増えることで脂肪の蓄積が促され、自律神経の働きが乱れることで代謝が低下します。これらの要因によって、カロリーオーバーするとそれを燃焼しきれずに脂肪として蓄えてしまう状態になるのです。

糖尿病

交代勤務をしている人は、日中のみの規則的な勤務体制の人に比べて、糖尿病になりやすいことがわかっています。夜勤によるサーカディアンリズムの乱れと睡眠時間の不足は、どちらも糖代謝の異常(インスリン抵抗性を増大)につながり、血糖値を上昇させます。また、変則的な勤務によって食生活が乱れる、肥満になることも、糖尿病のリスクを上げます。

高血圧

本来のサーカディアンリズムでは、夜間血圧が低下します。ですが、この時間帯に活動していることで、血圧は高いままになります。また、交代勤務のために覚醒時間が長い、浅眠といった状態になると、交感神経が優位になる時間が長くなります。これによって、慢性的に血圧が高い状態が続き、高血圧を発症しやすいとされています。

がん

WHOの専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、“サーカディアンリズムを乱す交代勤務”には「発がん性がおそらくある(発がん性リスクグループ2A)」と発表しています。実際に、午前0時以降の勤務帯を含んで交代している看護師はそうではない看護師に比べて約2倍乳がんを罹患しやすい*1、交代勤務者は常日勤者に比べて3倍前立腺がんを罹患しやすい*2などの研究結果があります。

ちなみに、発がん性リスクグループ2Aというのは、子宮頸がんに対するヒトパピローマウイルスと同じ分類です。このことから、サーカディアンリズムの乱れがいかに悪性度の高い夜勤の弊害であるかということがわかります。

心血管疾患

交代勤務をしている人は、前述した肥満・糖尿病・高血圧に加えて、内臓脂肪や脂質代謝異常も多いといわれています。これらの要因によって動脈硬化が進行し、心血管疾患のリスクが上がるのです。実際のデータとしては、交代勤務者はそうではない人に比べて心血管イベントの発生率が約23%高い*3、というものがあります。

うつ病

うつ病の原因は様々ですが、交代勤務をする人はそうではない人に比較して、うつ病を罹患する割合が高く、交代勤務を継続する期間が長いほどその割合は増加する*4という報告があります。このことから、慢性的な睡眠不足自体が、うつ病を引き起こす危険因子の一つであるとされています。

不妊

サーカディアンリズムの乱れと睡眠不足は、女性ホルモンのバランスを崩し、月経周期を不規則にするリスクが高まります。また、生活時間も不規則になることで、タイミング療法が難しいこともあり、妊娠しにくくなると考えられています。現時点ではまだ信頼できる研究結果が少ない状況ではありますが、交代勤務をしている女性は妊娠率が低い可能性が指摘されています。

流早産

妊娠中に夜勤を継続することは、流早産のリスクを高めます。それにもかかわらず、妊娠中に夜勤を免除されている看護師は約5割に過ぎない*5という報告があります。そして、看護師の「切迫流産・早産経験率」は37.4%で、働く女性全体の27.5%を大きく上回り、調査対象の職業中最多*6となっているのです。

 

健康で看護師を続けるために、夜勤リスクへの対策を!

このように夜勤には健康を害する様々なリスクが存在しています。だからといってすぐに夜勤をやめるのは難しいことが多いと思います。そして、夜勤をする人がいなければ、患者さんの安全安心が守れません。大切なのは、夜勤のリスクを理解した上で、少しでも心身への負担を軽くできるように対策を講じることです。可能な限り日勤のときの生活リズムを守り、とにかく眠れるように工夫することで、健康を守っていきましょう!

 

参考文献

*1 看護師の夜勤・交代制勤務に関するデータ|日本看護協会
*2 交替制勤務者の前立腺がんリスク|JACC Study
*3 夜勤や当直は心筋梗塞や脳梗塞の原因に!?カナダで調査|医療NEWS(2012年8月6日)
  交代勤務で血管イベントが増加、200万人以上の国際的メタ解析|Care Net(2012年9月7日)
*4 分子精神医学 Vol.5 No.1 2005「気分障害における睡眠異常とその治療」(亀井雄一氏、国立精神・神経センター国府台病院精神科)
*5 妊娠時の看護職員、夜勤免除は5割 人手不足背景|朝日新聞DIGITAL(2017年9月21日)
*6「働く女性の「4人に1人」が流産を経験 「妊娠経過が順調」は3割にすぎず|弁護士ドットコムニュース(2016年2月24日)

この記事を書いたのは

美沢 藍 総合病院看護師・大学院進学・看護大学教員を経て、現在は育児をしながらライターとして活動中です。いくつかのジョブチェンジを経験して感じているのは、看護師としての働き方には様々な選択肢があることと、自分に合った道を追求する大切さ。

イラスト・k.nakano

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