看護師になるためには欠かせない、臨地実習。とても多くの学びや感動が得られますが、とにかく辛かったという方も多いのではないでしょうか。その辛さのうち大部分を占めるのは、指導者である看護師とのかかわりだといわれています。今回は、控えた方が良い看護師の対応と学びをサポートするための方法について考えてみます。
学生を苦しめる看護師の特徴
ほとんどの学生は、先輩看護師が怖い!と思っているのではないでしょうか。看護では患者さんの安全がなにより大切なので、それが脅かされるような場面では厳しい指導も必要です。しかし、学生が萎縮し、学ぶことへの意欲やチャンスを失ってしまうような関わりは避けるべきです。
学生の能力以上のことを要求する
臨地実習には様々な種類があり、それぞれに実習目標が異なります。また、同じ実習目標に向かう学生であっても、習得のスピードや達成度には違いがあります。そのことを十分に理解せず、その学生にとって過剰な要求をすると、学生は追い詰められてしまいます。そして、できないながらもその要求に応えようとすることで、本来の実習目標を達成できなくなる場合もあります。
例えば、患者さんとのコミュニケーション能力を身につけるための基礎実習で、術後の患者さんの観察ポイントを挙げてくるように要求するのは、学生の能力を超えています。
ネガティブなフィードバックしかしない
学生が考えてきたことについて、明らかな間違いがあれば訂正すべきですし、よりよい方法があればアドバイスするに越したことはありません。ですが、学生が努力した部分を認めずに、「これが足りない、あれも足りない」と指摘する・行ったケアについてうまくいかなかった点のみをフィードバックするというのは、学生のやる気を削いでしまいます。
忙しい・不機嫌などの理由で話しかけにくい
看護師が忙しくてバタバタしている・声を掛けたときに迷惑そうな反応をするなどで、相談や報告がしたいのに話しかけられないことも、学生を困らせます。そして、患者さんに何か頼まれたのに看護師に確認できないために実施できないなど、学習のチャンスを失ってしまう場合もあります。また、患者さんの観察結果の報告がなかなかできず、必要な対応が遅れてしまうなどの危険もあります。
学生への態度として心掛けるとよい4つのこと
筆者は以前、実習指導者に関する研究をしていました。その結果として、学生をうまくサポートできる看護師には以下のような共通点があることがわかりました。そして、その人たちが心掛けていることは、「とにかく厳しくされていた自分の頃とは違うと認識すること、学生の力を信じてスタッフの一員として歓迎すること」でした。
学生の個別性を意識して指導をする
実習目標をよく理解するのはもちろんのこと、個々の学生について「今何ができるのか・どこを目指すのか」に即した指導を行えるとベストです。そうはいっても、指導の担当者は日々変わることもあるので、学生のことをしっかりアセスメントするのは難しいかもしれません。そのため、学生の状況について教員と情報交換し合い、また学生本人にも確認しながら指導するのが効果的です。
大切なのは、看護師である自分がここまできてほしいと思うラインではなく、その学生自身が望む・到達できるラインを目標にすることです。
まずはできていることを認めた上で、改善点をアドバイスする
学生が考えてきたことについては、まずどんなことでも一つ褒めてみましょう。それを探すのはかなり苦しいこともあるかもしれませんが、「(内容はさておき)見やすく書いてあるね!」でもいいのです。その上で不足点や改善点についてアドバイスすると、学生は否定された感覚が少なく、落ち着いて話を聞けるようになります。
自分から学生に声を掛ける
もし、「挨拶や報告は学生の方からすべき」という考えがあるなら、残念ですが期待するのをやめましょう。学生は、臨床という場にいるだけで緊張しています。その状況を思いやり、自分から学生に声を掛けることができれば、それだけでも学生の学びをサポートしていることになります。それによって学生は、安心して学習に集中できるからです。
ちなみに学生は、「学生さん」ではなく「○○さん」と名前を呼んでもらえると、とても嬉しいそうです。また、学生が話し掛けてきたときに忙しくて対応できなければ、急ぐ要件かどうかだけでもきく、それも難しければどの程度待っていてほしいかを伝え、一段落したら声を掛けることを約束するとよいでしょう。
とにかく実践できるようにフォローする
学生の行動計画をみたとき、その内容が薄すぎて「これでは準備不足だからケアをさせられない」と言いたくなることもあるでしょう。もちろん、患者さんの安全が脅かされるような場合には、それが致し方ないこともあるかと思います。
ですが、自分が一緒に行うことで安全は守れるというときには、ほんの一部でも学生自身がケアできるように、フォローしながらやってみてほしいのです。看護には、そのときにしか体験できないことが多々あるので、学生が学習のチャンスを逃さないように、ちょっとした気遣いをすることが大切です。
学生は将来の仲間!ウェルカムモードで実習を受け入れよう
多忙な日常業務に加えて実習指導をすることはとても大変で、負担感しかないという場合もあるかと思います。ですが、そうして人材を育てていかないと、いつまでも楽にならないというのも事実です。実習指導をすることは、学生に説明するために自分の知識を再確認する機会にもなります。
また、学生ならではの斬新なアイデアにハッとさせられたり、その純粋さに触れて初心を思い出したりするなどのよさもあります。「学生さんいらっしゃい!」という雰囲気で実習を受け入れられれば、学生は頼もしい仲間になるかもしれません。
この記事を書いたのは
美沢 藍 総合病院看護師・大学院進学・看護大学教員を経て、現在は育児をしながらライターとして活動中です。いくつかのジョブチェンジを経験して感じているのは、看護師としての働き方には様々な選択肢があることと、自分に合った道を追求する大切さ。
イラスト・k.nakano