介護施設に転職を考えている看護師にとって、「介護施設での仕事内容は?」「実際のところ、病院よりラクなの?」「お給料は?」など知りたいポイントはさまざまです。今回は、そんな介護施設にまつわる疑問を具体的に解説します。
介護施設で働く看護師の実態
介護施設というと、「のんびりしてそう」「給与が安い」などのイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。意外と知られていない介護施設看護師の実態とは…?
看護師の「判断力」「対応力」が試される
介護施設には、医師が常駐している施設とそうでない施設がありますが、一般的には急性期の病院のように医療設備も整っていません。そのような環境で、入居者の様子がいつもと違うとき、看護師は「急を要する状態か、様子観察で良いか」「病院につれていくべきかどうか」といった判断を求められ、自分の判断が入居者の健康状態を左右するというプレッシャーを感じます。また、日頃から入居者のわずかな変化を察知して、早めに対応するスキルも必要です。
「病院ではこうやっていた」は通用しない
「医療」が中心の病院では、注射や医療機器を扱うことが多く、そのような仕事こそ「看護師の花形業務」と考える人も多いと思います。
一方で、介護施設は「生活」が主体です。スタッフの多くは介護職で、入居者の日常生活を支えることが業務の中心となります。病院で当たり前に行ってきたことが介護施設では通用せず、「病院でバリバリやってきた」という自信が崩れ去るかもしれません。
コミュニケーション不足から、ときには介護職と対立することも
医療と介護は「人間を相手にする」という点では同じですが、そもそも「対象を見る視点」が異なります。看護師はどちらかといえば医療的な視点で入居者を見ますが、介護職は自立支援を重視します。そのため、情報共有が不足していたり、相手の職業的視点に配慮が足りなかったりすると、ケアの提供方法を巡って看護・介護で意見が対立することも。
給与は施設や勤務形態によってさまざま
一般的に介護施設の給与は病院に比べて低いと言われています。平成31年度版の日本看護協会の要望書*1によると、その給与総月額(フルタイム勤務・正職員)の差はおよそ4〜7万円となっています。しかし、有料老人ホームなど施設によっては、医療ニーズが低いのに高給与・ほぼ残業なしという施設もあります。
介護施設看護師の役割とは?
実際に、介護施設で働く看護師はどんな仕事をしているのでしょうか?
入居者の健康管理
バイタルサイン測定や全身状態の観察を行い、健康上の問題がないか判断します。また、それらの情報を他職種(介護職・理学療法士・相談員など)と共有し、入居者のケアに役立てます。必要があれば施設医や主治医に報告したり、病院受診の付き添いをしたりします。
医療的ケア
経管栄養・胃瘻管理・褥瘡処置のほか、施設によっては喀痰吸引・酸素吸入・点滴を行います。また、転倒による受傷や出血の応急処置をすることも介護施設ではよく見られる光景です。
服薬管理
入居者の薬を一括管理して与薬したり、在宅復帰を目指す利用者・家族に服薬指導を行ったりします。
日常生活の援助
介護職とともに体位変換をしたり、食事・排泄の援助をしたりします。入居者の健康状態を把握するためには、日々の生活援助も大切な看護の仕事です。
他職種とのミーティング、ケアプランの立案
看護師がアセスメントした健康上の問題をケアプランに反映させるため、介護職や相談員と定期的にミーティングを行います。
看取りのケア
人生の最終段階にある入居者やその家族に対して、安全で安楽な生活を送れるよう配慮するとともに、最期のときをどのような形で迎えたいか具体的な希望を伺ったり、亡くなられた際のエンゼルケアを行ったりします。
ほかにも、病院と同様、看護内容の記録や入居者の安全管理、感染症対策、レクリエーションへの参加、在宅復帰する方の退所支援、家族面談などさまざまな仕事があります。
介護施設で働くメリット・デメリットとは?
◎メリット1:残業が少なく、施設によっては夜勤なし
まったく残業がないわけではありませんが、よほどのことがなければ定時退勤が可能です。また、施設によっては夜勤なしというところもありますので、子育て中のママ看護師やワークライフバランスを重視したい人にとっては働きやすい環境と言えます。
◎メリット2:じっくりと看護ができる
介護施設は長期入所される方がほとんどなので、入居者とじっくり関わることができます。また、病院とは違う環境に身を置くことで、自分の看護を見つめ直すきっかけにもなります。
◎メリット3:入居者からの学びが大きい
人生の大先輩である入居者やその家族から学ぶことはたくさんあります。多くの高齢者を通して、さまざまな人生経験や死生観に触れられるのは介護施設ならではです。
◎メリット4:介護に関する知識・スキルが身につく
病院ではあまり触れることのない、介護保険制度や地域包括ケアシステム、高齢者看護や認知症看護について深く学ぶことができます。
×デメリット1:想像以上に体力を使う
施設によっては看護師も体位変換や入浴介助を行うため、肉体労働がハード、という職場もあります。
×デメリット2:転倒・転落事故が多く、その対応に時間を取られる
入居者のほとんどが高齢であり、原則として身体抑制が禁止されているため、病院に比べると転倒・転落事故の多さに驚きます。ケガをした・頭を打った・痛がっているなど、状況によっては病院受診の必要があるため、その対応や家族への連絡に時間を取られて残業…ということも。
×デメリット3:プレッシャーが大きい
介護施設では、看護師の判断力が入居者の健康状態を左右することがあります。それを「やりがい」と捉えるか、「荷が重い」と捉えるかによっても違いますが、多くの看護師はプレッシャーを感じることでしょう。
一度は介護施設で経験を積んでおく価値あり
職場によって、雰囲気・仕事のやり方・スタッフの考え方はさまざまです。病院と介護施設それぞれに求められる看護師の役割があり、どちらが優れている・劣っているということもありません。ただ、時代の流れは「病院での治療」から「在宅でのケア」に移行しつつあり、高齢者ケアに注目が集まっています。看護師として介護施設で働くことは、看護師人生において貴重な経験となるでしょう。
参考・引用文献
*1 平成31年度予算編成に関する要望書(日本看護協会、2018年4月)
この記事を書いたのは
遠藤 愛 看護師として約13年間病院勤務。病院時代、高齢患者と家族の介護問題に直面したことをきっかけに、介護老人保健施設・訪問看護に従事。現在は看護師の知識と経験を活かし、ライターとして活動中。
イラスト・k.nakano