まもなく本番を迎える第114回看護師国家試験。今回は直前に迫ったこの時期にチェックしたいポイント、出題が予想される問題の特徴を必修問題に絞って紹介します。受験当日までのラストスパートとしてぜひ勉強に役立ててください。
はじめに
看護師国家試験の出題基準は、社会の変化や看護を取り巻く状況を踏まえて改定が重ねられています。直近では令和5年版として2022年3月に改定されました。改定の内容は、看護対象が生活する場の多様化により、看護の役割が拡大したことに合わせたものとなっています。
2025年に行われる第114回看護師国家試験は、令和5年版の出題基準となってから3回目の試験です。ここでは近年の必修問題の出題傾向と、直前に深めて欲しい学習内容について解説します。
【必修問題 編】出題基準の目標とそれぞれの出題予想
令和5年版の出題基準の「必修問題」には、下記4つの目標が示されています。
目標Ⅰ.健康および看護における社会的・倫理的側面について基本的な知識を問う。
目標Ⅱ.看護の対象および看護活動の場と看護の機能について基本的な知識を問う。
目標Ⅲ.看護に必要な人体の構造と機能および健康障害と回復について基本的な知識を問う。
目標Ⅳ.看護技術に関する基本的な知識を問う。
ここから、各目標が示すことやそれに該当する問題内容、出題が予想される問題例を紹介します。
目標Ⅰの出題予想
目標Ⅰをわかりやすくいい換えると「日本における健康課題に対して看護師がどう向き合うかについて出題される」と考えればよいでしょう。
日本は少子高齢化が進行し、社会保障費(医療費、年金など)が増大しています。国は国民の負担を減らすために、社会保障費の削減に向けての取り組みを強化しています。地域包括支援システム(在宅療養中心の仕組み)の構築、健康増進や予防医学などの一次予防を重視する動きはその取り組みの一部です。
看護師も日本における健康課題を理解し、医療チームの一員として倫理的な態度をもって業務にあたる必要があります。そのため、看護師国家試験でも例年「健康に関する指標(総人口、年齢別人口、世帯数、死因の概要、平均寿命など)」、「食事と栄養(国民健康栄養調査)」、「職業と健康障害」、「保健師助産師看護師法」に関する問題が頻出しています。
第113回では少子化に関連する指標である生涯未婚率や合計特殊出生率について出題されました。また、新型コロナウイルス感染症の流行以来、感染対策など公衆衛生に関する問題も必ず出題されています。そのほか、日本を経済的に支える労働者のための法律ともいえる「労働安全衛生法」についても重要度が増しています。
第114回以降も同様の傾向を示すと思われるので、日本の健康課題を念頭に、上記の保健統計や法律の動向は必ず押さえておく必要があるでしょう。
目標Ⅰのポイントまとめ
傾向は例年と大きく変わらないと予想!例年の頻出問題や第113回で出題問題を見直そう
例年の頻出問題
- 健康に関する指標
- 国民健康栄養調査
- 職業と健康障害
- 保健師助産師看護師法
- 感染対策
第113回で出題された問題
- 少子化に関する指標(生涯未婚率、合計特殊出生率)
- 労働安全衛生法
目標Ⅱの出題予想
目標Ⅱのメインは「人間の特性」や「人間のライフサイクル各期の特徴と生活」に関する問題です。例年、エリクソンの発達理論や、ハヴィガーストの発達課題理論(とくに新生児期・乳幼児期の身体の発育、思春期の第二次性徴、老年期の身体の変化など)などが問われています。暗記的要素が大きい部分ですが、必修問題だけでなく一般問題を解くうえでも必要な基礎知識です。あまり後回しにせず、完璧に仕上げておく必要があります。
また看護活動の場の拡大や多職種との連携の必要性によって、病院・訪問看護ステーション・介護施設等の役割や、チーム医療についていくつか出題されます。実習での体験を思い出しながら、過去問に取り組んでみてください。
目標Ⅱのポイントまとめ
人間の特性・人間のライフサイクル各期の特徴と生活に関連する内容は暗記する!
看護活動の場と機能・役割について復習しておく
目標Ⅲの出題予想
目標Ⅲをわかりやすく説明すると「医学に関する知識について出題される」ことを示しています。目標Ⅰ・Ⅱ・Ⅳよりも、Ⅲを苦手とする受験生は多いようです。
これまで、「人体」に関する問題は、神経系、循環器系、血液・体液、消化器系、内分泌系が多く出題されていました。「疾患」に関しては近年感染症が際立って多く出題され、次いで生活習慣病の順です。「徴候」では貧血と不整脈が頻出問題で、次いで尿量の異常、チアノーゼ、黄疸、呼吸困難、便秘、浮腫などが出題されています。
「薬物」については、患者さんの生活の場が多様化し、看護師主導での薬物管理や指導の機会が増えたため、より重視されています。これまで狭心症治療薬(ニトログリセリン)や、副腎皮質ステロイド薬、精神疾患治療薬、抗がん薬、強心薬について出題されてきましたが、今後はその管理も含めてしっかり対策する必要があるでしょう。
苦手な目標Ⅲでも、しっかり得点したい人には、「循環器系(脳血管含む)」と「自律神経」について深めることをおすすめします。筆者が調べたところ、循環器系に関連する問題は必修問題の3~4割を占めます。調節中枢である延髄や、延髄と心臓、血管をつなぐ自律神経、自律神経を調節する薬剤などと広げていくと、多くの必修問題の対策から一般・状況設定問題への応用まで可能です。
ここでは第113回の循環器に関する必修問題を紹介しましょう。
上行大動脈から分岐するのはどれか。
1.冠状動脈
2.腕頭動脈
3.左総頸動脈
4.左鎖骨下動脈
(第113回 午後No.11)
解答・解説はこちら
正解は「1」です。
左心室から出る大動脈は上行大動脈、大動脈弓、胸部大動脈、腹部大動脈と名前を変えながら、脊髄の前を下降します。大動脈から分岐する血管を「栄養血管」といい、各臓器に栄養や酸素を運んでいます。心臓から出た大動脈からすぐに分岐する栄養血管が冠状動脈です。次の分岐が腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の順で、これらすべては脳を栄養します。
心臓に近い臓器ほど、生きていくうえで重要で、その順番は「心臓→脳→肺→肝臓→腎臓」の順です。それぞれの臓器の栄養血管について学んでおけば、一般問題の「人体の構造と機能」にも対応できます。
また、大動脈弓や総頚動脈の分岐である内頸動脈には、血圧を見張り、延髄に知らせる「圧受容器(血圧センサー)」が存在します。これも一般問題の「人体の構造と機能」で出題される内容で、延髄は血圧センサーからの情報をもとに自律神経によって心臓や血管に血圧を調節させます。
こうした仕組みがわかると、血圧が急激に低下する「ショック」への理解が深まります。また国民病といわれる高血圧症や、死因の上位にある心不全、虚血性心疾患、脳血管障害への応用にもつなげられるでしょう。
目標Ⅲのポイントまとめ
各項目で”とくに”出題されやすい内容を中心に勉強しよう!
- 人体の構造と機能:脳血管を含む循環器系、神経系(とくに自律神経)
- 疾患:感染症、生活習慣病
- 徴候:貧血、不整脈
- 薬物の作用とその管理:薬物の管理方法
目標Ⅳの出題予想
目標Ⅳでは、「看護技術の基本知識(情報収集・アセスメント、日常生活援助、診療の補助技術など)」の問題が出題されます。「看護における基本技術」では、フィジカルアセスメントの出題数が近年圧倒的に多くなっています。次に看護過程の情報収集やアセスメントに関する問題もよく出題されます。
「日常生活援助技術」では、実習ではなかなか経験できない浣腸や導尿のほか、実習での経験の多い誤嚥の予防や寝衣交換、体位管理、移動・移送、ボディメカニクスなどが頻出問題です。「患者の安全・安楽を守る看護技術」については、コロナ禍以降、標準予防策のほか、感染経路別の予防策や手指衛生、防護用具について多数出題されています。今後もこの傾向は続くでしょう。
「診療に伴う看護技術」では、与薬や副作用の観察、採血方法、褥瘡予防・処置、経管・経腸栄養、気管内吸引、胸骨圧迫、トリアージなどの問題が頻出しています。過去問を研究していると、輸液ポンプやシリンジポンプ、包帯法の問題も出てきますが、現在の出題基準からは削除されています。
目標Ⅳのポイントまとめ
全体の傾向は例年と大きく変わらないと予想!
看護における基本技術では、とくにフィジカルアセスメントが頻出!
おわりに
近年の看護師国家試験の「必修問題」では、少子高齢化、国民医療費の高騰、地域包括支援システム、一次予防、感染対策などの言葉で示されるような社会の変化を反映しています。しかし、こうした社会の動向にあまり左右されない問題も多く出題されているのが実情です。それが目標Ⅱに該当する人間の特性に関わる問題や、目標Ⅲに該当する医学に関する問題にあたります。これらが看護師国家試験における王道問題であり、そのなかでもとくに「循環器系」を深めることは、必修以外の問題の応用にもつながるため、しっかり理解を深めておくことが重要です。