長時間労働による医師の疲弊激しく
医療現場における人材不足が問題とされて久しいが、その状況は過酷さを増している。
病院勤務医や看護師らの職場環境は、もはやブラック企業化しているといっても過言ではない。
日本医師会が2008年度に実施した調査によると、医師の睡眠時間は1日5時間未満が9~10%、6時間未満が41~44%、さらに死や自殺について、1週間に数回以上考えていたと答えた医師が6%にも上ったという。
しかし、同僚医師の目を気にしたり、弱いと思われたくないといった理由から、半数を超える53%が、自分の体調不良について、周囲には全くもらしていないことが分かった。
長時間労働となった際も「超勤簿に45時間以上と書くと病院長から呼び出されるので書けない」といった声や、連続勤務で集中力が低下し、注意散漫となっており「医療事故が起こりやすい状態となっていることが自分でもわかる」と危機感を抱く声など、深刻な状況が報告されたという。
看護師も同様の過酷な環境
こうした状況は看護師においても同様にみられ、日本看護協会の2011年度における調査では、看護師1人あたりの月間夜勤時間は80時間超が17.3%、72時間超が31.9%と、ここまでで半数近くを占めている。
離職理由でも、夜勤の負担の大きさや超過勤務の多さが目立っている。
厚生労働省の試算によると、高齢化社会が進むなか、ピークを迎える2025年に必要な看護師数は、195~205万人とされているが、2011年の日本の看護師数は141万人で、約60万人の増員が必要となっている。
このままでは過酷さが増すばかりであり、新規の採用を増やすだけでなく、就労環境を改善することで離職を防ぎ、十分な人材を確保することが急務の課題となっている。
患者などからの暴言やセクハラ被害も多数
医師や看護師を悩ませているのは、労働時間ばかりではない。
近年、患者やその家族などから、暴言や暴力、セクシャルハラスメントにあたる行為を受けたといった被害も多い。
先日発表された、東京都内の私立大学病院で構成される私大病院医療安全推進連絡会議の11年12月における調査の結果によると、過去1年に暴言をうけた経験のある職員は41.5%で、暴力を14.8%、セクシャルハラスメント行為を14.1%の職員が受けていたことが判明した。なかには深刻な危険を感じたケースもあったという。
課題は多数……医療崩壊を防げ!
こうした労働環境を改善しようと、関係団体も工夫を重ねている。
日本医師会は2008年、勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会を発足させ、啓蒙活動を展開しているほか、病院産業医に対する健康支援研修、都道府県医師会での職場環境改善ワークショップの開催も行っている。
日本看護協会も都道府県単位でのワークショップを実施しているほか、今年3月には「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」を発表。
勤務間隔の下限を設けるほか、連続拘束時間の限定、夜勤は2連続までとするなど、具体的に明文化して環境改善を図っている。
過酷な労働環境を改善するためには、まず十分な医師数、看護師数の確保が欠かせない。
加えて、チーム医療と労務管理の改善で、雇用の質を向上させ、安定的に働ける場とすることが求められる。
患者やその家族と医療従事者とのコミュニケーションにおいても、社会全体で考えていかねばならない。
課題は多いが、いずれも医療事故を防ぎ、安心して頼ることのできる医療環境を保つため、急務として取り組む必要がある。
医療へのニーズが高まるなか、社会全体で医療崩壊を防ぐことを真剣に考えるべきだろう。
(株式会社エスタイル)