• 公開日: 2009/4/1
  • 更新日: 2020/4/30

【連載】この人に聞く 訪問看護のいま・みらい

訪問看護の裾野を広げる事業所支援を目指す|一般社団法人 全国訪問看護事業協会

訪問看護師が不足しているという現状にあって、その増加には安定して働ける訪問看護ステーションが必要です。訪問看護事業所を支える活動をしている一般社団法人全国訪問看護事業協会において副会長を務める上野桂子さん、同常務理事の高砂裕子さん、同事務局長の清崎由美子さんに、事業所が置かれている状況と同会の取り組みについてお話をうかがいました。


訪問看護ステーションは新規届出数の半分にあたる数が廃止に

高砂裕子、上野桂子、清崎由美子

左から、高砂裕子常務理事、上野桂子副会長、清崎由美子事務局長


 全国の訪問看護ステーション(以下、ステーション)は、2019年4月時点で1万1161カ所(本会集計)を数え、増加傾向にあります。ただし、新規届出がある一方で廃止になるステーションもあり、1年間の新規届出数の約半分にあたる件数が廃止となっています。そのため、ステーション数は、新規届出数の分がそのまま増えるわけではなく、推移は緩やかなものにならざるを得ません。
 
 リハビリスタッフや事務職員などを含めたステーション従事者は、全国で約9万3000人、うち訪問看護師は6万3000人です※1。1ステーションあたり従事者の平均は7.1人で、そのうち訪問看護師は5.0人となります(いずれも常勤換算)※1。

 このようにデータでみていくと、訪問看護体制はある程度充足されてきているように感じられます。しかし、2025年に向け国が目指している訪問看護師数が12万人であることを考えると、その到達にはまだまだ遠いことがわかるでしょう。もし、今後在宅での看取りをさらに増やしていくのであれば、12万人よりももっと多くの訪問看護師が必要になると思われます。これだけの訪問看護師を確保していくためには、ステーション数と就業者数の増加を加速させていくことが必要になってきます。


※1:厚生労働省「2017年介護サービス施設・事業者調査」より

大規模化の流れと機能強化型訪問看護ステーション

 ステーションの開設には、法人格を有すること、人員基準を満たしていること、設備・運営基準に従って適切な運営ができることなどの要件があります。その要件の1つである訪問看護師の数は、常勤換算で2.5人以上(常勤者1人が必要)となりますが、現実問題として、2.5人の職員で、ステーションのサービスが目指す24時間365日のケアを提供するのは厳しいものがあります。そのため、規模を大きくし、看護師数を増やすことで、ケアを十分に提供できるようにする流れになってきています。それは、マンパワーに余裕を生み出し、ケアの質向上、人材の育成、事業所の順調な経営につながっています。2017年の看護職員規模別でのステーション数をみると、3人未満が19.6%、3〜5人未満が42.7%、5人以上が37.6%となっています※1。
 
 しかし、やみくもに大規模化を図るというわけにもいきません。地域で表面化しているニーズは限られており、各ステーションがそれぞれにキャパシティを広げても、利用者が獲得できないという状況に陥る可能性も出てきます。ですから、大規模化と同時に多くの隠れたニーズを掘り起こしていく必要が出てくるのです。

 そこで注目したいのが「機能強化型訪問看護ステーション(以下、機能強化型ステーション)」です。これは2014年度の診療報酬改定で新たに評価されたもので、規程の常勤看護職員数(機能強化型1:7人以上、機能強化型2:5人以上、機能強化型3:4人以上)※2で、24時間対応できる体制があることや重症度の高い人の受け入れ、ターミナルケアの実施など、一定の条件を満たすことが要件となっています。より幅広くトータルな看護の提供が求められますが、多様なニーズへの対応が可能になります。さらに、居宅介護支援事業所や特定相談支援事業所を併設するなど相談機能をもつことで、地域住民に必要な情報提供をすることも考えられます。

 ある程度の規模を有するステーションは、特別養護老人ホームやグループホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、ケアハウスなどへの訪問看護を行っているケースも増えてきています。

 そのほか、ステーションの活動の場としては、2012年度から制度化されている看護小規模多機能型居宅介
護(2015年に複合型サービスから名称変更)も挙げられます。ステーションが通所介護、ショートステイ、訪問介護と連携しながら訪問看護を提供しています。


※1:厚生労働省「2017年介護サービス施設・事業者調査」より
※2:常勤看護職員数については、2020年診療報酬改定により、機能強化型1と2の1名については非常勤看護職員の実労働時間の常勤換算でも可能になる

管理者自らで自事業所を評価できる「自己評価ガイドライン」

上野桂子

訪問看護事業所の現状と今後について語る上野さん



 現在事業所が置かれているこのような状況を受け、本会ではその運営を支援する取り組みを行っています。
 
 事業所を適切に運営していくためには、まずは自らがどのような事業所であるかを知る必要があります。しかし、ステーションにはそういった第三者評価は義務付けられていません。そこで本会では、ステーションが自らを客観的に評価できるツールとして「訪問看護ステーションにおける事業所自己評価のガイドライン」を作成しています(2014年第1版、2018年第2版)。
  1. 事業所運営の基盤整備
  2. 利用者等の状況に応じた専門的なサービスの提供
  3. 多職種・多機関との連携
  4. 誰でも安心して暮らせるまちづくりへの参画
  5. 指標

 これら5つの枠組みのもと、42の標目と49の評価指標によって自己評価し、その過程でこれからの訪問看護に求められる役割や方向性を確認できるようになっています。また、このガイドラインでは「自己評価Webシステム」が構築されており、ウェブ上で簡便に評価することも可能です。
 
 ステーション管理者には、ぜひこのガイドラインを活用して定期的評価を行い、自らの事業所の運営がどのように変化しているかを把握してほしいと思います。自事業所のこれまでのそして現在の歩みを、管理者には立ち止まって見直す機会が必要です。事業所の成長や新たな課題に向き合うことは、事業所の質の向上につながります。管理者だけでなく、職員とともに評価すれば、自信にも結びつくでしょう。

管理者を育成することがステーションを増やす

高砂裕子

協会が主催している研修会について解説する高砂さん



 職員教育を課題とする事業所も少なくないなか、本会では、教育の機会として活用できる研修会も主催しています。年間12種類の研修会を東京や大阪で実施。多くの皆さんに参加していただいています。

 特に力を入れているのが管理者を対象にした研修です。訪問看護ステーションの運営について具体的に学ぶ機会は多くはありません。本会では、新たに管理者となる人に向けた「訪問看護新任管理者研修会Ⅰ・Ⅱ」、管理者経験のある人向けの「訪問看護管理者養成研修会」「訪問看護管理者養成研修フォローアップ研修会」を開催しています。「訪問看護新任管理者研修会Ⅱ」は2019年度から新たに設けたもので、研修会Ⅰで基本を学んだ後、より実践的な知識が得られるようにしました。新任管理者研修会から(現任)管理者研修会まで、段階的にステップアップできるよう考えています。

「訪問看護管理者養成研修会」は、10日間の日程で、9・10・11月に行われますが、同じ立場の人同士がディスカッションを重ねる場にもなっています。ここで、参加者は自らの意識を高め、自事業所のあり方を振り返り、これからどのように事業を地域に展開すればよいかを考える姿勢を身につけていくようです。優れた管理者を育成することで、ステーションの適切な運営を支え、ステーション数の増加に結びつたいと考えています。

“見える化”によって訪問看護への理解を広めたい

清崎由美子

訪問看護の“見える化”について語る清崎さん



 地域の人たちに、ともすれば医療機関に勤務する看護師にも、訪問看護の認知度は十分に理解されているとはいい難いように思います。本会では、この状況を解消し、多くの人に訪問看護を理解してもらえるように考えています。理解が広まることは、必要な人に訪問看護を適切に届けることにもつながります。そのためには、訪問看護がどのようなものか“見える化”を図ることが重要です。本会のような団体をはじめ、訪問看護に携わる人自身も積極的に情報を発信していくことが必要になるでしょう。
 
 その一環として、2020年度には特定行為研修を修了した訪問看護師の追跡調査を行い、そのケアの様子や効果を伝える取り組みを予定しています。訪問看護師の働きの実際を伝えることで、社会・地域の訪問看護への理解を深め、さらに既卒看護師や看護学生が関心を強め将来の選択肢の1つにしてもらえるようになればと考えています。

看護の視点を豊かにしてくれる訪問看護

 利用者と1対1でじっくりとかかわれるのが訪問看護の魅力の1つです。また、それぞれの看護師の創意工夫によって、よりよいケアが生まれるという楽しさもあります。そして、利用者の人生に触れることが、自分自身の人生も豊かにしてくれます。
 
 訪問看護師の多くが「訪問看護に携わると、看護師としての視点が変わる」と言います。生活者としての視点が加わるのです。それは、仮にその後で医療機関勤務に戻ったとしても、貴重な経験として退院支援などに生かすことができます。自分のキャリアプランを考えるとき、訪問看護をステップの1つに加えてみてください。ためらわずに、まずは体験してほしいと思います。


協力:一般社団法人 全国訪問看護事業協会

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