• 公開日: 2025/5/26

【保健師監修】産業保健師になるには?新卒・中途採用のメリット、初任給、年収、待遇、福利厚生まで徹底紹介

従業員の健康を支援する産業保健師の役割

産業保健師は、企業で働く従業員の健康維持・増進を目的とした業務を担います。その業務は多岐にわたり、従業品一人ひとりへの個別対応から企業全体の従業員の健康管理までを幅広く担います。

たとえば健康診断の実施、健康相談、保健指導、ストレス対策などをさまざまな施策と取り組みを通して、従業員の健康を支援していきます。

産業保健師の具体的な業務内容については、下記の記事もご覧ください。





さて、この記事ではまず、産業保健師の役割に焦点をあててみていきましょう。

従業員の健康推進と疾病予防

産業保健師は、従業員の心身の健康を保ち、疾病の発症や重症化を予防するという役割を担っています。具体的には、健康診断や保健指導、健康教育プログラムの実施などを通した従業員の健康意識の向上と行動変容の支援や、職場環境の整備、働き方の改善提案などがあります。また、各種感染症対策などを通してインフルエンザなど季節性のある疾患を予防することも重要な役割のひとつです。


また、疾病の発症や重症化を予防することで、プレゼンティーズム(出勤しているが健康問題によって生産性が低下している状態)やアブセンティーズム(健康問題によって欠勤や遅刻・早退している状態)の予防・解消につながるため、それに伴う企業の生産性維持への貢献も役割として期待されています。



産業医の負担軽減

産業医の役割は広範囲に及んでおり、産業保健師がその業務をサポートする重要性が増しています。健康診断やストレスチェックを実施するための事務処理、従業員との面談の調整、面談前の情報収集など、産業医が法的に求められる役割を十分発揮するための環境を整えるのも、産業保健師の役割です。

また、産業医と従業員の間に立ち、相談しやすい雰囲気づくりや情報の橋渡しを行うことで、信頼関係の構築を支援します。

健康経営の推進と人事労務担当者の負担軽減

従業員を重要な経営資源と捉え、戦略的に従業員の健康支援を行う企業の取り組みが健康経営です。産業保健師はこの推進役として、健康診断やストレスチェックなどのデータを活用した健康施策を立案・実施することで、社内の健康指標(高ストレス者率、喫煙率など)の改善に取り組みます。

また、人事労務担当者が行う健康関連業務(診断書などの健康情報の管理、休職者やメンタル不調者への対応など)に対して、産業保健師が専門的な助言や対応を行うことで、担当者の負担を軽減し、組織全体の対応力を高める役割も担っています。




産業保健師になるには?必要な経験とスキル

産業保健師には、PC作業などの実務的な処理を行うスキル、職場におけるコミュニケーション能力、健康データの分析など、多岐にわたるスキルが求められます。ここでは産業保健師に求められる経験とスキルはどのようなものかみていきましょう。

求められる臨床経験や業務経験は?

産業保健師を採用するとき、多くの企業が「病院や保健所などでの臨床経験が3年以上あること」「産業保健師としての職務経験が5年以上あること」など実務経験に関する条件を設定しています。これは従業員の健康状態を的確に評価し、必要な対応を判断するためには基礎的な医学的知識と臨床的な判断力が求められるためです。

特に有利とされるのは産業保健師としての職務経験です。また行政の保健師として働いた経験も評価されます。臨床経験としては、生活習慣病を扱う内科の外来や病棟での経験も評価されます。これらの経験は産業保健師としての業務に役立ち、早期の貢献が期待されます。

新卒入社と中途入社、それぞれのメリットは?

現在、産業保健師は、保健所での業務や産業保健師としての業務経験をもつ人が中途採用によって入社するケースがほとんどです。健康相談や保健指導などこれまで培った実務経験を活かして即戦力として活動できる点が強みとなります。

産業保健師の求人倍率は高く、非常に競争率の高い人気の職業といわれます。狭き門であるために、どうしても即戦力になりやすい経験者が優遇されてしまい、新卒入社がほとんどないという結果になっているようです。

ただし最近では、新卒入社を受け入れる企業も出てきています。新卒入社の強みは、新人であるため企業文化に早くなじみやすく、若いうちから社会人としての基礎を企業内で培えるのが利点です。また、柔軟な発想で新しい提案ができる点も評価されることがあります。



石田菜摘さん

COLUMN 「リモート産業保健」では新卒向け教育プログラムも整備


「リモート産業保健」※では、2024年度から新卒の採用を開始しました。社会人としてのキャリアを産業保健師から始めていただくことで、産業保健師として求められる仕事の向き合い方や考え方、業務マネジメントを柔軟に習得し、成長・活躍していただけることを期待しています。
また、これまで、産業保健師を新卒で採用しているのは産業保健師を社内で雇用している大企業が主でした。しかし、産業保健に対するニーズの変化を受け、産業保健サービスを提供する弊社でも新卒採用を行うことは時代に即した社会貢献であり、産業保健師を志す方にとってもキャリアの選択肢が広がると考えています。

「リモート産業保健」ではこれまでも中途採用にて未経験の保健師を採用していたノウハウを生かし、新卒の方に向けた教育プログラムを整備しています。教育プログラムでは、法律や実際の対応例などに関する知識をつけながら社内業務を習得できるよう設計されています。加えて、メンター制度を採用し相談しやすい環境や業務時間内の定期的な勉強会で知識をつけていただける環境を準備しています。

※株式会社エス・エム・エスが提供する遠隔による企業向け産業保健サービス


コミュニケーション能力やマネジメントスキルは?

産業保健師の業務では、従業員一人ひとりとの対話はもちろん、産業医や人事労務担当者、管理職との連携が非常に重要です。そのため状況に応じた柔軟な対応や、相手の立場を理解した上で適切にアプローチする「対人スキル」が不可欠です。

また、保健指導や面談では、相手にとって耳の痛い話をしなければならない場面もあります。そうした際に、相手の防衛的な反応を和らげ、納得感をもって行動変容につなげてもらうための傾聴力や理解力、わかりやすく説明する力や丁寧な話し方なども必要となります。手法としては、コーチングやティーチングスキル、認知行動療法の手法や健康行動理論などを知っているととても役立ちます。


健康施策の立案や実施においては、プロジェクトを企画し、組織の理解を得るプレゼンテーション力、スケジュール通り正しく進めるタイムマネジメント力など、マネジメントスキルも必要です。特に複数の部署と協働する場面では、調整役としてのスキルも欠かせません。

データ分析力とPCスキルは?

近年の産業保健の現場では、データに基づく判断や提案が強く求められるようになっています。健康診断結果やストレスチェックの集計、傾向分析などは、産業保健師が日常的に行う重要な業務です。

そのため、Microsoft Excelをはじめとした表計算ソフトの操作スキルは必須です。関数やグラフ機能を使ってレポートを作成したり、統計資料を読み解いたりする能力が求められます。また、最近では、健康管理をクラウド上で行うシステムの導入も進んでおり、新しいツールやシステムに柔軟に対応できるITリテラシーも重要視されています。


加えて、オンラインでの健康相談や保健指導、セミナー実施も増えているため、Web会議システムやチャットツールの活用スキルも欠かせません。テレワーク時代に対応した働き方を支えるためにも、こうしたPCスキルの強化は今後ますます重要となるでしょう。



石田菜摘さん

COLUMN さまざまな働き方が可能な「リモート産業保健」


「リモート産業保健」※では、衛生委員会サポートや看護職面談、メンタルヘルスをはじめとした研修、ストレスチェックの集団分析結果をもとにした組織改善提案など、サービスのほとんどをオンラインで行っているため、従事する看護職も産業保健に関するさまざまな業務をオンラインで経験することができます。
そのため、働ける時間や自分のキャリアとして強化していきたい業務によって、働き方や力を入れる業務を選択することも可能です。
働き方の一例を以下にあげてみます。
例1:継続的に働けるが時間が限られている場合(週に3時間など)
→都合の合う企業と業務委託契約を行い、担当看護職として毎月、複数の企業に対して主に衛生委員会や看護職面談を実施する

例2:精神科での勤務経験を生かしてメンタルヘルスに課題がある企業を継続支援していきたい場合
→未経験者として「中途入社枠」で入社し、産業保健師としての業務を習得しつつ、担当企業に対しメンタルヘルス研修を行う

例3 産業保健師としてとにかく多くの知識を習得し業務を経験していきたい場合
→「新卒枠」で入社し、衛生委員会や面談などの基本的なサポートを経験しつつ、徐々にメンタルヘルス研修や組織改善提案などにもチャレンジしていく

もちろん、産業保健に関する知識や経験、各種能力に応じてお任せすることになるため、成長意欲のある方にはチャンスも多くなります!

※株式会社エス・エム・エスが提供する遠隔による企業向け産業保健サービス




産業保健師の年収と待遇

産業保健師は、病院や行政機関で働く保健師とは異なる待遇や給与体系をもっています。詳しくみてみましょう。

産業保健師の初任給と平均年収

産業保健師の初任給は、企業の規模や業界、地域によって差はありますがおおむね月給20万円台前半からスタートすることが一般的です。特に大手企業では一般社員と同等の給与テーブルが適用されることも多く、行政や病院の保健師と比べて高めに設定されている場合も。

平均年収はおおよそ400万円程度で、経験を積むことでさらに上昇が見込めます。保健師資格に加え産業保健分野での実務経験やマネジメント経験があると、年収が600万円以上になるケースもあります。

また、ひとつの企業で常勤として働くのではなく、複数の企業と契約するフリーランス産業保健師という働き方もあります。収入は案件数や内容により大きく異なりますが、在宅での勤務が可能な場合もあり、自由な働き方が実現できるでしょう。

企業規模や勤続年数による年収の違い

企業規模は年収に大きな影響を与える要因のひとつです。上場企業や大手メーカーなどは待遇が手厚く、基本給だけでなく賞与や各種手当も充実しているため年収も相対的に高くなります。

一方、中小企業では保健師の配置自体が少なく、業務委託契約や非常勤の形での勤務が多い傾向があります。そのため時給制や業務ごとの報酬になることもあり、年収は200万〜300万円にとどまるケースも少なくありません。

福利厚生と勤務環境

産業保健師の魅力のひとつに、企業ならではの手厚い福利厚生があります。たとえば、以下のような制度が整っているケースが多くみられます。

  1. 完全週休2日制
  2. 定時退社を推奨する働き方改革の導入
  3. 年間休日120日以上
  4. 産休・育休制度の充実
  5. 健康保険・厚生年金・企業年金制度
  6. 社員食堂・保養所・社宅制度の利用可能
  7. 社員研修や自己啓発支援制度

また、医療機関と比べて夜勤や急患対応がないため、規則正しい生活が送りやすい点も大きなメリットです。特に子育てや介護と両立したい保健師にとっては、働きやすさという面でも非常に魅力的な職場といえるでしょう。



産業保健師の需要と将来性

健康経営やメンタルヘルス対策、柔軟な働き方の普及などを背景に、産業保健師の役割は多様化・専門化しており、今後の需要も拡大が予測されます。 産業保健師の将来性について詳しくみてみましょう。

企業の健康経営への関心の高まり

近年注目を集めているのが健康経営です。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」では、健康投資を戦略的に行う企業が評価・認定され、社会的信用の向上や人材確保の面でもメリットを得ています。

このような動きのなかで健康経営の推進役として期待されているのが産業保健師です。健康診断やストレスチェックの結果を分析し、職場ごとの課題を可視化することで、戦略的な施策の立案が可能になります。単なる健康相談員ではなく「企業の健康経営に関わる専門職」として存在意義が高まっているのです。

メンタルヘルス対策の重要性

令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、うつ病や適応障害など心の不調による休職者(1か月以上)や退職者がいた事業所の割合は10%を超えています。ストレス社会といわれる現代において、企業がメンタルヘルス対策に本腰を入れることは避けて通れません。

2015年に義務化されたストレスチェック制度により、企業内でのメンタルヘルス支援体制の整備が進む一方で、実施後の対応が不十分な企業もまだ多く存在します。ここで重要なのが産業保健師の専門的なサポートです。高ストレス者への個別面談や、組織的課題の抽出、管理職向けのラインケア※研修など、予防から対応までを一貫して担うことで、メンタルヘルス対策の質が大きく向上します。

メンタル不調による離職や生産性低下を防ぐためにも、産業保健師の果たすべき役割はますます拡大しています。

※ラインケア:労働者と日常的に接する管理者が心の健康に関して、相談したり業務改善に取り組むこと

産業保健師としてのキャリアパス

これまで産業保健師は「企業内のひとつの職種」として捉えられてきましたが、近年ではそのキャリアパスも多様化しています。たとえば一定の経験を積んだあと、企業内でリーダー的なポジションに就くケースも出てきています。また健康経営が注目されるなか、産業保健にかかわる組織自体も大きくなり、組織を統括する役割を担うケースも出てきています。


産業保健分野に特化したコンサルティング会社への転職や、フリーランスとして複数の企業と契約して働く道も選べます。専門性を高め、研修講師や執筆・監修といった情報発信の場で活躍する保健師もおり、自分の強みを活かした働き方が可能です。

こうした多様なキャリアパスは、今後の産業保健師の魅力をさらに高める要素のひとつといえるでしょう。

産業保健師の今後の勤務先の多様性

従来、産業保健師の主な勤務先は大手企業の健康管理室や製造業の工場内が中心でした。しかし現在では、企業の規模や業種を問わず産業保健体制の構築が求められており、働く場も広がっています。

中小企業においては、産業保健師を常勤で配置することが難しい代わりに、非常勤や業務委託といった形での勤務が増加中です。また、ICTの普及により、クラウド型の健康支援サービスを提供する企業では、リモートで離れた拠点から産業保健業務を行うという働き方も注目されています。

さらに、働き方改革やワークライフバランスへの意識の高まりにより、子育て中や地方在住の保健師にとっても、時間や場所に縛られない新たな就業スタイルが可能になってきています。


“医療+働き方支援”のプロフェッショナルへ

産業保健師は、企業のなかで従業員の健康を守り、働きやすい職場環境をつくるために欠かせない存在です。健康診断やストレスチェックなどの定型業務に加え、メンタルヘルス対策や職場環境の改善提案、健康経営の推進など、幅広い領域で活躍しています。

また、近年はICTの進化や健康経営への関心の高まりにより、産業保健師の役割はますます多様化しており需要も増しています。働き方の柔軟性や専門性を活かせる環境も整いつつあり、キャリアの選択肢も広がりつつあるのです。

医療職としてのスキルとコミュニケーション能力を活かし、組織に貢献しながら自分らしく働きたいと考える方にとって、産業保健師は非常に魅力的な職種です。今後もその重要性は高まり続けるでしょう。



石田菜摘さん

COLUMN さまざまな企業を経験してスキルアップしよう!


「リモート産業保健」※は、産業保健サービスのなかでも「産業看護職によるサポート」を提供していることが大きな特徴のひとつです。
企業からは、産業看護職の活躍を期待して契約をいただくケースが多いため、外部サービスでありながら、基本的な産業保健業務の知識・経験だけでなく、さまざまな業種の企業のあらゆる課題に対するサポートを経験できることが魅力です。
このような環境で企業や従業員と真摯に向き合いながら、自分も、そしてサービスも成長させていこうとする意欲のある方にはぴったりだと思います。
「リモート産業保健」に興味をもたれた方、ぜひあなたのご応募をお待ちしています。

※株式会社エス・エム・エスが提供する遠隔による企業向け産業保健サービス











看護知識

ナース専科で看護知識を”学ぶ”記事ランキング