リサーチ・インタビュー
  • 公開日: 2020/12/21

保育園看護師|谷川祐美さん

保育園で園児やスタッフたちの健康管理にあたる谷川祐美さん

看護師のさまざまな働き方を紹介するコーナー。第6回は、大学病院や中規模病院の消化器外科で経験を積んだのち、保育園看護師に転職した谷川祐美さん。現在5年目の谷川さんに、ここに至るまでの経験や苦労、やりがいを聞いてみます!

今回のゲスト:谷川祐美さん
社会福祉法人わらしこの会 わらしこ保育園 看護師
九州の大学で看護学部を卒業後、上京し国立病院に就職。3年働いたのちに結婚し、中規模病院へ転職。子育てをしながら働いていた。子どもの通う保育園の園長に声をかけられたのがきっかけで、保育園看護師に。現在5年目になる。
社会福祉法人わらしこの会 わらしこ保育園: https://warashiko.com/

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聞き手:シーサー
看護師/ダンサー
精神科で10数年の臨床経験を積みつつ、プロダンサーでもあり、猟銃免許も取得する異色の看護師。普段は、教室経営・イベント業・大学非常勤講師など。多くの読者に看護師の幅広い働き方を伝えるべく、今回インタビュアーを務める。
Twitter: https://twitter.com/seasar_sa1ada
Instagram: https://www.instagram.com/seasar_sin.cos.tan/

 

保育園看護師とはどのような仕事ですか?

 保育園に在籍しているのが保育園看護師です。厚生労働省もできるかぎり保育園に看護師を配置したいと考えており、2013年度から私立保育園では看護師1人の常勤が義務づけられています。ただし公立保育園では自治体ごとに「看護師の配置を促す」とされており、東京都ではほぼ常勤が当たり前となっているようですが、地方になると少ないようです。

 仕事の内容としては園児の健康状態の把握と健康管理。身体測定や歯科検診などの準備。怪我や病気をした際の対応や保護者への連絡。保育士を含めた園で働くスタッフの健康診断の補助、保健指導、アレルギー児対応や育児相談への対応などがあります。母子保健や家族看護の視点からも関わります。

 他にも0歳児クラスに入り、変化しやすい0歳児の健康状態や発達状況を把握したり、地域での感染症の流行状況の把握と感染予防など園内での対応など、保育園に関わるすべての人、そして周辺地域も対象にした仕事です。育児困難な家庭がある場合は、児童相談所などの行政機関と関わることもあります。

 最近では、新型コロナウイルス対策がありました。4月から5月まで休園だったのですが、保護者が医療・食品・官公庁・運送など、社会のインフラに関わる仕事をされてる家庭の子どもは20人ぐらい登園していました。当時は私もまだ育休中だったのですが、代理で入ってくれていた看護師と連絡を取り合って、一緒に園内の感染症対策を行いました。新型コロナ感染症について、保護者から相談が来ることはほとんどなかったのですが、厚生労働省からの情報や関連情報を確認し、保育園として保護者への発信や連絡を続けました。


わらしこ保育園でデスク業務中の谷川祐美さん。園児からスタッフ、保護者までの幅広い健康管理にあたっている

 

保育士と看護師、働き方や役割の違いは?

 保育士は保育、看護師は保健という役割の違いがあります。保育士は「保育」を通して子どもたちと関わりますが、看護師である私は「今日はなんだか活気がない」「なんか顔色が悪いな」など体調や健康面など、「保健」を通して関わります。ケガや病気の対応なども看護師が中心に対応します。保育士の業務と重複している部分も多いのですが、同じ業務をしていても視点が違います。

 たとえば、保育士は子どもの発達についてよく観察しているなと思います。保護者からの発達に関する相談などにも保育士さんが対応しており、そこに医学的な意見を求められるときには私が入り、一緒に相談に応じることもあります。

保護者からはどんな相談を受けることが多いですか?

 お子さんが発熱したときや、受診のタイミングなどについての相談が多いです。少しの発熱程度であれば、急いで受診する必要はないことが多いのですが、「発熱に加えてゼコゼコした咳が出てきたら病院に行きましょう」などと具体的にアドバイスをしています。園には先天性の疾患や発達に課題を抱えた子もいるので、こういった保護者からの相談も受けています。

 また明らかに体調不良の子が登園してきたときは、保育士ではなく看護師の私が対応することもあります。私も働く母親の1人なのでわかるのですが、お母さんたちも仕事は休みにくいと思います。そこに理解を示したうえで、現在の病状や今後考えられる経過を説明し、休むよう勧めることもあります。

 一度、看護師の視点というより勘が働いた出来事がありました。胃腸炎が流行っていた時期に朝から顔色が悪く、唾の飲み込み方に違和感がある子がいたのです。注意して観察していたら急に、「あ、くる!」と感じ、咄嗟に差し出したバケツにその子が嘔吐し、絶妙なタイミングでキャッチしたことがありました。これは消化器外科で働いていた頃の勘が働いたのかなと思いますね。

 

すごいですね。吐くタイミングって見ててわかるものなんですね?

うまく説明できないですけど、見ててわかったんです。嘔吐に遭遇してきた回数が違うからですかね。

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ちょっとした職人ですね。



 

園児の年齢と園の特徴を教えてください

 私が勤務するわらしこ保育園には、生後2か月から、小学校入学前の6歳児まで(規定では0~5歳児まで)100人ほどがいます。園の特徴としては、自然のなかでの泥遊びや水遊びなど、身体を使って遊ぶことを大切にしてます。他の園の子と比べると、わらしこ保育園の子たちは身体使いが上手だと思います。

 保育園として大事にしているのが「自立」です。遊びのなかで、自然のなかで、集団のなかで育つ力を大事にしています。できるだけ人工のものは使わず、おもちゃもプラスチックではなく木などの素材でできたものを使ってます。園舎もほとんどが木材建築です。また赤ちゃんのうちから布パンツを履いて生活することも特徴の1つです。

 人間の感情の芽生えは快と不快の感覚です。心とからだの発達にとっては、気持ち悪いと感じること、感じたものを身近な人に伝えられることが大切です。そうして「気持ち悪かったね」と共感してもらい、きれいにしてもらってさっぱりしたと、不快から快への感覚を感じることが大事だと考えています。それが成長と自立へとつながっていくと私達は考えているからです。衛生面などで管理は大変ですが、子どもの感覚の育ちには大切なこととして取り組んでいます。

スタッフの健康管理はどのようにしていますか?

 毎年、健康診断を行っているほか、精神面も意識して看るようにしています。そのためにもコミュニケーションを大切にしています。保育士や他のスタッフと話していて「なんだか表情が固いな」と感じることがあれば、「最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」と、こちらから声をかけてみたり、園長に相談することもあります。当園には月に3回、臨床心理士が来ているので、あまりに心配なときは面談を勧めてみることもあります。

 保育は体力も気力も使う仕事です。子どもの年齢も幅広くハードだと思います。国も保育士の処遇改善を進め始めているので、ここ数年で良くなりつつありますが、それでもまだ厳しい部分が多い職業です。保育園には限りませんが、スタッフのなかには自分の辛さをなかなか人に言えない人もいるので、心身ともにアプローチしていく必要性を日々感じています。

 

谷川さん働き方[ある1日]

5:30 起床。ご飯や仕事の準備、息子の宿題をみる
6:30 さまざまな準備をしながら、さっと自分の朝食
7:00 夫と子ども達の朝食タイム
7:50 家を出発。職場は徒歩2分
8:00 園に到着。始業開始前の準備
9:00 園内のラウンド。子どもたちの出欠と欠席理由の確認。スタッフの体調確認。子ども達と遊びながら体調観察(鼻水、咳、皮膚の状態、ケガの有無など)。検温カードのチェックと検温の声がけ
10:30 園内の消毒。いす、テーブルなど子どもたちがよく触るところを重点的に
11:00 自分の昼食をとり、0歳児クラスの食事の介助、食後の寝かしつけ
13:00 休憩
14:00 保健だよりを書いたり、新型コロナ関連の共有事項があれば資料を作るなど、デスクワークが中心
15:00 午後の検温、身体測定(月一回)
16:00 退勤。そのまま下の子どもを保育園にお迎え
16:30 帰宅。夕飯の準備、家事など
18:30 家族で夕食
19:00 子どもの宿題をみたり、食器の片付け、入浴、洗濯など
20:00 下の子どもの寝かしつけ。共に就寝してしまうことも多々

保育士には早番や遅番などの勤務がありますが、私は平日の固定勤務で日勤に入っています。
子どもが3人いるのですが、勤務先が自宅から徒歩2分と激近なので、子育てと仕事の両立にはありがたい環境だと思います。


 

保育園で働く看護師にはどんな人が多いですか?

 他の保育園のことはあまりわかりませんが、市内の保育園連絡会の会合で看護師が集まったり、やりとりすることはあります。そこで会った看護師の皆さんは、年齢はバラバラですが30代以上で子育て世代が多いです。子どもの就学に合わせて、平日勤務にするために保育園看護師になった人もいます。私もその1人ですが、意外に小児科経験のない人も多いですね。

 タイプとしては、判断力がある人が多い印象があります。看護師は園の中で唯一の医療職になるので、1人で決めなければならない事柄や場面が多いからかもしれません。ただ私の場合は、1人で全部を抱え込まずに、迷ったら保育士や園長と相談するようにしています。

保育園看護師に向いている人・向いてない人は?

 向き不向きではなく経験ですね。やっていればできるようになると思います。ただどの仕事も同じだと思いますが、コミュニケーション能力はとても大事です。子ども、スタッフ、保護者など幅広い立場や世代の方と関わるからです。病棟でも保育園でも同じですが、周囲や患者さんとコミュニケーションがうまくとれないことが原因で辞めていくスタッフはいますよね。

 どうしても1つ挙げるとするなら、子育て経験があるといいと思います。私も小児科の勤務経験はありませんが、子どもを3人育ててきた経験は、この仕事に生きていると思います。

保育園看護師として必要とされるスキルは何ですか?

 小さなサインを見逃さない観察のスキルはとても大切です。子どもの病態の変化はとても早く、「この子、熱出しそう、なんだか活気がない、顔色が悪いな」そう思っていると、やはり午後から熱を出すということはよくあります。観察からつながるフィジカルアセスメントも大切で、基本的には保育園でも病棟でも必要とされる観察のスキルは同じだと思います。保護者の方々の表情の変化なども気をつけて見ています。

 他にも危機管理意識も大切です。感染症が流行り出す時期であれば、拡がる前に対策しておくなど、リスクを感じて先を読む力が大事です。感染対策に関しては園内だけでなく、地域での拡がり方にも注意を払います。他の保育園の情報や小学校のママ友からの情報など、広くアンテナを張って流行を見極めていく視点も大切ですね。危機管理意識で言えば、園内の危険箇所を確認して怪我や事故の防止につなげていくことも重要な役割です。

健康面だけでなく心理面でも大切なスキルはありますか?

 小さな変化に気づく力は心理面に対しても大切ですね。保護者が入院したりすると、子どもに影響が出ることなどがあります。他の子と距離の取り方がうまくいかなくなったり、情緒不安定になったりするのです。何かの変化があったときは、その子の家庭の状況についても考えてみます。マクロからミクロへ、幅広くそして深く看ていくスキルが求められ、そこが楽しさにもつながります。

 ただ、どんな状況であっても、その子が保育園で生活していることには変わりないので、あまり構えすぎずにやっています。気負いすぎず明るく、他のスタッフや保護者とも相談しながらやっています。

 

どんなスキルアップの道がありますか?

 いろいろなスキルアップの仕方があると思います。夫が精神科の看護師なので、コミュニケーションの技術やアセスメントについて意見を聞くこともあります。最近は児童精神科医の本や発達心理学の本を読んだり、てんかんについて勉強したりもしています。一般的な健康管理にプラスして、特殊なケースについて調べたりもしています。

 感染対策を担っていることが多いので、公衆衛生などを勉強して深めていくのもいいかもしれません。また保育そのものや療育について学んでいくことも仕事に生かすことができるスキルアップにつながると思います。

 

どんなキャリアアップの道がありますか?

 保育園看護師の経験を活かした研究をするために、大学講師になった方を知ってます。この人は公立保育園で看護師として働いたあと、大学院への進学を経て、現在は保育保健を専門として大学の講師をしています。研究をしながら、保育士を目指す学生に保育保健を教えています。

 他にも、近くの保育園には30年近く保育園看護師をしている方がいて、「困ったときはあの人に相談!」と地域の保育園看護師に頼られている方がいます。私も困ったときは相談しています。このように保育園看護師そのものを深く追及するのもいいかもしれません。

 小児救急で働いたあと保育園看護師として3年働き、再び小児救急に戻った人もいました。保育園を経験してから臨床に戻ると違う視点が得られるかもしれません。

 私自身は、現在は保健分野のリーダーと障がい児に対する療育支援リーダーを担わせてもらっています。キャリアアップ研修として外部のマネジメント研修や障害児保育研修に出て学んでいます。当園では、子どもを中心に、保育、保健、食事の3本柱で子どもを見ていくことを大事にしていますので、保健という役割を担っている私の立場も大切にしてもらっていると感じます。これも1つのキャリアの形だと私自身は考えてます。

保育園看護師として働くメリット・デメリットは?

 子どもはかわいく、楽しく働ける職業だと思います。1人で責任をもたなければならない部分もありますが、見方を変えれば自分の努力次第でできることが多いともいえます。自分がアンテナを張って頑張った分だけ前に進むことができる、そう感じてやりがいを見出しています。

 1人での判断に迷うことがあれば、他のスタッフや園長に相談もできますし、地域の連絡協議会の看護師仲間にも相談できます。月1回嘱託医も来園するため、そこで相談することもできます。

 基本的には定時に帰ることができるのもメリットの1つですね。あくまで園児のケガや病気などへの対応がなければですが、家庭との両立はしやすい環境だと思います。月に1〜2回、夜の会議や研修に出たり、夕方の園児の病気や怪我の対応で帰りが遅くなることはありますが、働きやすいですね。

 デメリットをあまり感じたことはないのですが、1人職のため休みにくい日があるということでしょうか。保育園の健康診断の日に、自分の子どもが熱を出したことがありました。私は夫に協力してもらいましたが、その点は病棟勤務のほうが比較的休みやすかった気がします。園の中で自分にしかできない役割があるため、休みにくいときがあることがデメリットといえるかもしれません。

 

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休みづらいんですね。旅行などは行けないのですか?

大丈夫。事前にきちんと園長に相談しておけば、園長や副園長が対応してくれたりします。

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よかった!お母さんだけ旅行に行けないなんてことにならなくて。

1週間お休みをもらって、帰省したこともありますよ。



 

次のページでは、谷川さんの人となりに迫ります!

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