介護のために離職する「介護離職」が問題視されています。家族の介護の負担は想像以上に大きいものです。しかし実は、負担を軽減するためと思って介護離職をしても、実際には期待していたほどの効果はありません。むしろ、貯金を切り崩していく日々に不安を感じ、消耗していく看護師が多いのが現実です。
今回は介護離職の実態と仕事と介護を両立するために知っておきたいことを紹介していきます。
介護離職事情
総務省の調査によると、全職種において一年間に介護離職する人数は9万9千人、うち男性2万4千人、女性7万5千人*1だと明らかにされました。介護離職するのは女性が多く、約8割を占めています。
日本における65歳以上の高齢者は年々増加しており、2018年の総人口に占める高齢者の割合は28.1%と過去最高*2です。高齢者の増加により、介護離職者も増加していくことが予想されます。特に2025年には団塊世代が高齢者になるので介護離職者も増えるリスクがあります。
日本看護協会の調査では36.8%の看護職が、家族の健康についての悩みがある*3ことが明らかにされました。また、40歳代の看護職員の41.9%、50歳代の51.5%が「介護のための短時間勤務制度を利用したい」と回答しています。40~50代の看護職では特に介護に不安を感じる人が多いようです。では、なぜ看護師が介護離職を避けるべきなのでしょうか?
看護師が介護離職すべきでない理由
看護師が介護離職すべきでない理由は以下の3つです。
それぞれ見ていきましょう。
金銭面で追い込まれる
まず分かりやすい金銭面です。 看護師として働いていても、介護にかかる費用までしっかりと把握している人は少ないのではないでしょうか?身内の介護は突然やってきて、一度始まるといつ終わりが来るか予想できません。心の準備もお金の準備もできていない人が多いです。
まず介護が始まる際の初期費用には「平均69万円」*4かかります。 初期費用とは自宅改修、介護用品購入、緊急対応の交通費や宿泊費などです。その後は毎月、公的介護保険サービスの自己負担費用などで「平均7.8万円」が必要となります。
また、日本人の平均寿命から健康寿命を差し引くと9~12年ほど*5です。 そのため、介護が続く期間は少なくとも10年だと見積もっておくべきでしょう。 ここから介護にかかる全費用を計算すると1,000万円前後になります。この介護費用が準備できていない状態で介護離職をすると、金銭面で追い込まれる可能性が非常に高いのです。
介護離職をすると逆に介護の負担が増える
実は意外にも、厚生労働省のアンケート調査によると、介護離職をした人の約70%が「経済的・肉体的・精神的負担がかえって増えた」と回答*6しています。
肉体面・精神面の負担に関して、「仕事を辞めれば何とかなるだろう」と想像しがちですが、実際は離職してしまうと、その分介護の負担を全て1人で抱え込むことになりがちで、負担が大きくなってしまいます。「家族に協力してもらおう」と考えている方もいるかもしれませんが、看護師の場合、家族は「看護師がついているから大丈夫」と介護から身を引いてしまうことも考えられます。介護離職により、介護の負担がかえって増えてしまう可能性があるのです。
孤立してしまい相談できる人が減ってしまう
介護者にとっての孤立は、精神的負担となります。看護師として働いていれば、職場には医療従事者が常にいる状態です。職場によっては、看護師だけでなくケアマネージャーや介護福祉士などの介護に精通している職種の人たちもいるかもしれません。ちょっとした疑問な悩みであれば、気軽に相談することもできます。しかし、離職してしまい職場との関係が断たれると孤立してしまい、気軽に相談できる相手がいなくなってしまいます。
仕事と介護の両立のポイント
負担を軽減し、介護を長く続けるには仕事との両立が欠かせません。介護と仕事を両立するために、制度・助成金をフル活用しましょう。特に入浴介助や排泄介助といった身体介助は、肉体的・精神的負担が大きい介護です。「今まで自分でやっていたことなのに…」と、介護者・被介護者ともに精神的に落ち込むケースも少なくありません。そのため、介護をする上で頻度や負担の大きい身体介護を介護サービスに任せることが、仕事と介護を両立するポイントとなります。
介護に役立つ制度・助成金
介護に役立つ制度・助成金をご紹介します。
介護休業*7
介護対象者1人につき通算93日まで休業が認められる制度です。仕事と介護を両立するための体制やサポート作りのために使いましょう。この間は無給となるため、介護休業給付を利用しましょう。
介護休業給付
介護休業中に給付金が受け取れる制度です。介護休業後に職場復帰する前提で支給されます。条件を確認しておきましょう。
介護休暇
介護休暇と介護休業は似ていますが「①取得可能日数②申請方法③給付金の有無」が異なります。
介護休暇の取得可能日数は最大5日間です。
介護の対象者が2名以上の場合は10日間となります。
介護休暇中の給与の支払いは勤務先の規定により決定され一定ではありません。
申請方法は上司に直接事情を説明し有給休暇のように自由に取得します。
労働時間の制限
家族を介護する従業員は申請により時間外労働や夜勤を制限する措置が受けられます。
また、希望すれば短縮勤務やフレックスタイム、時差出勤も利用可能です。
これらの制度は自ら申請することで利用できますので覚えておきましょう。
介護に関する相談先
孤立は介護の負担を増加させるリスクとなります。 自分に合った相談先を見つけておき、孤立することを防ぎましょう。
家族会
家族会は各地域で行われている、家族を介護する人たちが集まって情報交換したり思いを共有したりする場です。
インターネットでも探すことができますので、お住まいの近くの家族会を調べてみましょう。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは介護の「総合相談窓口」です。
介護サービスの相談や介護保険の申請窓口となっています。
相談は無料なので、まずは相談してみましょう。
職場の人間関係を活用する
職場の人に悩みを打ち明けてみるのも一つの手です。
医療関係者であれば有益な情報を提供してくれるかもしれません。
日頃から良好な人間関係を築いておき、相談しやすい関係を保っておきましょう。
参考文献
*1 総務省統計局.”平成29年就業構造基本調査”(参照 2020-4-20)
*2 総務省統計局.”高齢者の人口”(参照 2020-4-20)
*3 日本看護協会.”2017年 看護職員実態調査”(参照 2020-4-20)
*4 生命保険文化センター.”平成30年度「生命保険に関する全国実態調査」”(参照 2020-4-20)
*5 厚生労働省.”健康寿命”(参照 2020-4-20)
*6 厚生労働省.”仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査”(参照 2020-4-20)
*7 厚生労働省.”育児・介護休業制度ガイドブック”(参照 2020-4-20)
この記事を書いたのは
看護師FP:しまづ 看護師として働く中で、お金の知識がないと時に自分や大切な家族の生活を脅かすことを実感し、ファイナンシャルプランナーの資格も取得。みなさんのお財布の健康を守るお手伝いをさせていただきます!
イラスト・まえかわしお