よく耳にする「看護師が不足している」というフレーズ。看護師不足には地域や施設により差があるため、あまり実感がないという人もいるかと思います。
本当に看護師は不足しているのでしょうか?そうだとしたら、なぜいつまでも改善されないのでしょうか?今回は、看護師不足の実態と打開策について考えてみたいと思います。
実際のところどのくらい看護師が足りない?その理由は?
全国的にみると、需要に対する看護師の数は不足しており、そのカギは現在就業していない「潜在看護師」が握っているとされています。また、計算上必要な看護師数は満たされている場合でも、過剰な業務によって「人が足りない」と感じることは多々あります。
就業者数は増えているが需要に追いついていない
看護職員数は約160万人で、毎年約3万人ずつ増えています。この計算でいくと、2025年の看護師の就業者数は約167万人となる予想です。
しかし、社会の高齢化率は加速するばかりで、2025年には65歳以上人口が全体の30%に達する見込みです。これを受けて厚生労働省は、2025年には看護師が約200万人必要になると試算しています。そのため、看護師の増加人数が現在のままでは、到底需要に応えられないという状況にあるのです。
復職しない潜在看護師が多い
毎年3万人ずつ看護師が増える内訳は、新規に看護師資格を取得する人が約5万人、再就業する人が約14万人の計19万人に対して、離職する人が約16万人となっています。
これをみると離職する人が多いように感じるかもしれませんが、看護師の離職率はあまり変化がなく、一般企業と比べても特別高いわけではありません。それよりも重大な問題は、資格を持ちながらも就業していない潜在看護師が、約70万人もいることなのです。この潜在看護師が再就業するかどうかに、看護師不足の今後がかかっているといっても過言ではありません。
数だけでは測れない!慢性的な“不足感”
計算上は看護師が足りている場合でも、その質にばらつきがあったり、業務量が多すぎたりして、現場では「全然人手が足りていない」という気持ちになることもあるでしょう。
まだ全ての業務をこなすことができない新人看護師や、時短勤務をするママ看護師が多ければ、特定の人に重症患者さんの受け持ちや夜勤などが集中してしまいます。そして、中堅やベテランの看護師がそれらの対応で手一杯になると、若手の看護師をフォローする余裕がなく、なかなか戦力が育たないということもあり得ます。
そのため、「数は足りている、でも一人で何でもできる看護師は足りない」ということがあるのです。また、業務量が多すぎて残業が当たり前という状況でも、質的には看護師が足りているとはいえません。
看護師不足を打開するために国が行っている取り組み
看護師不足を打開するために、厚生労働省と日本看護協会が中心となって様々な取り組みが行われています。
厚生労働省が提唱する看護師確保のための施策
厚生労働省は、看護師を確保するための施策として、以下の3本柱を挙げています。
(1)看護師の復職支援の強化
(2)勤務環境の改善を通じた定着・離職防止
(3)社会人経験者の看護職員への取り込み促進
具体的には、都道府県のナースセンターが就業していない看護師と連絡を取り合う、各施設が勤務環境を改善するためのガイドラインを提供する、社会人向けの看護師養成所PRポスターを設置する、などが行われています。
日本看護協会による看護師確保のための取り組み
日本看護協会では、「看護職の働き方改革の推進」が看護師不足の打開に繋がるという観点から、ワークライフバランスやメンタルヘルスの改善を推奨しています。各施設が勤務環境の改善に取り組めるように、情報提供やセミナーの開催を行っています。
看護師不足を打開するために現場でできることとは?
看護師不足を打開するために現場でできる対策とは、働きやすく辞めにくい環境を作っていくことです。
様々な働き方を選択できるようにする
看護師不足を打開するために効果的なのは、潜在看護師の就業を増やすことです。そのためには、潜在看護師が感じている再就業へのハードルを低くする必要があります。
まずは、1日2時間や週1回などごく少ない勤務でもOK、夜勤専従など、個人の都合に合わせて選べる勤務方法をなるべく多く準備するのがよいでしょう。このときに大切なのは、受け入れ側が「看護師一人で一連の業務を完遂するのがベスト」という考えを捨てることです。
そして、様々な勤務時間の看護師が協力し合い、全員分の業務を分担して終わらせることを目標にします。また、潜在看護師はブランクによる看護技術レベルの低下に不安を感じているので、その点をフォローすることも必要になります。
業務改善によって個人の負担を減らす
看護師が働きやすく辞めにくい環境を作るために人間関係や待遇を改善するのもよいですが、まずは業務による負担を軽減してみてはいかがでしょうか。
看護業務の内容を洗い出し、必要のないことはやめる、必ずしも夜間にする必要がないことは日勤に回す、看護師でなくてもできることは看護補助員に依頼する、機能別に業務を分担する、などを検討しましょう。
例えば、消毒が必要な物品はディスポーザブルのものに変更する、緊急時や空腹時以外の採血は日勤で行う、他科受診や退院のための書類整理は看護補助員に依頼する、点滴係や清潔の援助係を作る、などです。また、委員会の準備や会議など日常業務以外のことも、勤務時間内に行えるような環境を整えて残業を減らすことが大切です。
皆で協力することで、看護師不足を打開しよう
看護師不足を打開する一番の方法は、看護師が辞めずに働き続けることです。それは、ライフイベントやストレスがあっても辞めるなということではありません。
何かの事情で離職したとしても、無理のない範囲でまた看護師に戻る、戻れる環境を皆で作っていくということです。様々な背景をもつ看護師がお互いの状況を受け入れ、それぞれの特性を活かして協力すれば、看護師不足というフレーズは聞こえなくなるかもしれません。
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この記事を書いたのは
美沢 藍 総合病院看護師・大学院進学・看護大学教員を経て、現在は育児をしながらライターとして活動中。複数のジョブチェンジを経験して感じているのは、看護師の働き方には様々な選択肢があること、自分に合った道を追求する大切さ。