看護師として働くインシデントを起こすとどうなるのか、その時どのように心を保って対処していけばよいかについて紹介します。
看護師にはどのようなインシデントが多い?
病院で働くスタッフの中でも、看護師のインシデント件数は断トツに多く報告されています。
なぜなら、①看護師はさまざまな場面で患者さんと関わる機会が多く、②かつ入院中に患者が起こした事故(転倒・転落や点滴抜去など)も看護師の確認不足や観察不足などが原因となる、という背景があるから。
インシデントが発生しやすいケースに、どのようなものがあるかご存知ですか?病院の規模や診療科によって多少の違いはありますが、以下がインシデントが発生しやすいと言われています。
1.処方・与薬
看護師は、点滴注射・内服薬・点眼薬・外用薬などさまざまな種類の薬剤を扱います。そのため「投与量間違い」「与薬時間間違い」「投薬忘れ」がよく起こるインシデントです。また、点滴では「投与速度間違い」もよくあるインシデントとしてあげられています。
薬剤自体は、他の看護師とのダブルチェックが徹底されていたり、バーコード認証などによる確認を導入する病院も増えたりしているため、調剤時の間違いは減ってきているようです。しかし、実施の際に間違いが多く発生するようです。
2.ドレーン・チューブ類
最も多いのは、点滴などの「自己抜去」です。故意でなくても、足に引っかけてしまったり、少しずつズレて抜けてしまったりする自然抜去などもあげられています。また、「点滴ラインの閉塞」、「漏れ」や「接続外れ」も多発しています。
他にも経管栄養や消化管チューブ、術後のドレーンチューブなどのトラブルも含まれています。このようなドレーン・チューブ類は薬剤の次に看護師が多く扱うものであるため、インシデントが起こりやすくなっています。
3.療養上の世話
療養上の世話というとかなり範囲が広くなりますが、その中でも多いのは「患者さんの転倒・転落」です。発生場面としては、車いすや歩行介助などの移動時、排泄介助時など。他にもベットからの転落、安静度を守れず転倒することなどもあります。不穏患者や認知症患者、高齢者の場合に多く発生するインシデントです。
4.医療機器
人工呼吸器では「回路リーク」や「接続ミス」、「抜管」などの点検管理によるもの、輸液・シリンジポンプでは「設定忘れ」や「電源入れ忘れ」がよくあるインシデント。これらの医療機器は、アラーム設定によって接続ミスや異変時にアラームが鳴ることで早期に発見できることが多いのですが、それでもインシデントは依然としてなくならないようです。
5.検査
「採血時の患者間違え」や「検体採取時の間違い」が発生しがちです。特に採血は、検体スピッツの間違いや、採血量、保存方法などさまざまな注意点があります。検査が正確に行えず、再検査となるケースは、看護師ならば経験したことがある人も多いのではないかと思います。
以上の内容はインシデント項目の一部ではありますが、要因としては「確認不足」「観察・判断ミス」「勤務状況」「連携不足」などが多く、それらが複数重なるとインシデントが起こりやすくなるようです。
また、経験年数としては知識や技術が未熟な0~2年の若い看護師に多く、経験を重ねると数は減っていきます。しかし、重大なインシデント・アクシデントには経験年数はあまり関係ないようです。
インシデントを起こしてしまったら…
インシデントを起こすと、「なんであの時…」「もっとこうしていたら」と後悔することからはじまり、「看護師向いていないかも」「仕事が怖い」などと職場に行きたくなくなったり、看護師を辞めたくなったりする人もいるでしょう。
インシデントを実際に起こしてしまった場合、どうしたらよいのでしょうか?
1.自分のしたことをきちんと理解する
インシデントを起こしてしまうと、自分を責めたり、人からの評価が急に気になったりしてしまうと思います。でも、それだけでは次に繋がりません。まずはなぜインシデントを起こしてしまったのか、きちんと状況を理解することが大切です。
まずは落ち着いてインシデントレポートを書きましょう。レポートには、インシデント発生の状況・要因・改善策などを記載しますが、この時、自分の感情(焦っていた、うっかりしていた、緊張していた)や体調だけではなく、環境要因・組織的要因なども含めて総合的に考えて書くことが大切です。きちんとインシデントレポートの記載ができれば、自分のインシデントについてより客観的に理解することができると思います。
2.気持ちを整理する、切り替える
「自分はダメだな」といつまでも引きずってしまうと、「またインシデント起こしたら、どうしよう」と必要以上に緊張し、結果として再度インシデントを起こしてしまう可能性もあります。大事なのは、気分を落ち着かせ、気持ちを切り替えること。マッサージやヨガなどリラックスできる場所に出かけたり、アロマを試してみる、あるいは「これをやると元気になる!」というような趣味があれば、それに時間を使ったりするのもいいでしょう。
また、どんなに落ち込んでいても、生活習慣は崩さないこともポイントです。食事がとれない、眠れないことで業務に支障が出てしまうという負のスパイラルに陥る可能性があるからです。気持ちの整理は難しくても、外側から自分を整えることの方がやりやすいこともあります。
3.インシデントを繰り返さないための対策
気持ちを落ち着いてからは、「人は間違うもの」という認識でいることが大切になってきます。開き直るのではなく、その間違いを起こさないためには何が必要か、どう注意したらいいのかを考えていくのです。
同期の看護師や先輩と話をしてみるのもいいと思います。「自分がインシデントを起こした時はこうだったよ」とまわりの経験談を聞くと、自分にも同じように当てはまることがあるかもしれません。いろいろな人のインシデントを参考にすることで、自分が経験したインシデントだけではなく、さまざまな状況をイメージして、トラブルを回避するトレーニングを行うことができます。
上記と併せて、職場の環境チェックも大切だと思います。
例えばインシデントが起きたとき、周りのスタッフはどのような状況で、どのような雰囲気でしたか?徹底的に犯人探し、インシデントを起こした人を責め立てる、みんなの前で怒るなどの公開処刑などはなかったでしょうか?このような職場では、インシデントを起こした人をいじめの標的にしたり、仕事を押し付けたり、話を無視したりと、さらにインシデントを招く要因になり得ることがたくさん存在します。
また、環境・組織的な問題はなかったでしょうか?業務の偏りがあったり一人ひとりの負担が大きすぎたり、表示がわかりづらい、連携の流れが悪いなど、インシデントを起こして初めて問題点に気づくこともあります。そのような時も、きちんと声にして発信していくことで、マニュアルの変更や業務改善となり、同じようなインシデントの発生を防ぐことができます。
あまりに環境がひどく、改善がされない場合は、転職するのも一つの方法だと思います。
さいごに
インシデントは看護師として働くうえで避けては通れないことです。しかし、「きちんとインシデントの状況を理解できるか」「気持ちを整理できるか」「今後どのように対策を立てるか」の行程を経て、次に生かすことが大切です。
そのためには、自分一人の力だけではなく、周りのスタッフや環境も大きく影響してきます。「自分はここで看護をしていけるのか」と自問することも時には必要です。インシデントを通して大きく成長し、より良い看護の環境を整えていけるといいですね。