これまでさまざまな制度や貯蓄法などお金にまつわることを解説してきましたが、vol.1〜6それぞれの回で共通してお伝えしてきたのが「逆算して考える」ということ。家計管理を総体的に考えるときも、これをうまく活用すると、家計簿をつけなくても家計の管理ができるようになります。家計管理は看護過程とよく似ています。情報収集から始まり、アセスメント、プラン立案、実行とやることは変わりません。各段階でポイントを押さえるようにすれば、管理がラクにできるようになりますよ。
■「逆算力」で先を見通せるようにしよう
家計の見直しをするときには、自分にはどれくらいの貯蓄が必要なのか考えることが大切です。金額を明確にしないと、逆算することもできません。
また、貯蓄金額が決まっていないと、自分自身が“楽しむためのお金”もつくれず、たとえ節約できたとしても不満を感じたり不安になってしまうものです。一方で、高収入でも貯金ができないというケースの場合も、ここに原因があることが少なくありません。
1. 必要な貯蓄額を算出
この先の人生、どれくらいの貯蓄があれば納得のいく生活ができるのか算出してみましょう。年金のお話(vol.2)でシミュレーションしたように、今の生活費をベースに考えても構いません。お子さんがいる家庭では、必要な教育費も合わせて考えるようにします。ポイントは「いつまで」に「どれくらい」の貯蓄をするのかを具体的にイメージすることです。
金額が出たら、毎月の貯蓄額を計算してみましょう。おおよその計算式は下記のようになります。
(目標貯蓄額÷目標年数-ボーナス利用額)÷12(カ月)
例えば30年後までに4000万円貯蓄することを目標にしたとしましょう。その場合、毎月一定額を貯蓄する場合は月に約11万円、さらにボーナス50万円を貯蓄に回す場合は月に約7万円の貯蓄となります。
〈毎月一定額を貯蓄する場合〉
4000万円÷30年÷12カ月=11.1111 → 約11万円/月
〈上記にボーナス併用貯蓄をする場合〉
(4000万円÷30年-50万円)÷12ヵ月=6.94444 → 約7万円/月
目標金額から逆算して月々の金額が出たら、毎月の積立額や手段を考えてみましょう。積立投資を利用するとすれば、年平均利回り5%で運用できた場合、毎月5万9000円の積立投資を行えば、30年後には4046万円(複利ごとに20.315%課税)の運用実績となります。
2. 「残り貯め」と「先取り貯金」の実践
貯蓄ができない家庭に共通しているのが、「残り貯め」ができないことです。せっかく節約して生活費が余っても手元にお金があると、脳が「使っていいお金」と認識しがちで、結局使ってしまうのです。貯蓄をしようと思ったら、余ったお金はすぐに別の口座に移すようにしましょう。また、給与が振り込まれたら一定額を定期預金や別口座へ自動振替するよう設定し、「先取り貯金」をするのもおすすめです。いずれも貯蓄に回したいお金は「使えないお金」にしておくことが肝心です。
■コツをつかんで家計の負担軽減をしよう
家計管理のためには、現在の家計状況をきちんと把握できるようにすることが重要になります。それに基づいて、整理をしたり、無駄を検討することになるからです。家計の把握と負担軽減のポイントをご紹介します。
1. 家計の見える化
家計を見える化するために家計簿をつけましょう。毎日忙しく過ごしていると、その優先順位は低くなりがちですが、最近では銀行口座やキャッシュレス決済の取引履歴を家計簿アプリに同期をすることができるため、手軽に記録できるようになっています。もし、アプリの操作が苦手であれば、手書きでもパソコンでも構わないので、手取り収入額と、家賃、通信費、任意保険などの毎月決まってかかる費用(固定費)をすべて書き出してみましょう。ポイントは、毎月の金額に加えて、1年間の金額も計算することです。具体的な金額を客観的に見ることでアセスメントがしやすくなります。
2. 家計の整理整頓
家計がぐちゃぐちゃになっていると感じてしまう原因として、「クレジットカードの購入日と決済日がずれる」「固定費、流動費、貯蓄を同じ口座で管理しているので、引き落とし日がまちまちでわからなくなってしまう」などの声をよく聞きます。
固定費と貯蓄は、ほぼ毎月決まった金額です。固定費は、専用のクレジットカードを作って銀行口座を連携させるなどしてみましょう。用途別に分けて管理するとスッキリします。
家計を整理できたら固定費も明確になります。この固定費と貯蓄を引いた残りが「流動費」となり、自由に使ってよいお金です。この流動費の金額内でやりくりができるようになれば、あえて家計簿をつける必要はなくなります。
図1 家計の整理
3. 無駄な支出のアセスメント
2で流動費が自由に使ってよいお金になると説明しましたが、そのお金が少ないと生活を圧迫することになります。また、少ない流動費のなかで節約しようとすると“我慢”につながり、ストレスが増えます。そうすると、そのストレスを発散したくなり「支出のリバウンド」が起こりやすくなります。家計を見直す場合、まずは生活スタイルが変わりにくい固定費から見直していくとよいでしょう。
見直しの王道は保険と通信費です。医療保険や生命保険だけでなく、自動車保険や火災保険も見直しができる部分です。自動車保険はネット申し込みや保険証券不要にすることで割引サービスをうけられるケースもあります。また、補償内容も基本補償のままという人が多いので、見直してみましょう。例えば、車両保険の免責金額(修理時の自己負担額)です。1回目5万円、2回目10万円となっているところを、1回目から10万円にするという方法もあります。生命保険と補償内容が重なる人身傷害や搭乗者傷害を見直すことでも、保険料を抑えられます。また、いくつかの保険会社で比較検討することも有効です。
通信費については、スマートフォンだけでなく、自宅のネット回線やWi-Fiなど通信環境も一緒に見直すとよいでしょう。スマートフォンで3000円以上かかっている人は格安スマホも検討してみましょう。また、スマートフォンにはテザリング機能があり、スマートフォンを中継点としてほかのモバイル機器をインターネットにつなぐことができます。こういった機能を活用しネット回線を解約すれば、通信費を削減することもできます。
■浪費を減らすコツ
支出見直しのポイントは、“必要なもの”であるかどうか、広い視点で考えることです。時間管理の考え方でよく使われるのですが、緊急度と重要度の視点から、支出の必要性を見分けていきましょう。図2のように考えると、浪費・空費は見直し対象になります。代わりが利くものが周りにないか、一呼吸おいて考えることで浪費が抑えられます。「足るを知る者は富む」という老子の言葉がありますが、今あるものでも十分に生活ができることを思い出してみてください。
図2 支出のマトリクス
参考資料
●ソニー損保:自動車保険 自動車保険ガイド 車両補償ガイド免責金額はいくら?−補償内容はどうすればいいの?―(2020年4月8日閲覧)https://www.sonysonpo.co.jp/auto/guide/agde058.html
●ソニー損保:自動車保険 補償内容 人身傷害(2020年4月8日閲覧)https://www.sonysonpo.co.jp/auto/coverages/acvr009.html
●NTTdocomo:サービス・機能 条件からサービスを探す テザリング(2020年4月8日閲覧)https://www.nttdocomo.co.jp/service/tethering/
●故事ことわざ辞典:「た」から始まる句 足るを知る者は富む(2020年4月8日閲覧)http://kotowaza-allguide.com/ta/tarushirumonotomu.html