• 公開日: 2010/3/29
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】知っておきたい お金のはなし

vol.2 受け取れる年金をイメージして 自分に必要な老後対策を考えよう!

令和元年のニュースとして「老後資金2000万円不足」問題がありました。まだ老後にはほど遠いと思っている世代にとっても、寝耳に水といった内容でした。高齢者とのかかわりが多い看護師のみなさんは、医療従事者でない人たちと比べると、老後の生活や状態はイメージしやすいのではないかと思います。でも、その分老後にはお金が必要だという不安は強くなりやすいかもしれません。とはいうものの、老後資金について具体的に考えているという人はまだまだ少ないのではないでしょうか。今後の対策を考えるためにも、まずは現在の年金制度を理解して、老後の生活をシミュレーションしてみましょう。

■年金制度のしくみ

年金制度は戦時中から始まった制度で、現在に至るまで何度も改正が進められてきました。時代の流れとともに生活は変わり、物価も上昇しています。そしてさらに大きく変わっているのが平均寿命です。戦時中は50歳前後でしたが、現在は男性が81.25歳、女性は87.32歳(平成30年簡易生命表)と大幅に上がっているため1)、それに応じて、年金制度についてももらえる年齢や金額が調整されています。

1 支払っている年金の金額

 年金制度には国民に義務付けられている「公的年金」と不足分を補うための「私的年金」があり、働き方や職場によって支払う年金額が変わってきます。よく耳にするiDeCo(個人型確定拠出年金制度)は私的年金の一つであり、加入できる範囲が拡大したことや、所得控除ができるという部分でもとても注目されています。

【公的年金制度】
国民年金…自営業や自由業、フリーター、学生などが加入。月額16、410円(令和元年度)支払っている。また、所得の状況などに応じて免除制度あり。

厚生年金…公務員・会社員の給料の9.15%が年金保険料として天引きされており、国民年金と厚生年金の分を支払っている。

【私的年金制度】
確定給付企業年金、確定拠出年金、厚生年金基金、国民年金基金、付加給付などがある。公務員等の「職域加算」は現在、「年金払い退職給付」と制度が変わっている。

図1 年金制度の内訳
年金制度の内訳

2 年金はどうやって受け取れるの?

 年金の受け取り方には基本的に3種類の方法があります。老齢年金、障害年金、遺族年金です。

老齢年金‥…65歳から受給できる年金で、60~70歳の間でも受給可能
障害年金‥…病気やけがによって障害が生じたとき、認定の等級によって受給できる年金
遺族年金‥…亡くなった方の家族が受給できる年金

 老齢年金は、現在のシステム上受け取る年齢によってもらえる金額が変わってきます。原則的に年金をもらえる年齢は65歳からですが、60~70歳の間で自由に決めることもできます。ただし、もらい始める年齢によって受給金額は変わります。

繰上げ受給……受給開始を1カ月早めるごとに基本年金額から0.5%ずつ減額となり、60歳では最大30%減額となる
繰下げ受給……受給開始を1カ月遅らせるごとに基本年金額から0.7%ずつ増額となり、70歳では最大42%増額となる

3 年金のお得なもらい方

 寿命は人それぞれですが、先に述べた統計的なデータをもとに考えると、繰り下げ受給で70歳から年金をもらうほうがお得といえます。65歳と70歳それぞれの年齢から年金をもらい始めた場合、年金受給総額が81歳を超えた時点で、70歳でもらい始めた受給総額が65歳でもらい始めた受給総額を逆転します。男性でも平均寿命が81歳を超えているため、最大限繰り下げたとしても損にはならないということです。

図2 受給開始年齢ごとの年金受給総額の推移
年金受給総額の推移
※基本年金額は14万円/月として計算

 ただし、気を付けなければならないこともあります。年金は所得の扱いとなるため、受給額が上がると、所得税などの税金のほか、国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料が高くなってしまいます。さらに、年金だけでは生活ができないと思って働くと、支給額が減らされてしまう場合もあります。

4 パターン別にみた年金の受給額

 独身、片方が扶養内で働く共働き夫婦、フルタイム共働き夫婦の3パターンの世帯で年金受給額をみてみましょう。年収500万円の場合は厚生年金となり、おおよそ110万円/年、9万円/月の受給となります。また、扶養内で働いた場合は老齢基礎年金となるため、約78万円/年、6.5万円/月となります。

 ちなみに、平成29年度の年金受給状況によると厚生年金の平均年金月額は14.5万円でした。自分自身の年金額を知りたい場合は、誕生日の前に毎年送られてくる「ねんきん定期便」で加入状況を確認し、「ねんきんネット」(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)でシミュレーションしてみましょう。

図3 働き方の違う世帯での年金受給モデル
働き方の違う世帯での年金受給モデル
※2017年賃金構造基本統計調査をもとに都市部看護師の平均年収を参考に年収を500万円に設定
※年金額は以下のとおりで計算
平均標準報酬額=年収500万円÷12カ月=41.66万円
①独身:平均標準報酬額41.6万円×5.481/1000×加入月480=109.62万円 →約110万円/年(9万円/月)
②扶養内:110万円+78万円=188万円(約16万円/月)
③共働き:①×2人=219万円(18万円/月)

■老後への備えは将来をプランニングすること

 老後に向けて準備を行うためには、まずは、これからどのように働き暮らしていくかを考えることが必要です。つまり、老後の備えをするということは、将来の生活設計をすることにつながります。

1 思い描く将来の生活スタイルは?

 看護師は、安定した収入があり、働く時間が調整でき、派遣ナースになるなど自由な生活スタイルを手に入れることができます。そういう意味では、自分らしく生きることを選択しやすいのではないでしょうか。

 定年後も病棟で働き続ける人もいますが、在宅へ転向したり、転職アドバイザーや看取り士として活動している人もいます。老後の準備のためにも、看護師としてどんな働き方ができるのかキャリアプランを考えてみましょう。

2 どれくらいの生活資金が必要?

 あまり将来の生活がイメージできないという人は、今の生活費をもとに考えてみましょう。

 単純に計算すると「老後の生活費=毎月の生活費×12か月×(100歳-退職年齢)」となります。例えば、現在30歳の看護師の場合、毎月25万円の生活で65歳を定年とすると、必要な老後資金は25万円×12か月×35年=1億500万円になります。ここから年金の受給額を引くと最低限準備をしなければいけない金額になります。

図4 老後の生活費のイメージ
老後の生活費のイメージ

3 必要なお金を準備する方法

 2で出した必要資金を例にすると、現在35歳の人は定年までの30年間で不足分の6,650万円を準備しなければなりません。そのためには、貯金だけで準備する場合単純に考えると毎月18.5万円貯めるということになります。

 そこで投資信託による積立投資を活用してみます。年間の利回りを平均5%で運用したとすると、毎月10万円の積立投資で30年後には運用結果が約6,858万円になります。さらに、その時点で積立投資をやめたとしても、約6,858万円をそのまま運用し続けることで、年間252万円(毎月21万円)の運用益がでることになります。つまり毎月、運用益21万円と年金9万円で生活をしながら、積み立てた投資を取り崩していくという方法が可能となります。

 このように、生活費として必要な金額を想定したうえで、積立投資を活用すると、銀行で貯金するよりも少ない金額で、老後の生活資金を貯めることが可能です。ライフスタイルに合わせてNISAや確定拠出年金、変額個人年金保険など、積立投資ができるものを組み合わせていけるとよいでしょう。


☆vol.2のまとめ☆ 年金は最低限度の生活を確保するための制度であるため、年金だけでは今と同じような生活を送ることは難しいものです。特に看護師のように安定した収入があると、気が付かないうちに支出も増えてしまいます。

 まずは必要な老後資金がいくらになるのか一度シミュレーションしてみましょう。老後資金の不足額を知らないと対策もできません。そして、不足分をどう賄っていくか、具体的な対策方法、そして働き方について、今からできることを考えてみましょう。

 また、年金は長生きしてこそ得をする制度です。健康年齢を伸ばしていくことが最大の対策。ぜひ自分の身体とも向き合ってくださいね。

引用・参考文献

1)厚生労働省:平成30年簡易生命表の概況(2019年12月18日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-02.pdf
●日本年金基金(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/index.html
●日本年金機構:国民年金保険料(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
●日本年金機構:保険料額表(平成29年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険) 一般・坑内員・船員の被保険者の方(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-gaku/gakuhyo/20170822.files/1.pdf
●厚生労働省 私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)(2019年12月18日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kigyounenkin.html
●日本年金機構:年金の受給(老齢年金)(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
●国税庁:No.1600・公的年金等の課税関係(2019年12月18日閲覧)http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
●新潟市:国民健康保険料の計算例(年金受給者の場合)
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/hoken/kokuho/hokenryo/keisannoshikata/nenkinnenkin.html
●日本年金機構:60歳代前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401-02.html
●老齢基礎年金の受給要件(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html
●日本年金機構:老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html
●厚生労働省 平成29年厚生年金保険・国民年金事業の概要 参考資料2 年齢別老齢年金受給者権者数及び平均年金月額(2019年12月18日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/000453010.pdf
●日本年金機構:通知書の見方を調べる、1.ねんきん定期便(2019年12月18日閲覧)https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/20150601.html
●日本年金機構:あなたの年金 簡単便利な ねんきんネットで!(2019年12月18日閲覧) https://www.nenkin.go.jp/n_net/
●カシオ:keisan 生活や実務に役立つ計算サイト(2019年12月18日閲覧)https://keisan.casio.jp/exec/system/1254841870

イラスト/ふるやますみ

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