「ハプスブルクの宝剣 」
著者名/出版社名
藤本ひとみ/文春文庫
あらすじ
ユダヤ人として生まれた主人公が、ユダヤ人であるがゆえに迫害を受け、自身の無力さに絶望する。結果、ユダヤを捨てて、ハプスブルクの戦闘のなかで立身出世を目指す。そのなか愛を得ては、ユダヤゆえに失う。ユダヤを、家族を切り捨てるような仕事をしても、立身出世は叶わず、ユダヤへの偏見に苦しむ。
ただ、当初からユダヤと知りつつ、彼を助け、友情を示してくれた出会いが彼を救い、様々な苦難が、彼をユダヤに返す。
オススメポイント・エピソード
20代前半に読みましたが、主人公が偏見に耐えかねて、ユダヤを捨てつつも、愛する家族や偏見される方も不幸だが、偏見でしか、物事や人を見れない人のほうが、より不幸なのかもしれないと、人間的な成長を経て、ユダヤに帰っていく。その葛藤や、邁進する姿にすごく感化されました。
今でも、人種差別や宗教戦争などの大きな問題に限らず、日常の何気ない人間関係の中にも、偏見によって苦しむこともあると思います。自分の志をもって、邁進することの大切さなど、理不尽な社会で生きていく、頑張っていく勇気をもらえます。
人間は宗教でも他のことでも、自分が生まれ育った環境で良しとされているものを、無条件でよいと考えてしまう傾向はあると思います。今の世の中、インターネットの普及などで、主人公が生きていた中世ヨーロッパではありません。
情報社会と言われ、いろいろな情報が手に入りますが、やはり、自分の中に枠組みを無意識、意識的に作り上げてしまい、その価値観に、多少なりと縛られている人々は多いと思います。その中で、自分が、以下に生きていくのか、何を基準に自分の人間性を確立していくのか。困難にあっても、環境や運のせいにせず、精いっぱい努力することの大切さも感じられます