「きもの」
著者名/出版社名
幸田文/新潮文庫
あらすじ
主人公のるつ子が子ども、少女時代を経て、大人になっていく過程を書いた物語。
るつ子は子どもの頃から、肌に触れる着物の感触に強いこだわりがあり、感受性が強いがうまく表現できない性質で、家族からも誤解されてしまうくらいだけれど、「おばあさん」にかわいがられて、色々な生活の知恵や、社会のしきたり、違った立場の人間の考えなどを聞くことによって、色々学んでいく。
大人になるまでに色々な出来事があって、るつ子が変遷・成長して行く様子が書かれている。しっかり家を切り盛りできるようになったるつ子に、父親が期待をかけてお見合い相手選びに慎重になっていたときに、一目ぼれをし、父親の好かない人物と結婚することになる。そして結婚式も終わった夜で物語りは終わる。
オススメポイント・エピソード
とにかく着物の描写がすばらしく、本を読んでいる=目で見ているだけなのに、感覚を通して、どれだけその気物がやわらかいのか、どれだけごわごわで不快なのか、などが伝わってくる。
るつ子の「おばあさん」が、生きるための知恵や技術を、るつ子の姉たち以上に気にかけて教え、るつ子がそれらを吸収して成長して行くことで、おばあさんの発言一つ一つが重みを増す。それらが自分にも語られているような書き方で、しかし全然押し付けがましいところもなく、素直に聞く事ができる。また、これらが、現代社会においても同じくらい有用である助言である事が興味深い。
この作品を読んだのは最近だけれど、カンの強いるつ子の性格は、母親とは反りが合わず、母親のためを思ってしたことがほぼ全てあだになって返ってくることが多いなど、自分の子どものときの経験に重なり、共感した部分が多い。
同時に、自分が着物に関心を持ち始めたときに読んだ本で、「折り目正しい」という日本語の意味を、着物を通して感覚で理解する事ができた本でもある。