訴訟大国といわれるアメリカでは、医療の現場ではどのように対応しているのでしょうか。
今回は、アメリカで行われているディフェンシブ メディシンについてお話します。
ディフェンシブ メディシンとは
やや怖いお話になるかもしれませんが、医療訴訟のお話をします。医療訴訟の先進国アメリカでは、ディフェンシブ メディシン(Defensive Medicine) 自衛医療が行われています。医療訴訟が起こったときのことを予め考えて、診断のための検査をしたり治療をしていく医療の仕方です。
例えば、足の骨折で入院中で、低気圧が来ると頭痛に悩まされる人が患者さんでいたとします。入院中に同じような頭痛が起こり、頭痛薬を飲んでも効かなかったと医師に回診時に伝えると、CATスキャンをオーダーをするかもしれません。
これは、たとえ低気圧が来ると起こるおなじみの頭痛だ思われても、入院中の責任は主治医にあるため、血圧が高くなくとも、もしかしてこの患者さんが脳出血や脳梗塞になったかもしれないことを考え、これらの可能性を否定し医療記録に残す=証拠を残すために行われるのです。
中には常に飲んでいる薬を処方するだけの医師もいますし、それで解決する場合もあります。が、医療訴訟というのは大変なエネルギーと多額の賠償金が発生するため、なるべく巻き込まれたくない医師たちのほうが多いのです。
もし、この患者さんが実は脳出血の初期であったとし、発見が遅れ障害が残ったと訴えられた場合、CATスキャンをオーダーしていれば、そしてその結果がネガティブ 陰性であれば、医師は責務を果たしていると反論できるわけです。
ナースが行うディフェンシブ メディシンとは
このディフェンシブ メディシンは医師だけでなく、アメリカではナースもよく行っていることです。ナースの記録も訴訟では重要な役割を果たしますから、どのような行動を取り、処置をし、といった内容を記録して置くことが自分を守ることになります。
ナースの事故報告で誰でも一度は書いたことがある転倒事故。転倒というのは、不穏の患者さんでなくても健常者でもちょっとしたことで転んでしまうことがあり、予防はしていてもなかなか防げない事故でもあるかと思います。このときにナースの記録として、どのような予防処置をしたかを必ず記録に残すことが大切になります。
ベッド柵をしっかり上げておき、ナースコールは必ず届くところへ置き、滑り止めのついた靴下を履いてもらい、足元が見える小さなライトをつけ、必要であればナースコールを押すようにと患者教育をし、そして決まった時間には必ず見回って安全を確認している、と記録に残しておきます。
転倒というのはちょっとした隙に起こりますし、受け持ちがほかにもいる以上一人の患者さんにつきっきりでいるということは不可能なわけですが、記録がなければ、たとえしっかりケアを行ったとしても証拠がありません。ナースとしてやるべきことは行ったその証拠を記録に残すことで、いざというときに助かるのです。
このディフェンシブ メディシンはアメリカの医療費を高騰させる原因(医療訴訟敗訴→高額賠償→敗訴しないよう検査を多く行う→患者の医療費アップ)で、いい医療の方法とはいえません。
ですが、直接ケアを提供するナースは避難されやすい立場にあるため、英語ではCover One’s Buttという表現をよく用いますが、注意を払い、記録をしっかりしていくこと、良い意味での自己主張ができると、これらが自分を守ることにつながるでしょう。
最終回となる次回は、ネットワーキングについてお話します。お楽しみに。