看護師のさまざまな働き方を紹介するコーナー。第7回は大学病院で順当なキャリアを築きながらも、自分がやりたかったこと、経験したことを活かすために乳児院へ転職した上田さん。そんな上田さんが、ここに至るまでの経緯や苦労、やりがいなどを聞いてみます!
今回のゲスト:上田 茜さん
乳児院 看護師
大学病院で内科や外科、小児科を経験したのち、「虐待をなくしたい」という思いから、乳児院の看護師に転職。
乳児院とはどのような施設ですか?
簡単にいうと赤ちゃんのための養護施設です。新生児から1~2歳が多く、実際には小学校就学前までの子どもたちが入所可能です。施設によって違いますが、当施設では生後28日までの新生児室で6人まで、施設全体では35人の子どもを見ています。
多いのは0~2歳の子どもたちです。2歳を越えると、児童養護施設に行く準備を始めたり、次のステージを考えます。これは成長するにつれ遊びの幅が広がってくるので、小さい子と同じ空間にいると遊びが制限されてしまうことなどが理由としてあげられます。
どんな乳児が対象になるのですか?
さまざまな理由によって、家族と一緒に暮らすことができない子どもたちが入所の対象となります。
虐待、親の精神疾患や経済的な理由などによる育児困難などが多いです。また、母親が未成年であったり、未婚であることもあります。虐待は、いわゆる暴力だけではなく、心理的・精神的虐待、食事をさせない・着替えさせない・お風呂に入れない、予防接種を受けさせない、病院に連れて行かないなどのネグレクト、性的虐待などがあります。
虐待は、実の親や母親のパートナーからのもの、預けられた親戚から受けるというものもあります。まだ喋ることができない子どもが多いため、明らかな虐待だけでなく、「疑い」も多いです。
育児困難には、親が元々うつ病や何らかの精神疾患であったり、産後うつによって育児困難になるケースなどもあります。
乳児院では、このような子どもたちだけでなく、子どもを含めた家族が、地域で幸せに生活してくための支援も行っています。
乳児院では他にどんな職種が働いていますか?
看護師のほかにも医師または嘱託医、保育士、心理療法担当職員、栄養士および調理師、家庭支援専門相談員などを置くことが法律で決まっています。保育士の割合が一番多く、全体の7割ぐらいを占めています。嘱託医は週に1回、定期検診に来ており、子どもたちの健康面を管理しています。家庭支援専門相談員は、児童相談所や子どもの親との連絡・調整などを行っています。
入所した子どもたちを今後どうみていくか、何を解決すれば家に帰れるか、または養護施設に行くか、里親を探すかなど具体的な方針を児童相談所の児童福祉司と情報共有し、支援を進めて行きます。
乳児院の看護とは? 役割や必要とされる視点とは?
乳児院に看護師がいる理由は、新生児や病虚弱児がいるからです。生後数日で病院からそのまま入所があることも多いです。未成年での出産や、何かしらの事情があり望まない妊娠をして、中絶するかしないか悩んでいるうちに、その期間を過ぎて飛び込みで出産したり、自宅出産するケースもあります。
このような妊婦では、妊婦健診を一度も受けずに出産するケースが多く、普通の出産よりリスクが高くなります。生まれてすぐには元気そうでも、あとになって何かしらの異常が出てくる可能性もあります。
例えば、低酸素性虚血性脳症があった子が、生まれてすぐの検査では異常がなくても、数日後~数か月後になって障害が現れることもあります。これらの理由から医療者の観察が必要になるのです。
加えて、週に1回の定期検診にも看護師は携わっています。予防接種もその一環です。虐待を受けてきたなど、家庭環境が複雑な子どもたちは定期健診や予防接種をまったく受けてないことが多いため、新たに入所してきた子の成長発達や健康状態の把握を行い他職種と情報共有していきます。予防接種のスケジュールは担当職員と調整し決めていきます。看護師として子どもや職員の健康管理が重要な役割であるため感染対策や予防医療に関する知識が必要です。また、事故や子どもの急変時の対応も求められます。
保育園の看護師と乳児院の看護師の違いは?
新生児がいること、24時間看なければならないので日勤も夜勤もあることですね。また保育園のように発熱などで体調が悪いとき、家に帰すということができません。保育園と異なり、乳児院で関わる子どもは家に問題を抱えていることがほとんどであるため家庭の役割も果たしています。
また乳児院では、精神面や身体面的にも傷を負っている子がいます。身体的な虐待によって麻痺がある子どももいます。そこまで重症の子どもは、うちの園では見ていませんが、病院に併設された乳児院などでは、元々病気や障害がある子どもや、虐待による後遺症や障害がある子の受け入れをしているところもあります。
もう1つの違いは「病院ではなく生活の場である」ということです。例えば、感染対策にしても、大学病院に勤務していたころは厳密にきっちりやっていましたが、乳児院でできることには限界もあります。そういったギャップに多少の葛藤を感じることもありますが、できることを考えながらやっています。
上田さんの働き方[ある1日]
7:00 | 起床して朝の準備 |
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8:30 | 寮を出る |
8:35 | 職場到着。スタッフノートや記録を見て、子どもたちの健康状態を把握するなど情報収集 |
8:50 | 子どもたちのいる部屋に入り、まず夜勤から申し送りをもらう |
9:00 | 日勤開始。朝会に参加し、各部門からのお知らせや今日の予定を確認し、部屋の職員と情報共有する |
9:20 | オムツ交換などを済ませ散歩、プレイルームで遊ぶ、夏場は水遊びなど朝の活動に入る |
10:00 | 活動の合間に朝のおやつ(週一回は定期健診) |
11:00 | オムツ交換や手洗いなど行い昼食の準備 |
11:15 | 昼食。ミルクの子や離乳食の子などさまざまな年齢に対応。食後は歯磨きや着替え |
12:00 | 準備できた子からお昼寝。睡眠チェックや記録 |
13:30 | 交代で休憩に入る |
14:30 | 起きた子から検温、おむつ交換、おやつの準備 |
15:00 | 午後のおやつ |
16:00 | 遊びなどの活動したあと、お風呂。早番スタッフが退勤。夜勤スタッフが勤務開始 |
17:00 | 夕食、病児がいる場合は薬の準備 |
17:15 | 夕食 |
18:00 | 後片付け、歯磨き、着替え、記録 |
18:15 | 退勤。帰りがけに夕飯の買い物、たまに友人と食事なども |
19:30 | 食事、入浴、映画を見るなどして過ごす |
25:00 | 就寝 |
【早番の場合】
05:30 | 起床して朝の準備 |
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06:30 | 寮を出発。職場に着いたら子どもたちの情報収集 |
07:00 | 早番開始。夜勤からの引継ぎ後、朝の掃除、朝ごはんやミルクの準備、おむつ交換、着替え |
07:30 | 朝食 |
08:00 | 後片付け、子どもたちのエプロン洗い |
09:00 | 日勤が出勤してくる(ここからは日勤と同じ仕事を行う) |
12:30 | 休憩に入る(このあとの仕事も日勤と同じ) |
16:00 | 退勤 |
【遅番の場合】
07:00 | 起床。出勤まで洗濯や掃除など家事をして過ごす |
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11:30 | 寮を出発。到着次第、子どもたちの情報収集 |
12:00 | 遅番の勤務開始。食事介助や寝かしつけを行う。トイレ掃除やゴミ出し、物品補充を行う)日勤のサポートを行う |
14:30 | 休憩に入る(このあとの仕事も日勤と同じ) |
16:00 | 早番のスタッフが退勤。夜勤のスタッフが勤務開始。夜勤に申し送りを行ったあと、お風呂の介助などを行う |
18:00 | 日勤が退勤。夕食後の片付け、歯磨き、着替え |
18:30 | 遊び、絵本を読むなどの活動 |
19:30 | 寝る前の準備(オムツ交換など) |
20:00 | 子どもたちの寝かしつけ。その後、呼吸確認のための見回り |
21:00 | 記録を書いて、夜勤に引き継ぎし、退勤 |
【夜勤の場合】
16:00 | 出勤開始。申し送りを受けたあとは遅番と同じ働き方 |
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20:00 | 子どもたちを寝かしつけたあとは夜間の見回り。新生児は10分ごと、乳児は15分ごとに呼吸確認を行い、うつ伏せに寝ている子は身体の向きを替える。夜中のミルクや夜泣きへの対応なども行うため、仮眠は交代で1時間ぐらい。その他、室温や湿度の確認も行う |
21:00 | 遅番スタッフが退勤 |
06:00 | 子どもたちの起床。起きた子からオムツ交換、検温、着替えを開始 |
07:00 | 早番スタッフが出勤、引き継ぎ |
09:00 | 朝申し送りと仕事の引継ぎ |
09:30 | 記録など漏れがないか確認し退勤 |
乳児院の看護師にはどんな人が向いている?
子どもが好きな人が絶対に向いてます。そうでないと辛いと思います。私自身も子どもが好きで、子どもともっとたくさんかかわりたいと思って転職しました。病院では、さまざまな業務や記録があるため、どうしても子どもたちにかかわる時間は短くならざるをえません。けれど今は、一緒にいられ時間が増え遊んだりご飯を一緒に食べたり、子どもたちと生活をともにして、成長発達をより感じることが出来ます。
乳児院によっては、保育室と医務室が分かれており、業務分担がはっきりしている施設もあるようですから、もし子どもとたくさんかかわりたいのであれば、一度情報収集や見学をして確かめたほうがいいかもしれません。
乳児院の看護師として向いていないのはどんな人?
向いていないわけではありませんが、経験が浅いとやはり本人も不安になると思います。病院と比べ医療処置が少ないことは確かですが、医療職だからこそ適切な対応や意見を求められます。また多くはないものの急変対応もあります。病院であれば他のスタッフが助けてくれますが、ここでは看護師が多いわけではないので、相談できる人は限られてきます。自分が率先して対応する必要があります。
医療処置や急変対応にはどんな場面があるのですか?
感冒や感染症への対応はもちろん、アレルギーへの対応、窒息、頭を打ったりけがをしたときの対応などいろいろあります。他のスタッフから病院を受診したほうがよいか判断を求められることもあります。うまく答えられなかったり対応できなければ、自信をなくすでしょうし、判断が遅れば子どもへの影響もあります。そこで、ある程度の知識や経験はとかあったほうがいいと思います。
同僚の看護師にはどんな経歴の人が多い?
小児科、NICUなど子どもとかかわってきた人が多いですね。看護師のなかで7割くらいが小児経験者だと思います。とはいえ、この仕事に興味があるかどうかのほうが大切ではないかだと思います。興味があれば実際に見学して、みるといいと思います。
乳児院の看護師には、どんなスキルアップの道がありますか?
乳児院の看護師が集まる勉強会や全国乳児福祉協議会の研修などがあります。小児科関連の学会に行くこともよいと思います。看護以外でも保育士さんが多く参加するような「療育」をテーマにした教育関係の学会などもあります。
ただ、病院のように研修や勉強会の情報が集まりにくかったり、乳児院で働く看護師を対象としたもの自体が少ないため、私の場合は自分で探して参加することが多いです。
では、どんなキャリアアップの道がありますか?
キャリアアップかどうかわかりませんが、私は養護教諭の免許を持っています。もしかしたら養護教諭として学校で働くときに経験を活かせる可能性はあるかもしれません。