看護学校で解剖生理などを教えている佐々木順承さん
看護師のさまざまな働き方を紹介するコーナー。第2回は、病棟で働きながら、看護学校でも講師として教鞭を取っている佐々木順承さんに話を伺いました!
看護学校の講師とは?
どんな学校で講師をしているのですか?
日本医科学大学校という3年制の専門学校です。看護師科、視能訓練士科、メディカル外語学科があり、医療的な知識や技術、また医療者としての人格形成にも力を入れています。僕は非常勤講師として関わらせてもらっていますが、教育熱心な学校だと思います。
「看護学特論」という授業を担当していて、全学年を対象にしています。内容は主に解剖生理、病態生理ですね。あとは国家試験対策講座も担当しています。
授業は週にどれぐらい行うのですか?
週1~2回、1日で1~3コマ程度です。今は新型コロナウイルスの影響もあり、6月まで休校になってしまいましたが、例年では1年生の解剖生理学がスタートしている時期ですね。
僕は、4~5単元の授業を担当しています。1年生には解剖生理、学年が上がるにつれ病態生理を教えていきます。3年生後半になると国試対策の授業が始まります。その時期は結構忙しいです。
学校の先生にも繁忙期はあるのですか?
他の学校や看護学生向けの予備校でも授業を担当しています。特に、年末年始は国試対策の授業の依頼が多く、地方の学校にも行くので、年末から2月中旬ぐらいまでは忙しいですね。
講師になったきっかけは?
自分が看護学生のとき、国試対策のために通っていた予備校があるんです。実は、学生時代はまったく勉強ができませんでした。そこで、ある先生の授業が面白くて勉強の仕方を教えてもらい、とてもお世話になりました。
看護師として働くようになり、その先生の授業を代わりに担当させてもらったことがきっかけです。その後も少しずつ講義する学校が増えていきました。実は今、YouTubeでも解剖生理の解説をしています。そのためか、今はSNS経由でオファーいただくこともあります。
看護学校の講師の役割とは?
もちろんわかりやすく知識を伝えることが大前提ですが、もう1つ、自分ならではの役割があると感じています。
僕は非常勤講師ですが、非常勤だからこそ学校や学生から見て、第三者的な立ち位置であることがすごく生きていると思います。例えば学校の先生が何かを言っても、学生には素直に受け取れないことがあるんです。そんなとき、僕から伝えると素直に受け取ってくれることが多々ありますね。
具体的なエピソードを教えてください
1年生ですごく頑張っている子がいたんです。ただ自分に自信がなく、先生たちが励ましてもなかなか素直に受け取められない。ちょうどその頃、看護過程の授業で記録を書き始めていたようで、上手く書けなかったり、新しい科目が始まったりする時期で、その子にとってストレスの強い状況でした。
先生たちからも彼女の状態について聞いていたので、授業のときに僕から話しかけてみたんです。「〇〇さんはよく頑張っているよね。先生たちからも頑張ってることをよく聞くけど、本当その通りだと思う」って。そうしたら、徐々に雰囲気が明るく変わっていきました。自信が持てたのかもしれません。先生たちにもすごく感謝されましたね。この第三者的な立場をうまく活かすことも役割の1つかなと考えています。
講師として教えるなかで、大切にしているものは何ですか?
「先生や学生が求めているものは何だろう?」と考えながら探ることが大事だと思っています。また、専門用語は極力使わないように話し方、伝え方には気をつけてます。
特に何かを初めて教えるとき、最初だけは専門用語を使わずに説明するんです。一通り説明したあと、ちょっとした復習を兼ねて、「さっき説明したこの部分は、専門用語では〇〇って言うんだよ」と伝えます。
いきなり専門用語を出すと、難しく感じてテンションが下がってしまい、なかなか頭に入りにくくなる。だからハードルの低いところから始めて、徐々に上げていくようにしています。
他にも大切していることはありますか?
楽しんで授業を受けてもらうことですね。自分が楽しく授業できたときは、学生も楽しそうなんです。だから自分がまず楽しめるようにしています。楽しい授業なら眠くならないし、記憶にも残りますよね。逆を言うと、自分がやっていてつまらない授業は学生にとってもつまらないはずです。
楽しさの要素の1つに、一方通行ではない相互にやりとりができる授業があると思っています。そこでコミュニケーションを取れるように、教室中を歩き回って質問したり話しかけたりしています。あとは笑いを取ることも大事ですね。自分の学生時代の失敗談なども初回の授業で必ず話します。
引き出しを増やすために臨床と兼務する
今でも病院での勤務を続けている理由は?
教科書と臨床とをつなげるためです。
教科書の中身を説明するだけなら、ある意味誰でもできますが、そういう授業を受けている学生は死んだ目をしています。でも「教科書で書かれているこの部分だけど、臨床の現場ではね…」と、臨床経験を付け加えるだけで、学生は顔をあげて聞いてくれるんです。臨床で働いている人間が話すからこそ説得力があるのだと思います。
教科書と臨床がつながればイメージしやすいですね
医学も日々進歩してるので知識のアップデートも必要です。そこで病棟で仕事する傍ら、情報収集にも努めています。
例えば、授業で教える内容にオペに関することがあれば、仲の良い外科の医師に頼んでオペを見学させてもらったりします。病院はいろいろな科の医師、他職種の方がいるので、わからないことや知りたいことを教えてもらえる機会が豊富です。知識の引き出しが多ければ、学生からの質問にも答えやすくなりますしね。
佐々木さんの働き方[ある1日]
1時限目から授業がある日06:00 | 起床 |
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07:00 | 自宅を出発 |
08:30 | 学校に到着 教務課の職員に授業で使う資料を渡し、人数分コピーしてもらう。直前まで授業の進行を確認 |
09:00 | 1時限目 |
10:40 | 2時限目 |
12:10 | 昼休憩 休憩しつつ、学生に毎回書いて提出してもらう「授業の感想」を読む |
13:10 | 3時限目 |
14:50 | 4時限目 |
16:20 | 4時限目終了 |
16:30 | 退勤 |
18:00 | 帰宅 |
講師にはどんな人が向いている?
正直なところ、非常勤なので学校の先生たちと密に関わってるわけではないのですが、教育に興味がある人、学生に大切なことを伝えていきたい、という熱意のある方が多いかもしれません。
向き不向きでいうと、あくまで僕個人の意見ですが、向いているのは「我慢できる人」かもしれません。学生もさまざまで、同じ説明でも10理解できる学生もいれば、そうでない子もいます。ただ、1しか理解できなくても、説明の仕方を少し変えれば徐々に理解できるようになります。そこであの手この手と手を替えて、粘り強く伝えられる人が向いているかと思います。
では、不向きなのは「我慢できない人」?
もちろんそれもあります。しかし、何より「人と関わるのが嫌いな人」でしょうか。そもそも看護師の仕事自体、人と関わる仕事です。それは講師でも同じだと思います。授業も一方的に喋ればいいわけではなく、学生と講師の双方向から作っていくものだと思っています。人と関わるのが嫌いな人は、向いてないというより、大変だと思います。
講師には、どんな経歴があると有利ですか?
研究成果や教育者としてのキャリア、教育者本人が学んできた実績も大事です。華々しい経歴の方もたくさんいらっしゃいます。ただ同時に、キャリアだけでなく共感が得られるような人がいいのではと思います。先生という立場は、学生から見るとすごく上なんです。
学生も年齢的に反抗したり、斜に構えることもある。だから自分の弱みや欠点をさらけ出せる人がいいと思います。失敗談などの弱みや欠点をさらけ出すことで、同じ目線に立って付き合えるようになるんですね。
どんなスキルアップ・キャリアアップの道があるの?
スキルアップとしては、知識のアップデートを続けることも1つです。また、僕自身は、伝え方や話し方を駆使して、学生ごとに臨機応援に教え方を変えられるスキルを高めていきたいと思っています。
キャリアアップとしては、わかりやすいものだと研究成果を出すことですね。大学院へ進学したり、研究職として大学に所属して研究している方も多いですね。
僕自身は、今の非常勤講師という身で、あちこちを立ち回りながら教育に携わっていこうと思っています。