銭湯マークのついた「おうちdeお風呂」のユニホームを着た飯島 純さん
看護師の働き方を紹介するコーナー。記念すべき第1回は、救急外来で夜勤専従として働きながら、訪問入浴介護事業「おうちdeお風呂」を経営している飯島 純さんに話を伺いました!
訪問入浴介護事業所経営とは?
まず、訪問入浴介護について教えてください
介護保険認定の主に要介護にあたる利用者さんの自宅に伺って入浴を提供するサービスです。看護師1名、ヘルパー2名で訪問しています。看護師は、バイタルサイン(血圧、体温など)を測定し、入浴できる体調かを確認し、問題がなければ一緒に入浴介助を行います。
入浴介助の流れを教えてください
組み立て式の浴槽を、利用者さんの家に運び込むことから始めます。室内で浴槽を組み立てて、利用者さんをベッドから移して入浴してもらいます。入浴後は着替えを手伝い、再度バイタルサインの測定をします。利用者さんによっては保湿剤や軟膏を塗るなどの処置も行います。
かなり体力が必要な仕事ですか?
浴槽って意外と軽いんです。最近のものは素材が軽くて丈夫になってきてるので、女性でも持ち運びは可能です。当社には男性スタッフもいますし、もちろん僕も現場に出るときには手伝います。浴槽に利用者さんを移すときにも、必ず複数のスタッフで移動させますから、女性でも問題ありません。
訪問1回あたりに要する時間、1日に回る件数は?
1件あたり30~40分ほどかかります。1日で回るのは6~8件。1か月で35件程度のお宅を訪問します。週1~2回利用される方が多いのですが、当社では最大で週3回利用されている方もいます。
利用者さんのお宅の床に防水シートを敷き、浴槽の組み立て中
寝たまま利用者さんが入れるよう浴槽に担架シートを張る
入浴介助中
日本人はお風呂に特別な思い入れをもつ人が多いという
本日の入浴介助スタッフはこの3名でした
(左から、吉田桃子さん、飯島さん、河合 優さん)
訪問入浴の経営とはどんな仕事?
経営の仕事って、具体的には何をしているんですか?
利用者さんを増やすための営業、スタッフの人材管理、新しいスタッフの採用活動などがあります。また、円滑に事業を運営するために、物品を揃えることから始まるシステム作り、サービスの内容や質の向上への取り組み、記録などの書類の管理や給与計算・銀行とのやりとりなど事務的なこともやります。実は別会社として1年前に居宅介護支援事業所も開設しました。そこでこちらでも同じように営業や人材管理などの仕事をしています。
どんな利用者さんが対象? 他事業所との違いは?
具体的にどんな利用者さんが多いですか?
介護保険を利用してサービスを受ける要介護度3~5の方が多いです。いわゆる“寝たきりの方”というとわかりやすいかもしれません。自宅でお風呂に入るのが難しくなった方ともいえます。
例えば、これまで訪問看護師が1人いれば入浴介助ができていたけれど、それも難しくなってきた方。身体的に難しくなってくることもあれば、訪問看護師や家族では対応できなくなってきた場合などがあります。また、そもそも家にお風呂がなく、銭湯に通えなくなった方もいます。他の事業所では対応できない、ターミナル(終末期)の方も全体の2割ぐらいいらっしゃいます。
他事業所と比べてどんな違いがありますか?
管理者・経営者である僕が看護師であることです。そしてスタッフにも看護師がいます。その分、医療に特化してると思います。難病の方、呼吸器を着けていてる方、ドレーンを入れている方など医療度が高い方でも対応することができます。ご家族の協力をいただけば、痰の吸引や褥瘡の処置も対応できます。
看護師の役割や視点が生きる場面は?
看護師の役割や視点が生きる場面はたくさんあります。まず利用者さんの体調などに関するスタッフからの相談には応えやすいと思います。また、スタッフ自身のメンタル相談にも乗りやすいです。僕は職場の雰囲気づくりを大事にしているし、実際スタッフの人間関係も良いのですが、やはり仕事している以上ストレスを感じることもあると思います。そういうときに、メンタル的な支えにはなれると思っています。
他にも看護師ならではの視点が生きる場面はありますか?
訪問看護師などの多職種と、連携がスムーズになることです。 当社では、利用者さんの記録などはインターネット上で共有できるクラウドサービスを使っているので、どこにいても誰でも記録を書いたり閲覧できるようになっています。そこで利用者さんに何かあれば、基本的に僕に連絡が来るのでクラウド上ですぐに記録を確認し、連携している訪問看護事業所などにすぐ連絡をとることができます。看護師同士なので共通言語で話すことができ、情報共有やアセスメントなどが早く的確にできます。
利用者さんのアセスメントができるのですね
利用者さんには、訪問診療を受けてるような状態が不安定な方もいます。そこで体調が変化しそうな徴候や異変に気づいたときなど、医療にあまり詳しくない福祉職からケアマネジャーになった方と連絡を取るときに「僕はこういう見立てです」と、医療的な視点を添えて情報を提供することができ、いち早く医療につなげてもらうことができます。
看護師が訪問入浴介護を開設すると良いことだらけに感じます
ケアマネジャーに報告するときに、利用者さんのADLが上がってきてるからこのサービスは卒業できるかもしれない、あるいはADLが低下してるようならこんなサービスも必要かもしれない、などと提案することもできますね。
訪問看護師に対しても褥瘡の状態、バイタルサインの異常、ADLの状態などを詳しく報告することができます。入浴前のアセスメントのために情報収集する視点で見ている分、観察も密にできていると思います。
ターミナル(終末期)の方から入浴依頼があったとき、迅速に受け入れ対応ができることも、経営者が看護師ならではだと思います。いつ亡くなるかわからない利用者さんを手続きのために1週間も待たせることはできません。依頼が入った翌日に伺うこともありますし、最短では2時間後に行ったこともあります。自宅でターミナル(終末期)を迎える利用者さんにとって、やはり自宅でお風呂に入ることは喜びだと思うのです。
飯島さんの働き方[ある1日]
夜勤明けの日09:00 | 病院の夜勤明けに帰宅。入浴・ユニホームに着替えて事務所へ移動 |
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10:00 | 事務所に到着。午前中はZoomやLINEなどでスタッフとミーティング。昨日分の訪問記録を確認。ケアマネジャーなどからの依頼や電話に対応。事務処理。 ※日によっては自分が現場に出ることもある |
12:00 | 昼休憩 |
13:00 | 利用者さんに関する担当者会議2件に出席 |
16:00 | 事務所に戻り給与計算。銀行に提出する書類の準備 |
18:00 | 訪問入浴から戻ったスタッフと顔合わせ。15分のミーティング後、事務作業 |
19:00 | 勤務終了、退社 |
20:00 | 自宅に到着、食事などリラックス |
22:00 | 就寝 |
07:00 | 起床 |
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09:00 | この日は入浴カーに乗り、現場に出て訪問入浴を2件こなす |
12:00 | 事務所に戻り、昼休憩 |
13:00 | 午後の訪問入浴開始 |
16:00 | 訪問入浴を終え、事務所に戻る。すぐに退社し病院へ向かう |
17:00 | 病院到着、夜勤入り |
翌9:00 | 夜勤明け |
翌10:00 | 再び訪問入浴へ |
経営にはどんな人が向いている?
ところで経営にはどんな人が向いていると思いますか?
元々ヘルパーなど福祉職だった方が経営しているケースや介護事業全般を手掛けている大手企業が経営しているケースが多い印象を受けます。僕のように看護師は少ないと思います。ただ、訪問入浴介護事業所の開設基準は、看護職員1人以上、介護職人2人以上を揃えることとされていますので、看護師免許のある自分が経営をしていると、看護職スタッフ1人分を補うことができて楽でした。
経営者に向いてるのは、きちんとお金の計算や管理ができ、利益を生み出せる人だと思われがちですが、実はお金の扱いより大切なことは、「優しい気持ちがある」ことだと思ってます。スタッフにも利用者さんにも優しい人ではないでしょうか。それができれば、お金はおのずとついてくるものだと思います。
どんなキャリアアップの道があるの?
1つは、サテライト(支店)を増やすことなどで、事業そのものを拡大すること。そして他の種類の事業を立ち上げることも1つだと思います。さきほど、居宅介護支援事業所も経営していると話しましたが、今年から訪問看護事業も始める予定です。関連する事業を横展開に経営することで、互いのサービスに相乗効果が生まれやすくなると思うからです。