エッセイ

ナースのちょっとイイ話

患者さんが入院後、50年間秘めていた「感情」

2018/1/20

テーマ:ナースとしての私のモットー

蓋をしていた感情との出会い

huta

受け持ちの患者さんを「知る」ことで…

私は精神科病院の地域移行機能強化病棟で働いています。退院支援に力を入れていて、他病棟にはない退院促進のためのプログラムやSSTも内容を充実させて、患者さんの意欲を高められるよう取り組んでいます。
ただし、なかには退院の動きのないような患者さんも多いのが現状。スタッフたちも、退院の近い人や本人の退院意欲が目に見える場合は、普段からよく声かけや関りも活発にありますが、長期入院など退院の遠い人にはスタッフからの関りも少なくなりがち。記録には、“様子観察”“目立つ訴えなく穏やか”などといった言葉が並んでいるような状態です。
私の受け持ち患者さんにも、社会的な理由で50年近く入院しており、家族とも疎遠な方がいらっしゃいます。自室でじっと座り、問題行動なし、声かけには愛想よく返事はするけど自ら訴えることはない、典型的な「放ったらかしの患者さん」でした。

「私がどうにかしないと!」

とはいえ、私にとっては初めての受け持ち患者であり、“私がどうにかしないと!”という使命感が無駄に強く、皆が今まで放っていたぶん何か変化を起こしてやらないと癪だとも考えていました。
そんな負けず嫌いな私は、まず今まで電話に出ようとしなかった家族に電話をかけ続けてどうにか連絡先を確保。定期的に近況報告するとともに、昔のお話を聞かせて頂くことに。優しくて読書が好きだった、学生時代のいじめでひどく傷ついた経験など、本人が語らない一面や過去を知りました。患者さんを知れば知るほど、その方が今までどんな気持ちを抱き、諦め、どんな思いを秘めているんだろう、そして何か小さなことでも叶えてあげたいなと思うようになりました。

ずっと秘めていた「思い」

そんなある日、患者さんの母親と電話でお話ししている際、思いつきで患者本人に代わることを提案。「いやもう、あの子は私のことを恨んでるんです。」と拒んだんですが、“直接聞いてみないと気持ちなんて分からないですよ”と本人のもとへ子機を持って向かいました。
本人に電話を勧めてみると「今になって話すことなんて…」と口では言いながらも、電話をじっと見つめています。手に渡してみると、素直に受け取りました。
身体の事、今の生活、兄弟の様子、しばらく二人でお話しが続いた後、患者さんが電話先に向かってお願いをされました。「ここに入院する前、読みかけでまだ途中の本があんねん。送ってもらえへんかな?本棚の一番下の…」

自ら訴えや思いを表出しない方でも

数週間後、お家から頼んでいた本が届きました。患者さんに声をかけると「これな、ずっと途中のままで続きが読みたかってん。でも、家には帰られへんかったからなぁ。」と感慨深げに本を胸に抱いています。そして今まで見たことのないぐらいの満面の笑みで「電話してくれてありがとうな。」と言って下さいました。
自ら訴えや思いを表出しない方も、色んな思いを抱えて今までを過ごしてこられ、これからも過ごしていくんだ、その思いをすくいあげることができるのは私たちなんだと実感しました。
それからは、時間をつくっては、デイルームに出向いたり訪室して、他愛もないことから昔の思い出、家族の事、お話しを聞き、こちらから働きかけていくように心がけています。

●執筆●ちーこ さん

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