• 公開日: 2014/1/4
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】泣いて笑って訪問看護

第19回 『もうほっといて下さい!』―利用者様の発言の真意を察する

医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。


拒絶的な態度の利用者様

その利用者様とはかれこれ4年のお付き合いとなる。 ご主人には先立たれ、息子さんとの二人暮らし。 リウマチと人工肛門の管理でフォロー中。 昔はなんとか這うようにしてトイレまでも行けていたものの、徐々に動けなくなり、現在はベッド上で完全なる寝たきりに。

その方は、大体訪問に行くと不機嫌で怒っていることが多い。

「こんにちは〜。お身体の調子はいかがですか?」と声をかけてもあえて視線をそらし、無視されることもしばしば。バイタル測定をしようとしても「結構です!ほっといて下さい!」と拒否されることさえある。

そんな時は、「わかりました。じゃあ、他の準備だけしておきますね。」と伝え、黙々と他のケアの準備を始める。 あまりに拒否が強く、触らせて下さらない時は帰るしかなくなるが、やはり、人工肛門のパウチ交換はやらない訳には行かず、それはご本人様も分かっているためか、黙ってやらせて下さることが多い。 そして、黙々とケアを続けていく内に、ポツリ、ポツリと怒りの理由を話し始めて下さるのだ。

リウマチで手が思うように動かず、パウチから便を出したくても上手く出しきれず、手や布団を汚してしまう。 その手を洗うことさえできない悔しさ。 かといって定期的に便とガスを出さないとパウチがパンクして漏れてしまう恐怖。 喉が渇いていても、中々思うように蓋を開けられず、簡単には飲めない。 頑張ってやっと飲めたと思ったら今度は蓋がベッドの下に落ちてしまい、閉めるに閉めれず、困っていることも―。

オムツが濡れて気持ち悪いが、頻回に交換を頼むのも気がひけるからあまり尿が出ないように水分はとらないようにされていたり。 見えない所での悔しい想いは山程あると思われる。

※続いては、「病状が影を落とす家族との関係」についてです。
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病状が影を落とす家族との関係

そんな悔しい想いは介護されている息子さんとの喧嘩につながる。

息子さんも、お母様のために、問題が生じる度にいろんな工夫をしてくださっている。蓋が落ちるならストロータイプにしたり、夜間の便とガス抜きを手伝ったり、ベッドサイドに手をふけるタオルを用意したり・・・。 しかし、それでもやはりもっともっと細かい部分でいろんな不具合は生じているのだと思う。 迷惑をかけたくない。でも、かけざるを得ない。

悪いとは思っているが、口論になるとそんな気持ちとは裏腹に、口をついて出てくるのは「もういい!ほっといて!」という投げやりな言葉。 一般的にワガママに見えたり、訴えの多い方は、自分で自分のことをやりたくても、身体が動かないためにできない方がとても多い。
「身体はベッドの中心にしてくれましたか?」
「洋服のシワは伸ばしてくれましたか?」
「パットは本当によれていませんか?」
「リモコンはそこに置いて下さい。もう少し右。タオルは左」
ケアの一つ一つに注意が入ると「そんな些細なことまで指定してくるの?!」と感じることも正直あるが、そんな細かいことまで言わないと伝わらないのが事実。

事細かにケア内容を指定される方も大変ではあるが、実は、言う方がもっともっと大変なのではないだろうか。 そんな細かいことまで頼まないと、思う様に生活できない自分に苛立ち、相手にも気を使い、結果としてそこまでしても、自分の思うようにはことが進まない悔しさ。この辛さは当事者ではないと計り知れないであろう。

そのため、そういう方の場合、慣れるまでの間はとても大変で、お互いにストレスが溜まりやすい。しかし、逆に、流れを掴み、言われなくても動けるようになってくると、関係性が急に良くなることも多い。まあ、それは誰においてもそうなのかもしれないが・・・。 「もうほっといて下さい!!」 その真意は、 「お願い!助けて下さい!!」 なのかもしれない。

拒否をされても、そのまま受け止めるだけではなく、その裏にある本当の気持ちを察することのできる看護師になりたい・・・。そう思っている。

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