医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。
看護学生の実習風景
うちのステーションでは年に4回位看護学生の実習の受け入れを行っている。
毎年毎年いろんな個性を持った学生がやってくるため楽しみにもしているのだが…。
まず、初日。
大体の学生は緊張でガチガチになっていることが多く、訪問先で貧血を起こして倒れ、逆に利用者様に心配されることもある。
これ、笑い話のようだが、ほぼ必ずと言っていいほど一回はある。
倒れる理由は、極度の緊張のことが多いが、他には、見慣れない褥瘡の処置に貧血を起こす場合や、朝ごはんを食べてこなかった…など様々。
そのため、学生には実習に入る前に、食事はしっかりとってきたか?また、気分が悪くなりそうな時は無理せず早めに申告するように指導している。
さて、2日目。
訪問に入る前に、どんなことを実習で学びたいのかを確認。すると、在宅と病院での違いを知りたいという返事がかえってくることが多い。
実際、実習に同行すると、在宅ならではの物品の活用法に驚く学生、家族の介護レベルの高さに驚く学生など様々。それだけ学生にとって、病院と在宅でのギャップが大きく印象的なようだ。
ただ、ここいらへんまでは、ただただ訪問の雰囲気にのまれている学生が多い。
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さて、3日目、そろそろ実習に本腰を入れ、自分も学生ではあるものの、看護展開をするためにどのような姿勢で関わったら良いのかを考え始めて欲しい時期である。
前日から利用者様の情報収集はしているはず。しかし、記録からだけでは拾えない情報は沢山ある。
その利用者様が、在宅でどんな工夫をされながら御自身の体調管理をされているのかとか、家族はどういう関わりをして利用者様を支えているのかとか、ヘルパーさんの介入の度合いなど、いろいろ収集ポイントはある。
しかし、ここで学生が陥りやすいのが、在宅での環境因子、例えば、陰部洗浄ボトルがペットボトルで手作りだとか、ゴミ袋を防水シーツ代わりに使用しているとか、そういう細かいところにばかり目が行ってしまい、肝心な利用者様自身の情報が抜け落ちてしまうことである。
もちろん環境因子は大切だが、主役の利用者様の情報収集が少なければ、看護展開のしようがない。
そのため、学生には、このタイミングで、再度、利用者様の人物像を多面的に捉えるよう伝えている。
真ん中に利用者様。その周りにはどんなサービスがあり、どんなサポートをしているから生活が成り立っているのかを再度考え、記録から拾えない情報は、コミュニケーションで収集するよう促す。
実習4日目位になると、学生の表情も大分変わってくる。
訪問に入る前に、利用者様に聞きたいことをイメージし、担当看護師と訪問に向かう車の中で練習する学生もいる。
初めは緊張で挨拶が精一杯だった学生も、徐々に慣れ、自ら質問したり、バイタル測定に参加してきたり…。
とはいえ、実習は実質10日。やっと利用者様の全体像を捉え、学生なりの看護プランが立案した位で終了になってしまう。
まあ、そんな流れで実習はあっという間に終わってしまうのだが、学生に在宅実習で一番学んで欲しいことは、一つである。
それは、病院で出会う患者様には、その先に在宅(あるいは施設)での生活が待っているということ。
退院したら終わりではなく、退院してからがスタートなんだということ、それを支えるのが訪問看護の仕事なんだということを学んでもらえたら充分なのかなと思っている。
正直、学生のアセスメントを添削したり、指導したりしていると、『なぜそんな解釈になるの?ちゃんと調べてる?』とか『もう少し、考えて行動できないのかな?』など思うこともあるが、そういう時は自分の看護学生時代、先輩に怒られたことを思い出し、なるべく学生の気持ちに寄り添いながらアドバイスするよう心掛けている。
顔をあげて行きましょう!
こんな偉そうに書いてる私も、新人時代は空回りが多く、『あなた、看護師に向いてない』とか『勉強不足!ヤル気あるの⁈』とかよく怒られたものである。
確かにあの頃の自分は、看護師の仕事の重さが分かっているようで分かっておらず、随分と先輩にもご迷惑をかけたなと今では思える。
トイレに駆け込んで泣いていたことも今ではいい思い出。
でも、なんだかんだあっても、諦めずに顔をあげて図太くここまで続けてこられたのは、患者様や利用者様からの支えの言葉があったからだと思う。
看護の仕事は汚い・臭い・キツイの3Kとよく言われるが、それ以上に相手から目に見えない沢山のギフトを貰える仕事であるのは間違いない。
そして、誰にでも一つは必ず、その人しか持っていない看護感があるはず。
だからこそ、そこで落ち込んでいる学生さんや新人さんがいたら、声を大にして伝えたい。
大丈夫!図太く、顔をあげて行きましょう‼