医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。
デイサービスに通いはじめたきっかけ
『僕はね、訪問看護に来てもらったときは寝たきりでね。全然動けなかったんですよ。』そう語る、今年92歳のHさん。
先日のデイサービスで「なんでそんなにいつもお元気そうでいられるんですか?お元気になられた秘訣は何ですか?」と、施設スタッフにインタビューされて改めて考えてみたとのこと……。
Hさんは今でこそ、デイサービスに通い、習字やカラオケもこなし、読書もされる。ベッドサイドでリハビリ体操も出来るまでになられたが、四年前は立つことさえ諦めていた状態であった。
それが、訪問看護が始まり、会話を楽しんでいる内に、「実は大きな車で訪問に来ているんですよ」と当時入っていたA看護師が話すと、どうしてもその車を自分の目で見てみたくなったそうだ。
窓から下を覗けば見えるなら、窓まで頑張って数歩だけ歩いてみようか。そんな小さなことがきっかけで、立ち上がる練習をA看護師と始めた。
訪問が終わる度、A看護師を窓から手を振って見送ることが出来るようになってくると、今度は「歌が好きなんだからデイサービスに行ってカラオケをやってみたら?」と、またA看護師に促されたそうだ。
ご存知の方も多いかも知れないが、デイサービスもいろんなタイプの施設がある。リハビリにメインをおいたマシーンが揃っているような施設、またはレクリエーションが充実している施設、または、日替わりで先生が来てくれて色んな習い事が出来るような施設。
何処に行きたいかは空き状況や送迎が来れる距離にもよるが、ある程度選べるのだ。
患者さんの好奇心に寄り添った訪問看護
『デイサービスなんて行きたくもないよ。つまんなそうだし』とボヤきながらも渋々行き出す。しかし、オススメのカラオケも、競争率が高いため、中々番が回って来ず、自分の納得いくほど唄えない。『やっぱりつまらない…』とA看護師にまた訴えたとか。
そうしたら、今度は「週に数回習字の先生が来ているみたいだから、それに行ってみたら?」と言われ、曜日を変えてとりあえず参加することに。
そうこうしている内に、段々デイサービスのスタッフや利用者様とも友好関係が築かれ、抵抗なく通えるようになったのだと。
定期的な人との関わりはエネルギーとなったようである。
活気も少しずつ戻り、リハビリも訪問看護師と頑張れるようになり、気がつけばデイサービス1番の長老の人気者のお爺ちゃんになっていたようだ。
『あの時、A看護師さんがデイサービスに行きなさい!って言ってくれなかったら、僕はこんな風にはなれなかったかもしれないよ。本当に皆さんのお陰なんです、有難う』Hさんはこぼれんばかりの笑顔で、私達に手を合わせ、頭を下げて下さった。
「いいえ、私達の方が、いつもHさんの笑顔に癒されているから来るのが楽しみなんですよ」 そう言って私達も手を合わせ、頭を下げる。
相手に何かを促す時、タイミングやそれぞれの想いがあると思う。
だが、やはり、動いてみてこそ結果はついてくる。
第二のスーパーHさんを生み出すべく、これからも私達は色んな方々に色んな関わりを提供して行けたらなと思っている。
A看護師に感謝。
デイサービスに感謝。
そして何よりHさんの笑顔に感謝。