• 公開日: 2022/1/13

ズバリここが変わる!第111回 看護師国家試験

このページでは、第111回看護師国家試験の全般にわたる出題傾向と変更点を「ズバリここが変わる」と予想して解説します!



■ 執筆・解説

廣町 佐智子<日本看護研究支援センター 所長>

看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。






こう変わる!出題傾向の変化を予測


 医療や社会保障制度全体が、「少子高齢化」に対応できるようなしくみの構築に追われています。これに伴い、看護師の活躍の場や役割が拡大し、それが看護師国家試験の問題に反映してきます。ここでは、今後出題内容がどう変化していくか、「健康支援と社会保障制度」を中心に予測してみます。



 少子高齢化で問題となるのが、医療保険の破綻です。実は、現在も破綻しかかっているのを必死で食い止めている状態です。そのため、医療保険制度については必ず細かく出題されます。医療保険の保険料は、被保険者の所得に応じて徴収されます。被保険者が医療サービスを利用すると、自己負担以外の医療費は医療保険が出してくれますが、その額が高齢化による罹病率の上昇によってどんどん高額になり、保険料だけではまかなえなくなっています。保険料で足りない分は公費(税金)を注入していますが、現在の傾向が進むなら、保険料を上げるか、自己負担を上げるか、税金を増やすかしなければ破綻します。


 世界に誇る我が国の日本の医療保険制度を維持していくためには、国民が(一次予防・二次予防・三次予防によって)生涯にわたって健康を維持し、元気に活躍し、医療費の高騰を防ぐことが重要です。また同時に、将来、我が国を支え、盛り上げていく次世代を増やし、育成することも重要な責務です。


 「高齢になっても健康を維持して生涯現役で活躍」「子どもをたくさん産んで育てる」は、我が国の医療を維持していく上での重要な課題で、これらに関する出題は年々増加しています。詳しくは、「ズバリここが出る出題予想問題;健康支援と社会保障制度」にも書きましたので、ごらんください。



 医療費を削減するために、国は在宅医療を推進していますが、在宅療養の担い手である医師の数が不足しているため、かわって看護師の役割を拡大しています。その一例として、いわゆる「特定看護師」があります。


 特定看護師とは、医療行為の一部を「特定行為(診療の補助)」と定義し、医師が不在の場であっても特定行為を手順書に基づいて行えるように、特定行為研修を受けた看護師のことです。特定看護師でなくても、医師不在のなかで看護師が患者の病状を的確にとらえる場面が多くなることから、「フィジカルアセスメント」については、出題数が増加すると考えられます。



 成人期は生産年齢にあたり、我が国を支えるために活躍するストレスフルな時期です。生活が不規則になり、生活習慣病に罹患しやすい時期でもあります。この時期に、生活習慣病を一次予防や二次予防で予防することが重要で、予防に関する問題が増える可能性があります。この他、死亡率の高い疾患(癌、心疾患、脳血管障害など)や重度の障害を残しやすい疾患についての出題は例年多くなっています。



 高齢になることでの自然な心身の老化については、これまでも出題されてきました。これまで、「心身が衰えること」は自然なことと捉えられてきましたが、高齢化率が高い我が国では、もっともっと元気でいなければなりません。老年期の疾病の予防(一次・二次・三次)についての問題や、介護保険を利用した居宅介護・施設介護については今後も出題数が増えるでしょう。



 小児看護学でも予防的な視点(一次・二次・三次)は重視されるでしょう。一次予防の場としての学校保健や予防接種の問題も増える可能性があります。


 医療の高度化によって、脆弱であっても生存できる子どもたちが増えています。先天奇形をもつ子どもたちが多いのですが、その背景に染色体異常や遺伝疾患があります。これらの知識もより重視されていくことでしょう。



 高齢になってから妊娠・出産を望む女性が多くなっていることから、不妊治療の問題や、出生前診断の問題も増えていくことでしょう。これまでの看護師国家試験では、正常な妊娠や分娩についての問題が主流でしたが、高齢妊婦の増加を背景に、妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症についても出題されていくことでしょう。


 妊娠から児の6歳までの母子保健をフォローする「母子保健法」の重要度も増すことから、出題数が増える可能性があります。



 精神疾患の多くがストレスをきっかけで発症することから、発達的ストレスや状況的ストレス、ストレスコーピングについての理論が出題されていくでしょう。また精神疾患は一次予防が重要なことから、産業保健分野でのストレスチェック(働く人たちのストレス状況を調査し、必要に応じて改善する)などについても出題が増えることでしょう。



 医療費削減の目的もあって、在宅療養が進められています。在宅療養を支える「地域包括支援システム」についての問題や、その一翼を担う訪問看護ステーションの役割については問題が増えると思われます。



 我が国は災害が多く、災害の度に亡くなる方や、心身に重度の障害を負う人が現れます。こうした不幸を最小限にするための災害対策のうち、災害対策基本法に基づくDMAT[災害派遣医療チーム]やDPAT[災害派遣精神医療チーム]の活躍、災害拠点病院のでの医療、避難所での看護師の役割については今後も重視されていくことでしょう。



 「人体の構造と機能」および「疾病の成り立ちと回復の促進」では、「成人看護学」「老年看護学」「小児看護学」「母性看護学」「精神看護学」で取り上げられやすい疾患に関係する内容が出題されるでしょう。現在の我が国の疾病構造を念頭にした対策が必要な分野です。


 

こう変わる!出題形式の変化を予測



 看護師が医師のいないところで判断する機会が増えることから、フィジカルアセスメントのほかに、各種の検査データや画像の読み取りについても求められ、出題数が増えると思われます。



 データを含んだ長文化が一般的になっています。3問連続の問題では、3問目で社会保障制度について答えさせる問題も多くなってきました。この傾向は今後も続くでしょう。



 五肢択一や五肢択二の問題は、全体の15~20%です。他のコメディカルの国家試験問題では当たり前の形式なので、看護師国試でも増えるのではないかという人がいます。しかし、他のコメディカルは看護師よりも医療の守備範囲が狭いため、五肢で難易度が上がっても対応できると思われます。看護師のような医療の守備範囲の広い職種は、これ以上、五肢問題を増やすと正答率の大幅な低下を招きかねないため、しばらくは現状が続くのではないかと個人的には推測しています。


 看護師国家試験の出題内容は、世の中の動きと連動しています。新しい傾向に眼を向けつつも、看護師として学ばなければならない基本をおろそかにしないで頑張ってほしいと思います。






イラスト提供:イラストAC



 

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