運動好きを生かし、産科病棟で働きながらマタニティビクス教室の開催にも取り組む井部智美さん
看護師のさまざまな働き方を紹介するコーナー。第8回は看護師とともに助産師免許を取得し、産科病棟で働く井部さん。井部さんはマタニティビクスインストラクターでもあります。産科の特徴やおもしろさ、マタニティビクスのやりがいなどを聞いてみます!
産科病棟とはどんな病棟ですか?
周産期において、妊産褥婦さんと胎児・新生児の健康管理や治療、分娩などの医療・ケアを提供します。助産師が配属されている施設が多く、当院では看護スタッフ全員が助産師です。また、当院の場合、産科病棟のスタッフも外来で妊娠中や出産後の保健指導を行っています。
どんな患者さんが対象になるのですか?
正常分娩予定の健康状態に問題のない妊産婦さんに加え、基礎疾患や合併症、産科的異常により治療や管理が必要な妊産婦さんを対象としています。また当院は、神奈川県周産期救急医療システムの基幹病院(3次救急指定)のため、妊娠・分娩中のトラブルなど他院から救急搬送されてくる妊産婦さんが多いのが特徴です。
産科病棟の看護とは? 看護師(助産師)の役割は?
母体と胎児、新生児の身体管理や治療・分娩にかかわるケアを行います。分娩では、助産師の場合、分娩の直接介助(分娩時の呼吸法の指示、新生児をとりあげるなど)を行い、帝王切開であれば手術室に入り出産の介助、新生児の処置などをします。正常分娩の場合、医師の指示がなくても、自身の判断で介助が可能です。看護師の場合、直接的な分娩介助はできず、産婦さん・新生児のバイタルチェックなどの間接的介助を行います。
分娩介助では進行状況を適宜アセスメントし、母子の安全を守ることに努めます。また、早産やハイリスクの新生児ではNICUとの連携も必要です。
以上のような身体的ケアだけではなく、妊産婦さんが自身の体の変化を受け入れ、希望に沿ったお産ができるように、そして出産後は自信をもって育児ができるように支援していくことも重要な役割の一つです。
周産期全般にわたり母子にかかわりケアと支援を行うのが産科看護師(助産師)の役割。写真は新生児の沐浴中の井部さん
産科病棟の看護で必要とされる視点とは?
出産後は育児など新しい生活が始まります。とくに基礎疾患や合併症を抱えているお母さんは、疾患をコントロールしながら育児をするという難しさがあります。また、安全のためのケアを最優先しなければならないこともあり、本人の希望通りのお産ができるとは限りません。そのため、私たちに何ができるかというよりも、できることを妊産婦さんとともに考えていくという視点が必要だと思っています。
妊娠・出産の経験はあったほうが良い?
私自身、妊娠・出産の経験はありません。でも、わからないなりに寄り添うことはできると思います。私の場合、毎日の臨床経験を振り返るとともに、研修などでコミュニケーションスキルを学び、どうか関わっていけばいいのかを模索しています。
横浜市立大学附属市民総合医療センターの総合周産期母子医療センターは、かなり高度な医療を提供する施設というイメージがあります。同センターの産科病棟の特徴をお教えてください
前述したように、3次救急指定病院であり、また同院の全診療科との連携により、さまざまな合併症をもつ妊産婦さんに対して高度な医療を提供できる体制を整えています。それとともに、母子の触れ合いやつながりを重視し、1日24時間母子同室・母乳育児に力をいれていることも大きな特徴だと思います。
母乳育児については2003年にユニセフ・WHOより「赤ちゃんにやさしい病院」(BFH:Baby Friendly Hospital)に大学病院として全国で初めて認定されました。BFHは、ユニセフとWHOが作成した「母乳育児成功のための10か条/母乳育児がうまくいくための10のステップ」に沿って母乳育児支援を行っている病院を認定するものです。
Baby Friendly Hospitalに認定された医療機関に贈られる盾
母乳育児について教えてください
当院では、産後すぐに母子同室のもと母乳育児支援を始め、授乳の指導や観察、赤ちゃんの栄養評価などを継続して行っています。さらに退院後も母乳育児を続けられるように、入院中から退院後の生活をイメージできる支援を行い、また産後の健診などでもフォローしていきます。
母乳育児については、母子ともにさまざまなメリットがあることを示すエビデンスが報告されていますが、母乳が出ない、産後の疲れで母乳育児に積極的になれないというお母さんもいます。お母さんや家族に母乳育児のメリットを理解してもらえるような説明を心がけ、場合によっては母乳以外の栄養を一緒に考えながら、医療者本位のケアにならないように支援していくことが大切だと思っています。
井部さんがインストラクターとして実施しているマタニティビクス教室について教えてください
マタニティビクスは、妊婦さんを対象に開発されたエアロビクスで、スロートレーニング、有酸素運動を組み合わせたプログラムです。当院では、希望者(医師の許可を得た人)を対象に、月に1回、約90分間のマタニティビクス教室を開催しています(現在は新型コロナウイルス感染症の影響で休止中)。
マタニティビクスは、妊娠中に体力や筋力を維持することによって、スムースなお産ができることを目的にしています。妊娠中の取り組みにより血行が改善され、産後は体力・筋力の早期回復や母乳の分泌に良い影響をもたらすなどの効果も期待できます。
井部さんの働き方[ある1日]
日勤の場合:マタニティビクス教室の開催日(新型コロナウイルス感染症拡大前)
7:00 | 起床 |
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7:40 | 家を出発 |
8:20 | 病棟入り、カルテや記録を見て情報収集 |
8:30 | 申し送り |
8:45頃 | <新生児担当の場合>新生児のバイタルチェック、体重測定、沐浴、検査介助など。 |
12:00 | 休憩 |
13:00 | マタニティビクスの会場つくり(会議室を使用) |
13:30 | 参加者のメディカルチェック(体調、血圧の評価、胎児心拍の測定など) |
14:00 | マタニティビクスの実施。準備体操で始まり、徐々に運動強度を上げていく。最後はクールダウンで終了。実施中は、参加者の心拍数上昇の程度をチェック。(実施時間90分) |
16:00 | 会場の片付け |
17:00 | 勤務終了 |
18:30 | 近所のスタジオでヨガやピラティスなどの運動を行い、リフレッシュ |
20:00頃 | 帰宅 |
20:30 | 夕食 |
21:00 | 入浴、テレビを観るなどリラックスタイム |
23:00 | 就寝 |
準夜勤の場合
8:00 | 起床、朝食 |
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10:00 | 参加している「よさこいサークル」の練習 |
13:00頃 | 帰宅。昼食、入浴、休憩 |
15:30 | 家を出発 |
16:00 | 病棟入り、カルテや記録を見て情報収集 |
16:30 | 申し送り |
17:00 | 日ごとに、リーダー(1名)、褥婦担当(2名)、分娩担当(1名)フリー(1名)。 <分娩担当の場合>お産がなければ休憩。 <褥婦担当の場合>授乳の観察・評価(褥婦8〜10人を担当) |
翌24:30 | 申し送り |
1:00 | 勤務終了 |
2:00 | 帰宅 |
2:30頃 | 就寝 |
産科病棟の看護師(助産師)にはどんな人が向いている?
一概にいいきれませんが、入院期間が短いことや分娩進行をタイムリーにアセスメントする必要があることから、急性期の看護が得意だったり、興味があったりする人のほうが向いているのかもしれません。
大学の卒業論文のテーマでもあったのですが、出産体験がその後の育児に長期的に影響を及ぼすことがわかっています。そのため、看護師や助産師のかかわりがとても重要だと考えています。 ですから、どの科も同じだとは思いますが、目先の業務に追われて、妊産褥婦さんの気持ちに寄り添うことを大切にできない人は難しいと考えています。
同僚の看護師には、どんな経歴の人が多い?
私のように大学、もしくは大学院中に助産師を取得して、新卒から助産師として勤務している人もいれば、看護師として他の領域の経験を積んでから助産師になった人もいます。疾患をもつ妊産婦さんのケアでは、産科以外の領域の経験もとても役立つと思います。
どんなスキルアップの道があるの?
ハイリスクの妊産婦さんを対象とすることが多いので、院内の研修システムとして、1年間の救急病棟勤務のプログラムがあります。また、私自身も他施設を経験することにより看護の視点を広げる目的で、同大学である横浜市立大学附属病院の産婦人科で実務研修をしました。また、産科病棟のスタッフは新生児蘇生法(NCPR)という資格を取得するように義務づけられています。
さらにスタッフの多くは、院外の資格を取得したり、講習会に参加したりするなど、自己研鑽に努めています。例えば、母乳育児の支援に必要な技術や知識などをもつ医療者を認定する国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)や周産期救急のための知識や能力を学ぶ教育コースALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)、助産実践能力が一定の水準に達していることを認証するアドバンス助産師などがあります。
また、病棟内の係としての活動も、スキルアップのためのよい機会だと捉えています。私もこれまでBFH・母乳係や臨床指導係を担当しました。
どんなキャリアアップの道があるの?
不妊症看護認定看護師や母性看護専門看護師などの認定看護師、専門看護師の取得や教員になることもキャリアアップの道だと思います。さらに助産師の場合、助産院を開業できるため、母乳育児に特化した助産院など、自分の理想とする助産を追求することもできます。