• 公開日: 2009/3/31
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】キャリアアップStory 私の「転職」と「いま」

【看護師の転職story】第7回 患者さんのADL獲得は「生きる証し」~脳卒中リハビリテーション看護認定看護師~

脳卒中患者さんのリハビリには、看護師などが行う早期からの日常動作への支援が効果的であることが分かってきました。患者さんの病状に配慮し、このような専門性の高い看護を実践するために、2008年、日本看護協会の認定看護分野に、新たに「脳卒中リハビリテーション看護」が特定され、2010年6月、第一期の認定看護師に79人が認定されました。その1人である、関東労災病院の小林絵里佳さんも、2009年10月から現場へ戻り活動しています。

脳卒中患者さんの看護を基礎から学びたかった

脳卒中患者さんの機能障害のリハビリテーション(以下、リハビリ)はこれまで、病態が安定した回復期に、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)、ST(言語療法士)らによる訓練室での機能回復訓練を中心にして行われてきました。しかし近年、患者さんのADL拡大のためには、日常動作の中で急性期から早期リハビリを行うことにより、身体的機能の予後が改善することが明らかになり、在院期間短縮にも有効性が示されています。

そして、それを実践するためには、24時間、患者さんの側でケアする看護師による、適切なリハビリ看護技術が求められています。その実践を現場で支えるのが、脳卒中リハビリテーション看護認定看護師です。

関東労災病院脳神経外科病棟の小林絵里佳さんは、2010年6月に同資格を取得しました。彼女が資格を目指したのは、同病棟の看護を始めて、ちょうど10年目にさしかかったとき。小林さんはそのきっかけについて話します。

「当病棟に異動してきた当時は、脳卒中患者さんの麻痺や手足関節の拘縮は、それ以上回復することはないと思っていました。でも、テレビなどで『ここまで回復できた』という患者さんを見たり、『早期リハビリで関節の拘縮が改善できる』という情報を耳にする機会があり、『私は脳卒中患者さんに対して、最善を尽くしてケアしているのだろうか』という疑問がわいてきたのです。

脳卒中患者さんの看護について、基礎からしっかりと学んでみたいと思っていた時に、病棟師長から新しくできるこの分野の認定看護師資格の取得を勧められ、とてもいいチャンスだと、チャレンジすることにしました」

PTと情報交換する小林さんの写真

PTと情報交換する小林さん。病棟では週1回、PT、OT、STと看護スタッフとでカンファレンスを開く。ここでは、患者さんの筋力、運動能力の評価や看護計画の目標設定について、情報や意見の交換をする。リハビリ室で訓練中の能力を、病棟での日常生活上リハビリに活用できないかなどと、相談することも

病棟での関節可動域訓練の様子

病棟での関節可動域訓練。そのほか、離床訓練、マッサージなど、その患者さんにとって重要度の高い訓練は何かをアセスメントし、リハビリプランを組んでいる

「ここまでできるとは!」看護プログラムに感動

2009年4月より、小林さんは愛知県看護協会認定看護師教育課程で約6カ月間、学びました。

「教育課程の専門科目の中で、私が一番役立ったと思うのは、解剖生理のカリキュラムです。学生のときに勉強したつもりでしたが、改めて講義を受けてみると脳の構造やメカニズムが分かり、病棟で医師が個別の疾患について話すことがよく理解できるようになりました」

特に感動した講義として小林さんが挙げるのは、筑波大学の紙屋克子氏による遷延性意識障害の改善や廃用症候群を予防するための看護プログラムです。

「これは、トレーニングを受けた看護師が、急性期からこのプログラムを集中的に実施することで、遷延化や重症化を防ぐものです。胸の前で拘縮した患者さんの腕と手が、6週間のプログラムを経て開かれていくのです。その過程について講義の中で詳しく聞いて、感動しました。『看護の力はすごい。ここまでできるんだ』と、教えられました」

こうした素晴らしいプログラムに出合い、多くの知識を吸収してきた小林さんですが、これらの知識や技術が、すぐに病棟で実践できたり、他病棟へ指導に行けるわけではありません。例えば、身体的機能の予後を向上させるためには、ICUにおける超急性期から、積極的な端坐位訓練などを行うことがよいとされています。しかし、小林さんが部署を越えてそのリハビリを行うことは、現状では難しい面があります。

そこで小林さんは、2009年10月に病棟に復帰すると、まずは現在の脳神経外科病棟でできることから実践を始めることにしました。

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