漢方薬にもさまざまな種類があり、剤型によって効き方や服薬の方法が変わります。今回は、薬を正しく用いるための知識をまとめてみることにしましょう。
漢方薬の剤型と薬剤名
漢方薬の剤形は、主に散剤、湯剤、丸剤、エキス剤に大別できます。
基本的に漢方薬は煎じ薬で、昔から生薬を細かく刻み、挽いて粉薬にしていました。これが散剤で、「当帰芍薬散」などのように末尾に€散という文字がついています。
湯剤は煎じ薬のことで、「葛根湯」などのように末尾に湯がつきます。また、「当帰芍薬散」を煎じ薬として用いるような場合は「当帰芍薬散料」と表現されます。現在よく用いられているエキス製剤は、この煎じ薬を乾燥させたものです。
丸剤は散剤を蜂蜜などで練り固めたものをいい、「八味地黄丸」などのように丸がつきます。
薬効の出現時間は剤形によって違ってきます。最も早いのが湯剤で、次が散剤、そして最も穏やかに効いてくるのが丸剤です。症状や服用期間に応じて使い分けられます。
漢方薬の特徴は、2種類以上の生薬を用いた複合剤という点にあります。初めの頃にも述べましたが、多種の成分が含まれる生薬を複数ブレンドすることで、含まれる成分はさらに多種多様となり、その作用は穏やかで薬効も多方面にわたります。
用いられる生薬がすべて自然に存在するもので、それらをできるだけ自然に近い形で用いることも特徴の一つです。
また、西洋医学は集団での環境・健康管理を優先するため、どちらかといえば集団レベルで最も効果的・効率的な処方が中心になります。それに比べて、漢方薬は疾患ではなく、個人の症状・体調に合わせた処方を行うため、より個別化された治療になります。この個人レベルでの処方という点が、漢方薬の最も大きな特徴といえるでしょう。
剤型による特徴と取り扱い
湯剤
煎じることで生薬から成分を抽出するため、吸収もよく他の剤型に比べて高い効能が得られます。
また、患者さん個々の症状に応じて生薬を配合できるので、よりオーダーメイドの処方ができるのが大きな特徴です。
ただし、煎じるのに時間がかかるのと、作り置きできないのが難点といえます。湿度の低い冷暗所に保存します。
散剤
生薬を細かく刻み、挽いて粉末状にしたもので、お湯で溶いて服用するのが基本です。煎じる必要がないので、煎じ薬よりも簡便に服用できます。
ただし、成分にばらつきが生じやすい欠点があります。湯剤に次いで吸収がよいです。湿度の低い冷暗所に保存します。
丸剤
散財を蜂蜜などで練り固めたものをいいます。散剤と同じく簡便に服用できるものの、成分にばらつきが生じることがあります。湿度の低い冷暗所に保存します。
エキス製剤
湯剤をフリーズドライにしたものです。成分は湯剤とほぼ同じなのに、煎じる必要がなく、お湯で溶いてもそのままでも飲める利点があります。
「漢方薬は苦くて」という人は、カプセルやオブラートに包んでの服用もできます。メーカーによっては錠剤やカプセル剤もあります。
また、湯剤や散剤が産地や天候などによって成分にばらつきが生じやすいのに比べ、品質が比較的均一化されている点も大きな特徴です。
ただし、湯剤のようにオーダーメイドの処方ができないため、必要な生薬成分が含まれていないときには、複数のエキス製剤を組み合わせて服用することもあります。
密閉されたものが多く、保存にも便利です。湿度の低い冷暗所に保存します。
漢方薬には4種類の剤型があり、西洋薬と違ってそれぞれ剤型ごとの服薬方法があります。それらを守ったうえで、どのくらい飲み続ければよいのか、続いて服薬の目安を示すことにします。
服薬の方法
漢方薬は、1日3回、食前(食事の30分前)もしくは食間(食後2時間)の服用が基本です。これは空腹時の服用のほうが吸収がよいと考えられるためです。
もっとも、食後でも食物と混じることによって成分の吸収が遅くなるだけで、薬効が阻害されることはありません。患者さんのなかには胃腸が弱く、空腹時の服用は胃に障るという人がいるかもしれませんので、その場合には食後の服用を勧めます。
生薬である漢方はもともと、副作用の心配がそれほど大きくないこと、胃腸への負担が少ないことから、西洋薬に比べて服薬方法に関する決まり事が緩やかだといえます。
たとえ薬を飲み忘れた場合でも、西洋薬の場合はある程度時間を空けるか、もしくは1回服用をやめることが多いのですが、漢方薬では食前の服用を忘れたら、食直後に服用しても問題ありません。
決まった時間に服用することよりも毎日服用することのほうが大切で、その人の生活習慣、リズムに合わせて服薬しやすい方法で飲んでもらうようにします。
服用方法としては、エキス製剤などをお湯で溶いて服薬するときは、一般的に100mL程度の湯に溶かし、人肌に冷ましてから飲みます。少量のお湯(茶さじ2~3杯)で練ると溶けやすくなります。複数の薬が出されているなら、一度にまとめてお湯で溶いて飲んでも構いません。
漢方薬独特の匂いや苦味が苦手な小児に用いる場合、どうしても飲めないときには好きな飲料やココア、ゼリーなどと一緒に服用してもよいでしょう。
一方、湯剤を服用するときは、1日分を一度に煎じ、それを3回に分けて服薬します。煎じ方の注意点としては、ある程度時間をかけて煮出し、生薬の成分を十分抽出することです。
生薬のなかには毒性があるものもあり、火を通すことで減毒されるので、必ず決められた時間煎じることが大切です。
また、煎じたものは24時間以内に飲むようにします。抽出される成分のなかには揮発性のものもあるので、できるだけ1日分ずつ煎じ、作り置きする場合でも2日分までとします。服薬する際は電子レンジやガス、あるいは熱いお湯を少量加えて、人肌に温めてください。
なお、漢方薬は温かい状態で飲むのが基本ですが、例えば、のぼせている状態の人に熱いものはよくありません。その場合は冷たくして服用するようにします。
使用する煎じ容器については、土瓶、耐熱ガラス、アルミ、ステンレス、ホーローなど鉄製以外のやかんや鍋を使用します。吹きこぼれないよう少し大きめのものを用意するとよいでしょう。
服薬指導のポイント
煎じ薬は、患者さん個々の症状や体質に合わせて処方でき、効能・効果も高いのですが、手間がかかることから継続しにくいという欠点があります。もし継続が難しいようなら、エキス製剤を選択するとよいでしょう。
前述したように、漢方薬は西洋薬ほど服用の諸注意が厳しくないので、患者さんの生活習慣や環境などを考慮し、継続しやすい方法での服薬を指導することも可能です。
また、漢方薬は穏やかな作用のため、一般に薬効の出現まで時間がかかるイメージがあるようですが、必ずしもそうではありません。特に風邪の場合には、服用して数分後には身体が温まり症状が改善する人もいますし、アレルギー性鼻炎でも15分程度で鼻水が止まる人もいます。個人差はありますが、こうした速効性のある薬もあるのです。
なかでも急性疾患では、早い時期に十分な量を服薬することで、より効果が出現しやすくなります。もし効果がなかなか現れないようであれば、薬の量が不足していることも考えられます。
漢方薬の効果判定については、西洋薬のように血液検査や画像データなどで判定できないことが多く、患者さんの自覚症状で判断することがほとんどです。最近は、痛み診断などで用いられるVAS(Visual Analogue Scale)が導入されるようになってきています。
治療効果は、急性疾患では数日あるいは数週間、慢性疾患の場合には、1~3カ月程度が一つの効果判定の目安となります。この間に改善がみられない場合は、量や薬の検討が必要になります。
ただし、なかには1年ほどたって効いてくるケースもあり、罹患期間が長い場合には、やはり服用期間も長くなる傾向にあります。
自然由来の生薬を複数ブレンドした漢方薬は、作用が穏やかなことは既にお話ししました。それでも、全く副作用がないわけではありません。
注意を要する生薬とその症状についてまとめておきましょう。
副作用について
漢方薬にも多くないとはいえ副作用はあります。特に注意したい生薬が甘草、大黄、附子です。
甘草
多くの漢方薬に含まれ、味噌や醤油の原料などとしても使われるなど食品にも添加されているため、長期間の服用によって過剰投与となり、浮腫、血圧上昇、低カリウム血症などを引き起こすことがあります。アルドステロン症の患者さんやミオパシー、低カリウム血症のある患者さんには禁忌となります。
大黄
瀉下剤(下剤)の代表的な生薬で、下痢、腹痛、骨盤内うっ血などの副作用があります。子宮収縮作用、骨盤内臓器の充血作用があるため、妊婦への使用には注意が必要です。
附子
鎮痛、温補、強心作用がありますが、酔い、のぼせ、しびれ感、冷汗、悪寒、胃痛、チアノーゼ、喘鳴などさまざまな中毒症状があります。副作用には、運動麻痺、下痢、知覚麻痺などがあります。
西洋薬との併用に関しては、基本的に問題はないとされています。しかし、検証できていない部分が多く、完全に問題がないとは言い切れません。双方の薬に同じような成分が含まれていれば過剰投与となり、中毒症状が出現しやすくなるので、注意が必要になります。
なかでもよく知られているのが、麻黄と小柴胡湯です。
麻黄
エフェドリンを含有するため、交感神経刺激作用が増強されて、副作用が出現しやすくなります。主な副作用には不眠、発汗過多、動悸、全身脱力感などがあります。また、重篤で不安定な狭心症患者さんでは、心筋梗塞を誘発することもあります。
小柴胡湯
インターフェロン製剤との併用によって間質性肺炎が増多することがわかっており、インターフェロンで治療中の方は禁忌となります。
妊娠中の服用に関しては、胎児の奇形への関与が最も大きな問題として挙げられます。しかし、これについてはデータがないため、リスクの有無、確率について確かなことはいえません。したがって、心配な人については服用を中止します。胎児の身体が出来上がってきた段階で服用の再開を検討してもよいでしょう。
流産や早産に関与するものとしては、下剤が俎上に挙げられます。メリットとデメリットを比較して、どれだけメリットが大きいかによって判断していきますが、実際には下剤作用のある生薬成分は処方しないことがほとんどです。具体的に慎重を要する生薬は、大黄、芒硝、紅花、桃仁、牡丹皮、附子などです。
授乳中では、特に大黄含有製剤についての注意が必要です。
副作用の多くは、血液検査や尿検査によってわかります。2~3カ月ごとに定期検査を受け、副作用症状の有無を確認することも、早期発見のためには大切だということを述べておきましょう。
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