訪問看護の世界では、若さは「経験不足」「頼りない」と見られなくもない。若い看護師が揃うケアプロに、不信感を募らせる利用者様。この試練をどう乗り越えるのか……、2回に分けてご紹介しよう。
ターミナルを在宅で
食道がんの末期と診断された80代のS様は、奥様と2人暮らしである。S様は嚥下機能に障害があるけれど、とろみをつけた少量の食事と好物のアイスクリームを楽しみに、穏やかな療養生活を送っている。
S様とケアプロとのお付き合いは、夜間緊急事態に備えて24時間体制のステーションを希望されていることと、水分補給を目的とした点滴管理に対応できる訪問看護をと、自宅近くの診療所ドクターから依頼されたことがきっかけだった。
若い看護師に不信感を抱く
さっそくS様の元へケアプロの看護師が訪問した。ところが、輸液の漏れにより水疱ができてしまう。おそらく、体動が原因だろう。しかし奥様はこのトラブルを期に、若い看護師が揃うケアプロへの不信感を募らせていったのだ。
奥様にとって初めての介護は不安ばかり。むせるようなわずかな変化にもすぐさま救急車を呼ぼうとするなど、不安が強い状態だった。それだけに、S様夫妻からみれば、孫世代に近いケアプロの看護師に不安を感じるのも無理のないことであろう。
信頼関係を築くために
そんな時に介入したのが、都内の大学病院で3次救急のICU看護師を経験してきた田川だった。「点滴を扱うのには慣れているし、自信がある」という田川。
しかし、S様に点滴を行う間、奥様は田川に横眼でじろ~りと鋭い視線を飛ばし、「大丈夫なのかしら…、この間は失敗されちゃったし…」と、小声でつぶやき続けた。看護を終えても、目も合わせてくれない状況であった。
「この状態を何とかしなければ」。大切な方の看護を任せていただくには、お互いにわだかまりを抱えたままでは、うまくゆくはずがないからだ。
S様と奥様との出会いから、信頼関係を築くまでを振り返る田川