現役看護師・イラストレーター 仲本りささんインタビュー
看護や日常で感じたことをイラストにした投稿が人気の、現役看護師・イラストレーターの仲本りささん。
ナースフェス東京2018での直販・サイン会
ナースフェス東京2018では、エピソードコンテストの受賞エピソードのイラストムービーも手掛けていただきました。また、フェス当日は、会場内で書籍『病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト』の直販・サイン会も開催。多くのナースが訪れました。
絵を描くナース、仲本りさ
―りささんは、今、急性期病院にいらっしゃるんですよね?
急性期病院で看護師をしています。看護師になって5年目です。月に4~5回夜勤があるかたちで勤務しています。
2017年4月15日Instagram投稿
2016年9月25日Instagram投稿
―イラストはいつから描いているのですか?
イラストというか、絵日記というか…
描き始めたのは看護学生時代、確か大学2年くらいからだったと思います。
実は、母が育児日記として、わたしの観察“絵日記”をつけていて…(笑)わたしが生まれたときから、今でも続いています。だから、絵日記はわたしにとってとても身近なものなんです。
―どんな気持ちでイラストを描いているんですか?
わたしにとって、絵を描くということは、複数の意味を持っていると思います。まずはやっぱり、覚えておきたいことを、そのまま残しておくために描いているということ…これは、とっても心が動いたことや印象深かったこと、または「あ、これ絶対大事なことだ」と感じるにも関らず、その時理解できなかったことを書きとめているという場合もあります。そういうことを、そのまま紙の中に保存しておいて、ちゃんと消化していきたいと思うんです。
2017年4月12日Instagram投稿
2017年12月12日Instagram投稿
あとは、自分の心の健康のため(笑)心を腐らせないことは、とっても大事。絵日記には、思ったことを素直にそのまま出して描いています。そうして絵や言葉として紙の上に出すという作業を通して、いろんな出来事を消化していっている気もしています。
2018年4月1日Instagram投稿
―インスタでイラストを公開するわけは?
最初は、なんとなくだったんです。描いた絵日記のうちの1枚を、なんとなくインスタに上げてみたら、地元の友達が褒めてくれて…それが単純にうれしかったんですよね(笑)で、時々イラストをアップしていたら、段々、直接は知らない看護師の方もフォローしてくださるようになって…今は、イラストをアップすると、いろんな人がいろんなことを思って自由にコメントを入れてくれるのがうれしいです。ああそっか、こんな捉え方もあったんだ…って新鮮に感じることもあって、それが面白いなと思うんです。
まっすぐに、人を理解し・関わっていきたい
―看護師をしていらっしゃる中で、印象深かったことは?
看護師になってから、というよりは、看護学生時代の話なのですが…
“印象深い”と言われて最初に出てくるのは、「仲本りさ」というペンネームを頂いた大学時代の恩師です。実習中、その先生に「あなたは本当に患者さんのことを理解しようとしているのか?」って言われたんですよね。例えば、“高齢だからこういうことは望まないだろう”、“認知症だからこれはできないだろう”…そうやって、勝手に枠にはめて判断した結果、その人の可能性を潰してしまっていたりしていないか?目の前に存在している“その人個人”が、何を考え何を望んでいるのか、ちゃんと理解しようとしているか?と…
当時、知らず知らずのうちに決め付けて思考してしまっていた自分に気がついて、凹みました。無意識にそうなってしまっていたことも、ショックだったんです。
2016年5月7日Instagram投稿
このときの出来事は、ずっと、今でも心の中に残っています。一人ひとりにちゃんと向き合って看護をするっていうのは、理想だと思うんです。…でも、現実では難しいこともたくさんあるんですよね。自分が未熟だったり、どうしようもなく忙しかったり…このギャップに直面すると、苦しいし、大変なんですが、でもやっぱり、引っ掛かりがあるというか、わたしにとって、ひとつのテーマみたいなものなのかもしれません。人を、ちゃんと理解したい、人と、ちゃんと関わりたい。これからも取り組み続けていきたいと思っています。
2016年9月16日Instagram投稿
医療の現場では、いろんな人の“想い”が交差している
―ナースフェス東京2018「エピソードコンテスト」受賞作品を絵にして、どうでしたか?
人のものがたりを絵にするって、難しいんだなと思いました…!ものがたりに登場する人は、一体どんな顔をしていたんだろう?どんな空気があって、その前後にどんな会話があったんだろう?どんな服を着ていたのかな、どんな髪型なのかな、どんな風に笑うのかな…そんなことをずっと考えていました。
でも一方で、エピソードを読むとイメージはぶわっと浮かびました。患者さん、そのご家族、看護師、リハスタッフ、医師…病院って、いろんな立場の人が、いろんなことを想っていると思うんです。でも、それぞれがそれぞれの想いを表現しあう機会はなかなか無い。エピソードコンテストは、その“なかなか無い”機会だったんじゃないかなと思います。
エピソードコンテスト受賞作品
―最近出版された書籍『病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト』でも、患者さん、そのご家族、看護師、医師…いろんな方が出てきます。どんな風に作られたんですか?
実は出版社に持ち込みで…その時ストーリーはまだなくて、数枚の絵と「紙の本を作ってみたい!」という気持ちだけを持って、出版社に行ったんです。で、「きっと、誰かを元気にすることができると思うんです!!!」って訴えました(笑)出版が決まってからは、最初に描いた印象に残っている場面が「なぜ印象に残っているのか」を掘り下げて掘り下げて…そうしてストーリーを紡いでいきました。
一番こだわったのは、人の表情です。いろんな登場人物が出てくるのですが、それぞれ、複雑な想いに直面しているシーンが多いんですよね。その想いを表情にこめたくて、納得がいくまで描き直したりもしました。いろんな背景があって、いろんな立場があって、いろんな想いがあって…そんな現場で、私はいろんなものを教えてもらっている気がしています。
―看護師になった。
うれしいことがあった。
おもしろいことがあった。
叱られて落ち込むこともあった。
悔しいこともあった。
「次」を見せてくれる先輩と出会って、あきらめない姿を見せてくれる人たちがいた。
病気になった人たちを目の前にして、当たり前だと思っていたことのありがたさを知った。
私はこの病院という場所で、人と向き合っていく一瞬一瞬の愛おしさを教えてもらった。
2017年9月27日Instagram投稿
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日々の中で目の当たりにすることを、一つ一つ丁寧に拾い上げ、向き合おうとする姿勢を、お話させていただく中でとても感じました。そんなりささんが描くイラストは、看護師あるある!でくすっと笑ってしまうものから、深くじんわり心に響くものまで、本当にさまざま。まだ見たことない!という方、ぜひチェックしてみてください。
取材・撮影・執筆/ナース専科編集部 川口萌