• 公開日: 2016/9/3
  • 更新日: 2018/12/13

仕事が怖くなった私。救ってくれたのは、ある人からの言葉と、笑顔でした

テーマ:「看護師なんかもう辞めてやる!」と、そこからの復帰

師長の優しさと患者ちゃんの笑顔に

baby 3

時間の作業に追われて…

新卒で大学病院に就職し、希望の小児科へ配属。新社会人・新米ナースとして毎日一生懸命でした。
業務に慣れて先輩の手が離れた看護師2年目の夏頃の話です。
大学病院なので毎日多忙なのですが、その日は特に検査や入退院が激しく、SOSを出すのが苦手だった私はとにかく“時間の作業”に必死でした。
受け持っていたのは乳児3人と幼児1人。
点滴ラインや転倒転落の予防は病棟でKYTをしていたのでぬかりはなかったのですが、私はあることを怠っていて、ひとりの乳児を重症化させてしまいました。

「私のせいだ」

不明熱で入院し、尿路感染の診断で治療を受けていた8か月の女の子。
普段からおとなしく、その日も穏やかに臥床していました。
清潔ケアを済ませて次々と作業をこなしていく私。
夕方にやっと落ち着いたところでその女の子を抱っこすると、全身が熱く“寝ている”というよりは“ぐったり”しており、口唇が真っ赤になっていたのです。
2年目の私でも、すぐに川崎病の症状だとわかるような状態。
すぐに先輩看護師に報告。
主治医へ連絡がいき、川崎病の診断がついて治療が始まりました。
私は、看護師として大切な“観察”を怠っていたのです。怠っていたことにも気が付かなかったのです。
発見が遅れたために、その子はなかなか回復せず、川崎病治療の最終段階まで進んでしまいました。
「私のせいだ、こんなことではいつか患者さんを殺してしまう、こんな鈍感な人間が看護師になってはいけないんだ。辞めよう」と考えました。

辞めることも、休むことも、許さなかった師長

弱音を吐くのも苦手だった私は、誰にも相談できず、師長へ辞表を提出しにいきました。
すると師長は、個室で面談の場を設けてくれました。
誰にも相談できずに溜め込んでいたせいか、涙が次々と出てきました。
話の中で「SOSを出すのが苦手で毎日必死で仕事をしている、本当は辛いんだ」ということに師長は驚いていました。
私は辛さや大変さが顔や態度に出ないようで、師長も先輩も「あの子は自分で考えて、順序立てて、仕事がこなせている」と見えていたそう。
この面談で自分の傾向と対策を知ることができました。
しかし、やはり看護師を続けることの恐怖は拭えず、面談をしたその日が夜勤だったのですが「休ませてほしい」と願い出ました。
どんなに願っても師長は首を縦に振りませんでした。
受け持ちの人数を減らす配慮をいただき、夜勤となりました。
私が重症化させてしまった女の子も受け持ちの中に入っていました。

患児ちゃんが見せてくれた「笑顔」

最終段階の治療後で、状態が徐々に回復していた頃でした。
その日の夜勤は夜泣きの子もおらず、病棟全体がとても落ち着いていたのですが、私は看護師として存在しているのが怖くて怖くて仕方がなかったのを覚えています。
子どもたちを可愛いと思う感情も、なくしてしまっていました。
何事もなく夜が明け、ミルクの時間になりました。
受け持ちの中でミルクをあげるのはその女の子だけ。
抱っこをするのが怖かったので、ベッドをギャッジアップさせてミルクをあげました。
目を開けて上手に飲む女の子。半分くらい飲んだところで、ふとこちらに顔を向けました。
そして、ミルクを飲みながら私の顔を見てニコッと笑ったのです。
その瞬間、私の心はふっと軽くなり、その子をとてもとても可愛く愛しく思えたのです。
口角から漏れるミルクを拭き取りながら、『○○ちゃんの方が辛かったよね、本当にごめんね。可愛くないなんて思ったのも本当にごめんね。頑張って生きてくれて、こんな私に笑いかけてくれて本当にありがとう。』と涙を流しながら声をかけました。
その子は私が泣いているのも、その理由も、話しかけられていることもわかってはいないでしょう。
でも、笑顔をみせてくれたこと、お世話をさせてくれることが、私は本当に本当に嬉しかったのです。

師長の配慮と患児の笑顔

師長の配慮がなければこの夜勤は存在しなかったでしょうし、その女の子の笑顔がなければ、私は今、看護師としてここにいなかったでしょう。
この経験から、看護のことも自分のことも、たくさんのことに気づき学ぶことができました。
逃げるのではなく、改善を重ねていき、成長すること。
今では看護を楽しむことができ、後輩指導を任せていただけるまでになりました。
当時の師長の優しさと患者ちゃんの笑顔に救われた、私の看護師ライフです。

●執筆●ゆいこ さん

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