• 公開日: 2014/1/5
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】Dr.パクのドタバタ離島医療奮闘記

第12回 島でよく出会う外傷―骨折や脱臼、想定外の外傷へのプライマリ・ケア

看護師は夜勤のラウンドや訪問看護など、患者さんの健康状態を確認する機会が多くありますが、患者状態を適切に判断するためには、プライマリ・ケアの技術が大いに役立ちます。

本連載では、拠点病院などによる後方支援を期待できない土地で、医療・検査機器などもない患者宅で医療を提供する「へき地医療」を通じ、“究極のプライマリ・ケア”と地域医療の実際を解説します。


想定外の症状に対応する

連載も12回目となりました。ここら辺で少し、島で実際出会う外傷などの小話をしましょう。

こんなこと言ってしまうと元も子もないのですが、はっきり言って、脱臼も、骨折も、必ずと言っていいほど、想定を超えたケースに出会います。

準備不足と言われればそれまでですが、全ての準備を万全にすることは不可能です。むしろ、“初めて出会った外傷にどう対応するか”がとても大切なことかもしれません。

そうはいってもはじまりませんので、少なくとも、離島で必要なコモンな骨折と脱臼について挙げていきいましょう。

よく見かける骨折と脱臼、外傷への対応

脱臼は、肩関節、肩鎖関節や手足の指の脱臼はもちろん、股関節脱臼は乳児や高齢者に比較的頻度の高い疾患と言えます。 外傷に伴うものであれば手首や足首などの周囲に強い靭帯があって固定の強い関節も脱臼することがあるでしょうが、やはり波照間島でも最も頻度が多いのは肩や指の脱臼であったように思います。

骨折は、橈骨遠位端骨折や上腕骨近位部骨折、鎖骨、胸腰椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折、腓骨骨折、あとは中手骨や中足骨などの手足の骨折、ここら辺は比較的よく出会う骨折と言えます。これらのマネージメントは離島赴任前には様々な重症度に応じて対応できるように想定しておく必要があります。

例えば、小児の前腕の骨折を疑ったときは、肘関節の脱臼を伴うこと(モンテジア骨折)があるので肘まで撮影する、などの様々なチェックポイントがそれぞれにあります。

これらの詳細は割愛しますが、私が研修トレーニングを受けた病院では、島に赴任するにあたって整形外科の先生から“島で必要な”整形外科をしっかり学びました。専門医療と総合診療の協力体制が非常に重要であるという意識の強い病院で、実際この教育のおかげで専門医への紹介の質も高まったと感じています。

これは他の診療も同じでした。

例えばリウマチなどの膠原病では関節痛で苦しむ人が多く、しかし基本的には外来での治療、自宅での生活が可能な疾患です。

離島に赴任するにあたって、偽痛風や変形性関節症に対する肩や膝などの大関節への関節注射だけでなく、リウマチ患者に対して手首や足首、さらには指の小関節まで関節注射のスキルを覚えてから赴任したことは、非常に役に立ちました。

さすがに生物学的製剤までは用いませんでしたが、沖縄の離島医師たちは年々大きく変わるリウマチやその他の様々な疾患のアップデートされた診療内容を教育されており、案外離島の膠原病診療のレベルは悪くないのではないかという気もします。

外傷へのプライマリ・ケアとして行う「RICE」

冒頭に「どうせ想定外の外傷に出会う」と書きましたが、医学的な初期治療には環境の限界もあります。少ないマンパワーや島の状況、迫る時間などの中で自分の力ができるだけ最大発揮できるような対応をすべきです。

医学的に100点を目指すのは悪いとは言いませんが、それによって結果的に時間の遅れが発生したり、どうせ搬送して同じことをされるのに患者が痛みで苦しんだりすることも非常に問題です。

怪我をした際に応急的に行うべきとされる処置に、「Rest(安静)」「Icing(冷却)」「Compression(圧迫)」「Elevation(挙上)」の頭文字をとった「RICE」があります。

私は究極的には、“RICEや清潔を確保すること”、“自分の手に負えなければ専門医のところに搬送すること”ができれば合格点と考えていました。

逆に言えば、最も重要であったのは、開放創であればゴールデンタイム(受傷後6-8時間を過ぎると感染の危険が高く、創部の一次縫合ができなくなってしまう)や開放骨折の有無(感染の可能性が極めて高い)の確認などでした。

すなわち、どの程度波照間で対応できて、どの程度急いで専門医のところに搬送すべきなのか。いますぐヘリ搬送すべきなのか、翌日の船でもいいのか。

今日は傷を閉じるべきか、抗生剤を投与すべきなのか。破傷風トキソイドは?破傷風の免疫グロブリンは必要?

特に在宅医療や初期診療に携わる方は脱臼や骨折などに出会う人もいるかもしれませんが、最も重要なのはそこで完璧な医学的対応をすることではなく、しっかり固定して極力痛みを感じないように速やかに病院に搬送することでしょう。

実際私も医療機関外で肩関節脱臼の患者さんに出会ったことがありますが、タオル2-3枚を縛ってつないで即席三角布を作成し、患者にかけて、ガムテープで三角巾ごとグルグル患者に巻いて搬送したことがあります。

それもできなければ長袖でも、ガムテープだけでもよかったでしょう。医学的な対応は無理せず、痛くないように固定して送ればいいと考えます。

プライマリ・ケアで訪問看護師にしかできないこと

逆に総合医や訪問看護師にしかできないことがあります。

転倒して脱臼したんだけど、患者さんはなぜ台風の日にバイクに乗って畑に行ったのか、この人が酒に酔って喧嘩したのはどんな経緯があるのか、家族はどういう状況でどう感じているのか、仕事は地域の中でどんな意味があり子どもはどうなのか、医療者でそれを代弁できるのは生活に寄り添う自分たちだけだと言えます。

私は電話越しに一言、紹介状に一言、「この方は集落の役員で祭りが迫っており非常に重要な立場であった、大変だった」といった旨を付け加えていました。

だからと言って手術の術式が変わるわけではありませんでしたが、こうやって生活と病院をつなぐことが、医学のために生活があるのではなく、生活の中に医学があるのだという私の抵抗だったのかもしれません。

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