テーマ:患者さん・その家族からの「忘れられない一言」
あなたではだめなの。
身寄りのなかったAさん
もう何年も前の事で記憶も薄れていくくらい前の事ですが。
Aさんは一人暮らしで身寄りのない老女。とても気丈な方でした。
泣いている他患者の家族を見て、Aさんは…
ある日、私とAさんが廊下を歩いていた時、詰所の前で泣いている別のご家族の姿が目に入りました。
個室にずっと闘病を続けていた患者さんがお亡くなりになり、ご家族が泣いているご様子でした。
どのくらい私たちはそこに立っていたかはわかりませんが、でも長くその場面を二人で見続けていたような記憶があります。(実際はそれほど長い時間ではなかったと思いますが。)
しばらくご家族が泣いている姿をみていたAさんがポツリと 言葉を発しました。
『私はああやって泣いてくれる家族がいないんだわ。」と。
「あなたではだめなの」
どうやってフォローしていいのかわからないけれど、私はこの時何かを言わなければならないような気がして思わずAさんに「泣いてくれるご家族はいないかもしれないけれど、私たちはAさんが亡くなったら、やっぱり泣くと思うのですよ。ご家族の代わりにはなれないけれど。」ととりあえず思い浮かんだ台詞を彼女に伝えました。
すると、彼女から思いがけない一言が出てきました。
「違うの。あなたではだめなの。」と。
患者に寄り添うことのむずかしさ
彼女は看護師の業務的な涙は求めていないのでした。
きっと、暖かい家族生活を送る。というのにずっと憧れを持っていたのかもしれません。
でも、それが叶わず今日まで来たことに寂しさを感じていたのかもしれなかったのです。
私はほんの数秒間彼女の肩を抱き寄せましたが、彼女は拒む事なく黙って私の行為を受け入れてくれました。
患者に寄り添う難しさを学んだエピソードでした。