看護師、出版社編集者を経てフリーの著述家に。看護の経験を活かした作品を中心にリリースしている。『おたんこナース(原著、小学館)』、『ドラマ・ナースマン(原案小説、角川書店)』『エンゼルメイクQ&A(医学書院)』など。
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今月は、カンゴサウルスを、もっと話題に!と、「突撃! ナースの里帰り⑩」をお送りします。
第9回 復職の呼びかけで重要な「ウェルカムの雰囲気」 はコチラ
日本看護協会には、カンゴサウルスという恐竜がいます。看護職のワークライフバランス推進を応援するマスコットキャラクターです。
恐竜は長い間栄えたあとに絶滅しましたが、環境の変化に適応した恐竜の仲間は、のちに鳥類として生き残ったといいます。そのイメージをいかし、看護職の「繁栄」と「変革」のシンボルとして創出されたのが「カンゴサウルス」のようです。
日本看護協会は「ワーク・ライフ・バランス推進カンゴサウルス賞」(看護職のWLB推進ワークショップ事業に参加し、3年間取り組みを続けた医療施設とそれを支援した各県看護協会の努力を表彰)を設けて、全国の各施設を表彰しています。
受賞した施設では授賞式の模様を広報誌などに掲載し、さらにインターネットにもアップしていることが多く、そこにカンゴサウルスが写りこんでいますので、見たことない方はぜひご確認ください。人間よりやや大きい、ピンク色の、恐竜の姿をしているのが彼女(彼?)ですから。
賞を受けた施設には、賞状とともに記念品としてカンゴサウルス人形が贈られるので、その人形の写真か実物を見た方は多いかもしれませんね。
また、日本看護協会では、カンゴサウルスのイラスト57点のデータをダウンロードして各施設で自由に活用できるようにしています。
並々ならぬ、力の注ぎ方ですね。
なんといっても、キャラクターのイメージに恐竜を使ったところに、日本看護協会の切実さや切迫感・凄みを感じます。ほんわかやさしいほのぼのした雰囲気の「〇〇ちゃん」といったキャラクターでは、看護職のワークライフバランス推進の応援のムードや形にそぐわないわけですね。看護職が仕事と私生活を両立して離職しないで済むようにし、復職しやすい環境にする。それが看護師の確保・定着のために「急務」であるということです。
というわけで、カンゴサウルスは、差し迫った状況の象徴的存在といっていいと思いますが、一般社会でほとんど話題になっていません。この現状はいかがなものでしょうか。
看護職の確保・定着は、医療の受け手になりうるすべての人に大きく影響のあるテーマです。提供される看護の質が保証されるかどうかの大問題だと思います。
ですから、たとえば、テレビニュースや新聞などで「ワーク・ライフ・バランス推進カンゴサウルス賞」の授賞式の模様や活動の様子を取り上げていただき、それは一回きりに終わらず折に触れ、看護師の労働環境とワークライフバランス推進状況をカンゴザウルスとともにレポートしていただきたいものです。
それと、カンゴサウルスは「ゆるキャラ」界とは一線を画していると思われますが、せっかく着ぐるみが制作されているのですから、「ゆるキャラ」の各種イベントに参加し、なんなら「しゃべるキャラクター」となって、看護職の労働環境の現状やワークライフバランスの重要性をアピールするというのもよろしいのではないでしょうか。
まずは、看護職のあいだでカンゴサウルスを意識的に話題にして、つぎの展開への糸口にするのもよいのではないかしら。日本看護協会の舵取りに賛同するのなら。
なかなか看護職のワークライフバランスが進まず、看護+ゴジラ=カンゴジラのほうがよかったのでは、なんて声が聞こえてこないように。
突撃! ナースの里帰り⑩
患者さんと、帰省について話した記憶があります。ずっと昔のことです。たしか40代の男性のAさんという方。点滴のボトルを新しいものに交換する作業をしている私に、彼は言いました。
「小林さんって、どこ出身?」
「茨城県ですけど、Aさんはどちらですか?」
「それはおしえない。で、定期的に帰省してるの?」
「もちろんです。正月と5月の連休とお盆はかならず。えーと、帰省はしてますか?」
もちろんです、という言い方は適切だったのか、帰省の質問はしないほうがよかったのではないか、と言ったあとで思いました。
「えーとね、何年も帰ってないな」
「そうですか」
と答えて作業をしているとAさんは、詩の朗読のような調子でいいました。
「淋しくて 言うんじゃないが 恋しくて 言うんじゃないが 嬉しくて 言うんじゃないが」
そして「これ、知ってる?」とつづけました。
首を傾げている私に、彼は言いました。
「とにかく、何事も、長いこと迷ってしまってはだめだ。迷えば迷うほど、その結論は後ろ向きになっちゃうから」
先日、夜中にテレビをつけたら、北島三郎さんのドキュメンタリーをやっていて、なんとなく見ていたら、北島さんが「帰ろかな」という題の歌を舞台で歌っていました。それを見て、遠い昔のAさんとのやりとりを思い出したのでした。
Aさんが朗読するようにつぶやいていたのは、「帰ろかな」の歌詞の一部だったのです。
もしかして、帰省していない人のほうが、帰省への思いはさまざまにあるのかもしれない、と思った夜でした。
ところで、みなさまにご協力いただきましたアンケート結果を見ていると、帰省先では多くの方が「リラックス」し「ゆっくり」しているようです。今回のイラストでは、帰省先で「羽根をのばせる♪」とこたえてくれた女性H・Oさんを紹介します。
いかがでしたか? 来月号もお楽しみに!