• 公開日: 2014/6/20
  • 更新日: 2018/12/13

それでも、私はあなたの顔を見て、生きていたんだと思いました。

テーマ:看護師になってよかった!

心に残るメッセージ

絆

患者さんとの出会い

20年以上前。新人か一年目位だったと思う。肺切除した個室の患者さんを深夜勤務で受け持った。
オペ後、救命センターへ入り、その日の日勤で病棟に戻って来られた患者さんだった。70代だったけれど大変しっかりしていて紳士的な方だったが準夜帯から不穏気味と申し送られた。
立ち上がったり、自己抜去したり、暴力的だったりする事はなく、ナースコールを押す訳でも無く。ただ、窓を見て手を伸ばし、夜が明けた、とか、カーテンが上がったとか、淡々と訴え続けた。
私は、どうにも気になって、手の空いた時間は、何をする訳でもなくベットサイドに座って話を聞いていた。
ああ、この人には、本当にそう見えるんだな…と、何となく、そう感じた。

夜が明けて…

現実とは全く違う患者さんの淡々とした訴えを、私は、とても穏やかな気持ちで聞いていて、個室のその空間も、ごく当たり前な空気が漂っていた気がした。本当に夜が明けたころ、患者さんが眠りだした。私は、朝の業務をこなすために病室を出た。
朝食の時間になり、配膳を済ませて個室へ行った。患者さんは目覚めており、私を見て丁寧に朝の挨拶をされた。そして続けて「あなたの顔を見てほっとした」と呟いた。聞けば昨夜の事は覚えていないと言う。「それでも、私はあなたの顔を見て、生きていたんだと思いました。」はっきりと、そう言った。
オペ前、特に深く考える事なく患者さんと関わっていた。それでも、そう言って頂けたことは、その後、看護師を続ける上でとても大きな支えになった。

そして、今

今でもふと考える。何気ない関わりが、相手にとっては大きな影響になる事もあるのだろうと。そして私も、あの日の患者さんの一言に、今でも救われ続けている。今はもう、亡くなっていると思われるが、あの時の言葉は、あの日の想いとともに今も私の心の中で生きている。

●執筆●りんご さん

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