看護師国家試験の出題基準は、社会の変化や看護を取り巻く状況を踏まえて改定が重ねられています。ここでは、令和4年の「一般問題」に関する出題基準の改定ポイントと、改定後はじめて実施された112回看護師国家試験の出題状況から、皆さんが受験する113回看護師国家試験の一般問題の傾向を予想します。
目次
一般問題の出題傾向と出題予測
一般問題は科目によって出題数が異なります。そのため、科目ごとにこれまでの出題傾向と今後どのような問題が出題されそうなのかをみていきましょう。
人体の構造と機能
「人体の構造と機能」(以下「人体」)は、看護基礎教育における「解剖学」「生理学」「生化学」「微生物学」などに相当します。令和4年の出題基準の改定では、「人体」の出題は「疾病を理解するために必要な知識」とすることが強調されました。
つまり、成人や老年、小児、母性、精神看護学で出題される頻出の健康問題について、解剖生理学まで遡った知識が求められるということです。
112回の国家試験では骨格筋のアセチルコリン受容体(重症筋無力症の理解に必要)、聴覚受容器のラセン器(感音性難聴の理解に必要)、心周期(心臓弁膜症の理解に必要)、免疫グロブリン(アレルギーや感染防御の知識に必要)、蓄尿と排尿反射(尿失禁を分類する上で必要)などが出題されました。
「人体」の出題範囲は広いのですが、看護学各論を学習しながらそこで扱う疾患を深めることで対応可能です。
- 成人・老年・小児・母性・精神など各看護学で出題されやすい健康問題をおさえておく
- 健康問題に関わる各疾患について解剖生理学の観点で理解を深める
疾病の成り立ちと回復の促進
「疾病の成り立ちと回復の促進」は、学生が最も苦手とする科目です。病態生理や検査・診断・治療に関する知識が問われます。頻出される問題は、体液、酸塩基平衡、炎症などの基本的な病因や、副腎皮質ステロイド剤、精神疾患治療薬などの薬物療法についてなどです。
令和4年の出題基準の改定では、「薬物の特性」「全身の感染症疾患」「回復過程」「皮膚機能」について強化されました。これを反映してか、112回の国家試験では「薬物動態」「薬物の生態学的半減期」「薬物の血中濃度モニタリング」、「帯状疱疹」「創傷治癒過程」「外科的侵襲を受けた患者の生体反応」について出題されています。
薬物に関する問題の増加は、患者の療養の場が多様化し、看護師主導で服薬指導や管理を行う場面が増えているためと考えられます。
- 体液、酸塩基平衡、炎症などの基本的な病因、副腎皮質ステロイド剤、精神疾患治療薬などの薬物療法は頻出
- 薬物の特性、全身の感染症疾患、回復過程、皮膚機能も要注意
健康支援と社会保障制度
「健康支援と社会保障制度」は、少子高齢化、人口減少、世帯人数の減少を背景としてその重要度が増しています。令和4年の出題基準の改定でも、保健統計(人口・世帯・国民健康栄養調査など)や社会保障制度の根幹(憲法第25条、社会保険・社会福祉・地域保健に関わる法律)はそのまま継続となりました。
112回の国家試験では、保健統計や社会保障制度の根幹となる問題が多数出題されていました。また特にHIV感染症や、予防接種など公衆衛生に関する問題が多いのが注目されました。なお社会保障制度は小児や母性、成人、老年、精神、在宅看護論の問題にも関連して出題されます。
- 保健統計、社会保障制度の根幹となる問題が頻出
- HIV感染症、予防接種など公衆衛生に関する問題も多い
基礎看護学
「基礎看護学」の出題基準では、地域包括支援システムの浸透を踏まえ、看護の対象に「地域での生活者」が含められました。看護師の活躍の場も増えたので「看護師の役割の拡大」についても追加されています。
しかし112回の国家試験は、これまでと変わらず、基礎看護技術や、フィジカルアセスメント、看護過程、多職種間の連携に関するものが中心でした。今後もこの傾向は続くでしょう。
- 「看護師の役割の拡大」が出題基準に追加された
- 例年と変わらず、基礎看護技術、フィジカルアセスメント、看護過程、多職種間の連携に関する出題が予想される
成人看護学・老年看護学
「成人看護学」「老年看護学」(以下「成人」「老年」)は、出題基準に大きな改定はありませんでした。これまで「成人」は、幅広い病態・疾患が出題され出題数も多いのですが、「人体」「疾病」を攻略していれば簡単に解ける問題が多いのも特徴です。
「老年」も同様で、「人体」「疾病」の学習が役立ちます。加えて、高齢者の生活、加齢による身体機能の変化、高齢者特有の疾患(認知症・失禁など)について押さえておくと高得点が期待できます。
- 「人体」と「疾病」の学習で対策する
- 高齢者の生活、加齢による身体機能の変化、高齢者特有の疾患を強化する
小児看護学
「小児看護学」(以下「小児」)の出題基準は、社会の要請を踏まえ「成人期に向けての移行期医療支援」と「医療的ケア児の支援」が加えられました。
これを反映して、112回の国家試験では小学校における医療的ケア児の看護について出題されています。しかし難問ではなく、これまでの出題の中心である、小児の発達、小児特有の疾患の看護、検査や処置を受ける患児への看護が理解できていれば対応可能でした。
また、「小児」は健康管理を行う主体が家族なので、家族への援助についても頻出です。さらに小児が利用できる社会保障制度(特に「小児慢性特定疾病医療費助成」「未熟児養育医療」など)はよく問われるので深めておく必要があります。
- 小児の発達、小児特有の疾患、検査や処置を受ける患児への看護について学んでおく
- 家族への援助に関する問題は出題されやすい
- 小児が利用できる社会保障制度についても理解を深める
母性看護学
「母性看護学」(以下「母性」)では、「妊娠期の診察の介助」が出題基準に加えられましたが、依然として、女性の各ライフサイクル各期に応じた看護や、正常な妊娠、分娩、産褥経過や新生児の看護に関する出題が中心となるでしょう。
「母体保護法」や「母子保健法」についても毎回問われているので確認しておきましょう。
- 女性の各ライフサイクル各期に応じた看護、正常な妊娠、分娩、産褥経過、新生児の看護が出題されやすい
- 「母体保護法」や「母子保健法」に関する内容も頻出するので要確認
精神看護学
「精神看護学」では、統合失調症を中心とした精神疾患や精神症状の理解と対応、薬物療法・非薬物療法の理解、患者家族への支援が出題の中心となっています。
精神保健福祉法に沿った各入院形態や精神障害者保健福祉手帳についても頻出です。出題基準の改定に伴い、特に社会復帰に伴う「障害者総合支援法」の活用や、多職種連携に関わる問題が重視されていくことでしょう。112回国家試験でも、精神障害者の就労移行支援や、生活支援の問題が出題されています。
- 統合失調症などの精神疾患、精神症状の理解と対応、薬物療法・非薬物療法の理解、患者家族への支援に関する出題が多い
- 精神保健福祉法に沿った各入院形態、精神障害者保健福祉手帳の内容も問われやすい
- 「障害者総合支援法」の活用や、多職種連携に関わる問題も増えていくと予想される
在宅看護論/地域・在宅看護論
「在宅看護論」は出題基準の改定によって、在宅看護の対象を在宅療養者だけでなく家族まで含むようになりました。しかし112回国家試験は難問ではありませんでした出題の中心は、在宅での看護技術や利用できる社会資源についてです。
「基礎看護学」や「健康支援と社会保障制度(特に介護保険制度・医療保険制度)」との関連も深いのが特徴です。
- 在宅での看護技術、利用できる社会資源に関する問題が多い
- 在宅療養者の家族への看護も出題基準に含まれるようになった
看護の統合と実践
「看護の統合と実践」では、災害のサイクルと看護(心のケアなど)、国際看護(国際協力や多文化看護)、医療安全(インシデント・アクシデント)などが頻出です。看護の基礎教育を修了した時点での知識となると、この科目で難問化することはできないためシンプルな問題になりやすく、今後もこの傾向は継続されると考えられます。
- 災害のサイクルと看護、国際看護、医療安全に関する問題がほとんど
- 比較的シンプルで解答しやすい問題が多い
おわりに
健康課題や家族機能の変化に伴い、看護師の役割やの活躍の場が多様化しているため、ますます疾病や検査・治療について生化学的・解剖学的知識を根拠に理解できることや、マクロな視点で健康課題や社会保障制度を理解できることが求められると考えられます。過去の問題がどうして出題されているのかを、考えつつ、新たな出題基準にもアンテナを張り巡らせて対策しましょう