この科目では、様々な精神障害者の病態生理、多角的なアセスメント方法、基本的な治療や看護について扱います。精神保健医療福祉の法や施策についても扱っています。
何を習熟することが求められるの?
5つの目標が設定されています。
1)精神保健の基本と保持増進について理解すること
2)主な精神疾患・障害の特徴と看護について理解すること
3)精神障害がある人の理解と支援について理解できること
4)精神障害がある人へのアセスメントに基づく基本的な看護を理解できること
5)精神障害がある人の人権保護と回復支援に関する看護を理解できること
です。
目標1)では、ストレスに対して心を守るしくみである防衛機制や対処行動についての理論を理解することが求められます。
目標2)では、特に統合失調症や気分障害、ストレス関連性障害などの精神疾患の特徴についての学びが必要です。精神疾患は病態生理がまだよく分かっていないものが多く、検査で異常値が出る疾患も限られています。そのため、「特定の症状」をもって診断しているのが実情です。精神症状を表す用語は多数あり、それらを正しく理解したうえで、各疾患の症状の特徴をとらえることが必要です。
目標3)では、精神障害者を支援するうえでの患者-看護職関係についてです。信頼関係の構築や自立支援のための教育的な関わりなどが重視されます。
目標4)では、心理検査や薬物療法、精神療法等についての知識が問われます。目標⑤では、精神障害者の人権を保護し、精神医療の質の向上や、精神障害者の自立支援に関わる「精神保健福祉法」についての知識が求められます。
近年の出題傾向は?
目標1)にあたる部分から「防衛機制」や「危機」について出題されています。目標1)は「精神保健」に関する部分で、予防の分類でいえば「一次予防:心の健康増進、疾病予防」にあたります。精神疾患は、発症すると長期化することが多く、患者やその家族のQOLを著しく低下させることから、予防に力入れるようになってきました。残念ながら正答率は低い傾向にあります。
目標2)からは、定番の統合失調症や気分障害、ストレス関連性障害などのほかに、薬物依存症や発達障害の特徴について問う問題が増えています。
目標3)~5)については、状況設定問題内で出題されることが多いようです。状況設定問題では、精神疾患の急性期・慢性期・回復期(退院に向けた時期)という展開が定番ですが、急性期では強制入院や保護室入室、薬物療法について頻出です。「強制入院や保護室への隔離」は「精神保健福祉法」に基づいていますが、法律に関する知識を問う問題も多数出題されています。慢性期では薬物療法の継続や精神療法について、自身の疾患について学ぶ心理教育、生活の再構築のための作業療法等について頻出です。退院に向けては、「障害者総合支援法」に基づいた障害者福祉サービスについての問題が出題されます。
薬物療法や精神療法など治療に関する問題や、法律が絡む問題が増えると正答率が下がる傾向にあり、そのような問題が多かった110回での正答率は70%と低めでした。しかし、このような傾向は今後も続いていくと思われます。
また、今後はノーマライゼーションの理念のもと、精神障害者の雇用に関する問題も増えていくことでしょう。そのため「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」についてもアンテナを張っておく必要があるでしょう。仮に就職や職場復帰ができたとしても、再発防止(三次予防)のためのストレスマネジメントは重要です。看護師が職場の保健師とどう連携をとっていくかなども今後は出題されるかもしれませんね。
この出題傾向をクリアするための勉強方法は?
実習を通して、精神障害者との信頼関係の構築やコミュニケーションの基本については学んでいると思います。この部分は、普通に考えれば解答できるので、あとまわしにしても大丈夫です。
はやめに取り組んでほしいのは、心のしくみやストレスに対する反応に関する理論、具体的にはフロイトの精神力動や防衛機制、危機理論、ストレス-コーピング理論等についてです。
次に、精神症状を説明する言葉の定義を暗記しましょう。「昏迷」や「せん妄」、「妄想」などは頻出です。また、昏迷は意欲障害、せん妄は意識障害、妄想は思考障害に分類されます。精神症状がどんな障害に分類されるのか、体系的に学んでいく必要があるでしょう。さらにこれらの言葉を用いて、主たる精神疾患の症状の特徴についてまとめておきましょう。
薬物療法や精神療法など各種治療法についても受験生にとって弱い部分です。各種治療法の目的や方法をおさえておきましょう。
「精神保健福祉法」は、精神看護学を学ぶ上で基本となる法律です。そのほか、障害者に関わる法律に ついては、過去問を解きながら押さえておきましょう。
ズバリここが出る予想問題「精神看護学」
問題 薬物依存症患者の精神療法として、最も有効とされているのは次のうちどれか。
1.精神分析療法
2.認知行動療法
3.集団精神療法
4.箱庭療法
〇解答:3
精神療法とは、薬物を用いない治療法をさす。精神療法には個人に対して行うものと、集団を組織して行うものとがあり、後者を集団精神療法という。集団精神療法は、参加するメンバーがお互いに共感しあうことを通して、各自が自分の心の問題を客観的に認識し、考えられるようにする治療法である。薬物依存症患者のほか、アルコール依存症や摂食障害の患者の治療に用いられている。
※精神疾患の治療は薬物療法を主体とし、精神療法などを併用することでより大きな効果を発揮します。
精神療法の目的や治療内容、適用について確認しておくことは重要です。
1月31日の掲載時、上記の解説に、異なる問題の解説が紛れ込んでおりました。修正してお詫びいたします。(ナース専科運営部)
執筆・解説
廣町 佐智子<日本看護研究支援センター 所長>
看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。