いわゆる「病理学」「薬理学」「微生物学」にあたる部分です。「人体の構造と機能(解剖生理学)」を基礎にして展開されます。
何を習熟することが求められるの?
目標として、
1)健康から疾病を経て回復に至る過程について理解すること
2)疾病の要因と生体反応について理解すること
3)疾病に対する診断・治療を理解すること
4)各疾病の病態と診断、治療について理解することが挙げられます。
3)と4)は似ていますが、3)は診断法や治療法そのものがテーマです。4)は具体的な疾病をテーマとして、病態生理や、必要な診断法、治療法についての理解が求められています。
近年の出題傾向は?
主に上記の目標2)3)4)から出題されます。最も多いのは4)からの出題数です。4)の出題基準で示されている疾患は非常に幅広く、過去問にない問題も多く出題されるために、難問のように感じやすい部分です。
ここではまず、目標2)に関する問題をみてみましょう。
例えば、第108回の問題に「内臓の痛みを引き起こすのはどれか。2つ選べ。1.虚血 2.氷水の摂取 3.48℃の白湯の摂取 4.平滑筋の過度の収縮 5.内視鏡によるポリープの切除」というのがありました。
内臓の痛みは、平滑筋や心筋の痛みなので、迷わず1(虚血性心疾患の痛みは知っていますよね)と4を選びましょう。体表を覆う皮膚や粘膜(消化管、尿路の内側)を上皮といいます。上皮で感じる感覚は表在感覚といい、内臓感覚とは別の感覚です。過去問では見かけない問題でしたが、人体の構造と機能が分かっていれば解ける問題です。
目標4)に関しては、脳神経系、循環器系、感覚器系、運動器系、内分泌系、体液・血液、免疫系(「人体の構造と機能」でも頻出)の疾患で、定番のものについて、質問の角度を変えて出題されています。
第110回では、「褐色細胞腫でみられるのはどれか。1.高血糖 2.中心性肥満 3.満月様顔貌 4.血清カリウム濃度の低下 5.副腎皮質ホルモン産生の亢進」という問題がありました。これは学生が苦手な内分泌系疾患の問題です。
褐色細胞腫が副腎髄質の腫瘍で、副腎髄質が交感神経の一部であることを知っていれば、褐色細胞腫は交感神経の刺激症状が出現すると想像できます。よって答えは1です。ちなみに、1~5はすべて副腎皮質ホルモンが過剰になったクッシング症候群の症状です。1が褐色細胞腫とクッシング症候群に共通する症状ですね。
交感神経と副腎皮質ホルモンはどちらもストレスが刺激となって活性化し、似たような作用を呈します。似た作用がある一方で、異なる作用もあるのですが、それらを「人体の構造と機能」で学んでいれば、やさしかったと考えます。
この出題傾向をクリアするための勉強方法は?
「疾病の成り立ちと回復の促進」は「人体の構造と機能」よりも正答率が低く、50%程度となっています。ずばり言いますが、「疾病」は「人体」が苦手な人にとっては、さらに苦手な科目になってしまうのです。逆に「人体」が得意な人は、「疾病」はまったく難しくありません。「人体」が得意な人は、「疾患」を正常な機能が不調になることと理解しています。正常な機能が不調になることで、どんな症状が出現するかを、(暗記ではなく)「人体」の知識をもとに導き出しているのです。「疾病」の問題を難しいと感じる人は、「人体」の学習が絶対的に不足しています。「疾病」に取り組むのは時期尚早と考え、「人体」に戻って学習を深める必要があります。
「人体」のうち、特に脳神経系(そのなかでも特に自律神経系)や内分泌系は、薬物療法を理解するうえでの基礎知識となります。薬物のうち、自律神経系のはたらきを調整したり、内分泌を調整したりするものは非常に多いからです。さらに「人体」で血液凝固や線溶について学ぶと、抗血小板薬や抗凝固薬、血栓溶解薬について理解できるでしょう。白血球についての知識は抗炎症薬や免疫抑制薬を理解するのに役立ちます。
「薬がわからない」という人こそ、急がば回れで「人体」に時間をかけて学習し直してください。
ズバリここが出る予想問題「疾病の成り立ちと回復の促進」
問題 筋原性筋委縮を生じるのは次のうちどれか?
1.ギプス固定後の筋萎縮
2.筋萎縮性側索硬化症
3.ギランバレー症候群
4.筋ジストロフィー
〇解答:4
筋萎縮とは、筋組織の容積が減少することをいう。いわゆる「ちぢむ/やせる」ことである。筋萎縮の原因には、廃用性、神経原性(運動ニューロンの障害による)、筋原性(筋肉そのものの病気による)などがある。
1.(×) ギプス固定によって関節運動や荷重が制限されたために起こる筋萎縮であり、廃用性筋萎縮である。
2.(×) 筋萎縮性側索硬化症による筋萎縮は、上位・下位運動ニューロンの障害による神経原性筋萎縮である。
3.(×) ギランバレー症候群による筋萎縮は、下位運動ニューロンの障害による神経原性筋萎縮である。
4.(○) 筋ジストロフィーとは、遺伝子異常によって筋線維の変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく疾患で、筋原性筋萎縮に分類される。
骨格筋が収縮して、随意運動が成立するためには、前頭葉の体性運動野から運動命令が発せられ、その命令が電気信号となって上位運動ニューロン(ア)、下位運動ニューロン(イ)内を流れる。下位運動ニューロンの先端(神経終末)と骨格筋との接合部を、神経筋接合部(ウ)といい、神経終末からのアセチルコリンが骨格筋の受容体に達し、活動電位が発生し、骨格筋(エ)が収縮する。
この経路上のどこが障害されても、筋力低下や筋萎縮が生じる。その程度は、障害部位によって特徴がある。筋力低下や筋萎縮をきたす疾患は多数あり、どの部分の障害によるものかという視点で学ぶことは重要である。上位運動ニューロンは障害されると回復することは難しい。「神経難病」と言われる疾患の多くは上位運動ニューロンの障害による。
執筆・解説
廣町 佐智子<日本看護研究支援センター 所長>
看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。