今年2月、代表・川添は外務省外郭団体の国際交流基金による「日印社会企業家交流事業」に参加するため、インドを訪問。9日間の滞在中、インド北部の首都デリーと南部のバンガロールを訪ねて、インドのヘルスケア事情を視察してきた。
糖尿病への危機感が希薄な生活習慣
経済成長が著しいインドでは、人口12億1千万人(2011年国勢調査暫定値)のうち、糖尿病患者は6130万人(2011年)と推定されている。成人の糖尿病罹患率は7.1%、平均的な発症年齢は42.5歳。日本や欧州に比べて約10年早く、親として、稼ぎ手としてもっとも重要な年代に発症している。
2030年には1億人を突破すると予想され、今や糖尿病はインドの重要な社会問題になりつつあるが、短い期間だが実際にインドを訪問して、危機感の希薄さに驚かされた。インド人の生活習慣をみると、その特徴が生活習慣病のリスクの高さを表している。
一つが、食習慣。インドの食文化のベースはカレーである。スパイスをふんだんに使った野菜がメインのカレーは、インドの気候にぴったりである。
だが一方では、甘~いミルクティーのチャイ、たっぷりの油で揚げたスナック、砂糖タップリのクッキーを頻繁に口にしている。一般家庭の夕食時間も21時頃と遅めで、太りやすい食習慣であることが分かった。
急激な経済成長に対応できないインド人の体質
二つめに、運動習慣はほとんど無いといってよい。高い経済成長率につきものの環境悪化もインドでは著しく、外でジョギングなどはとてもできない。
一般的に男性は公園でクリケットに興じることはあっても、女性にはそんな機会もなく、慢性的な運動不足だ。しかも伝統的に豊満さは富の象徴とされている。
最近でこそ、富裕層向けに高級ホテル内や高級住宅地に隣接するジムがあるが、利用者は少ない。デリーのWHOに勤務する日本人から聞いたが、「職員向けフィットネスクラブはあるが、インド人は運動嫌いで誰も使っておらず、日本人とカナダ人しか使用していない」という。
三つめが、急激な経済成長に対応できない体質だ。インドでは生活水準の向上があだとなり、糖尿病だけでなく心臓病の合併症患者も増えている。10年間で平均7%の経済成長が4億人の国民を中産階級に押し上げたものの、何世代にもわたって貧困や栄養不良、肉体労働に耐えてきた体は高カロリー食への抵抗力が少なく、糖尿病になりやすいのだ。
予防意識や行動が顕在化していないインドの、とくに都市部で、自分の体に何が起こっているかを客観的に知るためにも、私たちが日本で展開している「ワンコイン健診」のインドでの普及のチャンスも考えられそうだ。
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