一言で漢方薬といってもわからないことばかり……。そこで、初めて漢方医療に触れる人に向けて、違いのわかる「漢方Q&A」から始めてみましょう。
Q一般に処方される薬(西洋薬)と漢方薬との違いは?
A 西洋薬は、ステロイド剤のように作用機序が十分に解明されておらず、複数の薬効を示すものもありますが、基本的に化学合成されたもので、単一の成分で構成されていて、薬効が多岐にわたることはありません。
対象となる症状・疾患は限定的で、「高血圧ならこの薬」と疾患によって処方が決まっています。
これに対して漢方薬は、通常2種類以上の複数の生薬がブレンドされた複合剤で、それを煎じて服用します。生薬そのものに多種の成分が含まれているうえに、その生薬を複数使うことでより多くの成分を含むことになります。しかも、それを煎じることで化学反応が生じ、一つの生薬単位の効能からは想像できないような、さまざまな薬効を示すようになっているのです。
したがって、一つの漢方薬でいろいろな症状に対応することができ、異なった疾患であっても同じ漢方薬が処方されることもあります。逆に、同じ疾患でも患者さんの症状に合わせて処方されるため、異なる漢方薬が使われることもあります。
また、単一成分である西洋薬は比較的副作用が生じやすく、体質に合わないと使いづらいことがあります。
例えば、ある薬を投与されていて便秘がちになると下剤を追加投与しなければならなかったり、逆に下痢に傾けば整腸剤が出されるなど、本来は一つの薬で済むはずが、その副作用を抑えるためにさらに薬が追加されるケースも少なくありません。
生薬にも体質に合わない成分が全くないわけではありません。しかし、多種多様な成分が含まれた生薬のなかには副作用を抑制する作用をもつ成分もあるため、マイナス作用を抑制し、さらに煎じていくなかで相乗効果が生まれ、期待される作用が増強する傾向があります。そのため西洋薬に比べ副作用が少なく、その効果も穏やかとなります。
続いては、「漢方薬と民間薬の違いについて」です。
Q漢方薬と民間薬は同じですか?
A 漢方薬は、少なくとも2種類以上の生薬をブレンドして作られた複合剤で、漢方医学の理論に基づいた処方で構成されています。
また、治療・処方についても何世紀にもわたって専門家が研究し、その成果を蓄積して体系化してきています。
一方、民間薬はゲンノショウコ、センブリ、センナなど、古くから効果があると伝承されている薬のことです。これらは漢方薬にも使われる生薬で、その意味では漢方薬の一つと考えることもできます。
しかし、民間薬は漢方薬のように複合剤ではなく、一つの生薬だけで使われ、効果があるとはされていますが、その適応、使用量・服用方法ともに地域によって異なるなど、かなり曖昧になっています。
最近は、健康食品や東洋ハーブも含めて民間薬を服用している人が少なくありません。確かに、効果が期待できるものもありますが、漢方薬や西洋薬などと併用することでどのような相互作用があるのか、副作用が生じるのかは、服用するまでわからないのが実状です。
厚労省のホームページ上で公開されている情報などを参考にしながら自己判断することが大切です。
Q漢方ではなぜ「未病」という考え方をするのですか?
A 漢方医学には「未病」という独特の考え方があります。西洋医学では、本人が身体の不調を訴えても検査結果に明らかな異常所見がみられなければ、その時点で治療の対象とはなりません。
しかし、漢方医学では、たとえ異常所見がみられなくとも自覚症状があれば本人の訴えを聞き、介入して症状の改善を図ります。
これは、病気かどうかはわからなくても、自覚症状があるということはどこか身体のバランスが崩れている状態にあり、病気の徴候としてとらえることができるという考えに基づいています。そのまま症状が悪化すれば発症する可能性もあるので、その前に問題点を見つけ出し改善していこうというわけです。
つまり、病気とはいえない状態ではあるものの、治療介入が必要とされる状態、それが未病です。
この未病のためにとても重要とされるのが、「養生」です。これは、漢方の古典である『黄帝内経素問』上古天真論に記されたもので、陰陽(後の回で解説します)のバランスがとれた生活を送ることで病気を予防することができるとし、その養生法(生活方法)を説いています。
そこでは、健康的な生活のためには食べすぎや働きすぎ、あるいは怠けすぎはよくなく、食事の量や労働、休息にも一定の規律が必要と書かれています。
また、同・四気調神大論では、健康を維持するには四季の変化に応じた生活を心がけることも重要であるとしています。
現代でも体調が思わしくないと「養生しなくては」といいます。まさに、健康のためには暴飲暴食を慎み、過労や怠惰は避け、気候変化に対応した生活が何よりも重要というわけです。
患者さんの場合は、すでに病気を発症してしまっている状態ですが、入院中あるいは退院後の療養生活においても、この養生の考え方は参考になるとは思いませんか。
(『ナース専科マガジン』2007年11月号~2008年3月号より転載・再編集)
東洋ハーブとは?
和漢植物を乾燥させたもので、古くから健康によいといわれているものをいいます。風味をつけるために用いられ、日本では、薬事法で医薬品に分類されないものは、食品として市販されています。
そもそもハーブとは、薬草のことをさします。東洋ハーブと西洋ハーブの違いは自生する場所によって西洋由来か東洋由来か分けられています。例えば、よく知られているシナモンは、東洋では桂皮と呼ばれていますが、ハーブ自体が異なるわけではないとされています。ただし、ハーブの考え方や使われ方は、西と東とでは異なり、その違いが西洋ハーブと東洋ハーブの特徴となっています。
西洋ハーブは料理のスパイスやハーブティーなどのように手軽に使えるものも多くあります。一方、東洋ハーブは本格的な薬膳料理に代表されるように、なかなか家庭で取り入れづらいものが多いのですが、最近では、東洋ハーブならではの個性を生かした製品も登場しています。
次回は、治療薬としての漢方薬に関するギモンに答えます。