誤認報道で健診会場も外来も混乱?
「測りなおす必要はない! 新しい基準を知らないのかっ!!」
健診会場に大きな声が響き渡りました。ここでは血圧測定に際して、境界域である収縮期血圧130mmhg以上、拡張期血圧85mmHg以上の人は再測定することになっています。担当ナースが、1回目の測定値が143/90mmHgを示したその受診者に再測定をしようとしたところ、激しく拒否されたのです。
テレビでは、あるタレントが「高血圧でずっと薬を飲んでいたけど、新しい基準じゃ高血圧じゃなかったみたいなんですよ。薬代、返してほしいですわぁ」と話していました。「同じような意見を冗談交じりに外来ナースに言う患者さんもいる」と、ある外来ナースも話していました。
こうした混乱の発端は、4月に日本人間ドック学会の「新たな健診の基本検査の基準範囲」に関する発表を受けたマスコミの情報によるものでした。
発表では、「異常なし」とする血圧・肝機能・総コレステロール・LDLコレステロールなどの基準が、現行の判断値よりもかなり緩和されていました(表)。冒頭に挙げた血圧の再測定を拒否した人も、この情報を得ていたのでしょう。
表 日本人間ドック学会が発表した新基準案
現行基準で病気予防&継続治療
新基準案は、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会との共同研究事業として4月に中間発表されましたが、当初から「患者の自己判断による治療中断や受診拒否を招きかねない」と関連学会は懸念を示していました。
予想は的中し、マスコミはこの発表を誤認してしまい、「『健康』基準広げます」や「男性の中性脂肪『高くても健康』」などの見出しで情報を拡散。世の中に誤解が広がりました※1。
この共同研究は、健康な人のなかからさらに健康な「超健康人」を抽出し、その人たちの検査データ分布状況から新基準案が作成されました※2。そして5~10年の追跡調査を行ったうえで、妥当性を検討するそうです。
新基準案の数値は「健康な人がどのようなデータを示しているか」を著していて、その数値が病気にならない根拠にはなりえません。病気予防のためには、従来から示されている現行の基準値を維持するために予防、受診、継続治療が必要です。
今回のマスコミの情報誤認による影響は、少なからずさまざまな場面にみられていますが、こうした誤解を解くキーパーソンはナースではないでしょうか。
- 新基準案はまだ研究途中であること
- 高血圧や動脈硬化症などの病気予防には、従来通りの基準で経過観察・生活習慣の改善努力、そして治療が何より重要であること
この2点をしっかりと伝えていく必要がありますね。
※1 「日本人間ドック学会、健康基準を緩和」は事実誤認 日本報道検証機構
※2 新たな検診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー 日本人間ドック学会