エッセイ

ナースマンが書く話

精神科で「それは妄想」と一蹴し、後悔した話。

2019/5/16

こんにちは。看護師のsin.cos.tanです。

今回は、私が看護師になって初めて担当した患者さんのお話をしようと思います。

これは、もう13年以上前の話。
私の仕事に対する姿勢を変えてくれた出来事であり、そしていまだに後悔もしていることです。

初担当のⅠさん(仮名)

看護師になり初めて受け持ったIさんは、統合失調症の患者さんで入院生活20年。

たまに空笑い(ひとりで笑っている)と、ブツブツと独語(独り言)がある程度で、誰かに迷惑をかけるようなことはない方でした。

一人で笑っていたり、ブツブツ言ったりしてるのは奇異でしたが、おとなしい方なので目立ちません。

日常生活も自立しており、閉鎖病棟ながらも自由に外出できる方でした。いわゆる、典型的な精神科慢性期の患者さん。そんな状態なので、ほとんど手はかかりません。

たまに「ごはん食べたっけ?」と軽い認知症のようなことを言いますが、タバコを吸いに行ったり、外に散歩へ出たりとマイペースに過ごすIさん。

私がやっていたことといえば「施設への退院」をすすめるぐらいでしたが、本人は頑なに拒否していました。

 

「隣の駅に行く」と言い出すIさん

Iさん「隣の駅に行ってくるからご飯いらない」
私「主治医の許可とりました?」
Iさん「大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるよ」
私「じゃあ許可とっていきましょ」

そんなやりとりをしていると、横からベテランのおばちゃん看護師が入り、こう言いました。

おばちゃん「Iさん、数年前も同じこと言って出て行って、隣駅から帰れなくなったでしょ?」
Iさん「今度は大丈夫だよ。それに約束してるんだよ」
私「そうなんですね。誰と約束してるんですか?」
Iさん「そこまで言う必要ないだろ」

約束?友人でもいるのか?
しかし、病棟でも外でも独りでいることがほとんどのIさんに、友人がいるなんて聞いたことがない。

そんなことを考えてると、ベテラン看護師が「もう~。また、その妄想ひどくなっちゃったの?離院*されると困るからやめてよ」と困った様子。

また、その妄想?以前にも同じようなことがあったのか?
*離院:入院中に病院の外へ出て行き、帰って来なくなること

 

外出禁止になる

精神科では、患者さんが離院すると中々面倒なことになります。 簡単にいうと、家族連絡、警察への連絡、スタッフによる近所の捜索などが始まります。

また、Iさんも高齢なので転倒や事故の可能性もあり、病院としても責任問題になりかねません。

結局、スタッフの話し合いにより、Iさんは一人での外出は禁止となりました。 そのことを伝えたら、滅多に怒らないIさんは激怒!

しかし、認知症のような物忘れも徐々に見られるようになっていたこともあり、私自身「仕方ないのかな」と思い、本人をなだめることしかできませんでした。

 

徐々に衰える

毎日散歩に出ていた方が動かなくなれば、当然体力は落ちます。 足腰は衰え、嚥下機能も落ちていきました。

少しでも動いてもらおうと、作業療法なども勧めてみましたが断固拒否。 スタッフが多く出勤している日に「駅前まで外出しませんか?」と誘ってみるも、「隣の駅でなければイヤ」とこちらも拒否。

なぜここまで隣の駅にこだわるのか?
私はそんなことを思いながらも、「あ、妄想か」と片付けるようになっていました。

その後、Iさんは食事を詰まらせたことで肺炎となり、そのまま亡くなりました。 外出禁止になってから半年も経たずの出来事でした。

高齢者の病棟ということもあり、すでに何人かの患者さんを見送っていた私。

寂しさや悲しさはありながらも、「人って、こんなにもあっけなく死ぬんだな」と、どこか淡々としていました。

 

Iさんの姉

Iさんの死亡手続きを終える頃、唯一の家族である姉が遺体の引き取りにきました。

Iさんは80代後半ということもあり、姉は90代。 しかし、その話し方や身なりは、年齢を感じさせない上品な人でした。

弟が生前お世話になったこと、自分も高齢でお見舞いに来られなくなったこと。姉は、感謝とお詫びしました。

「そういえば、Iさんは良家の出身で、軍の幹部候補だったって聞いたことあるな」と、なんとなく考えながら話を聞く私。 そしてIさんの意外な事実を聞かされるのです。

 

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4 件のコメント

  1. 心に響きました。
    人には、それぞれの大切な記憶があることを きちんと自覚しながら人に対したいものです。

  2. この記事を読んで涙が止まりませんでした。
    わたしも1年目に患者さんの想いに添えなかった経験があります。
    亡くなってからその方からお手紙を頂きました。
    今でも大切に持っています。
    人の想いは消えないものだと思います。

  3. 病床700床ほどの精神科病棟に勤務している看護師です。そんな暇な精神療養病棟があるなら私も働きたいです。是非病院名を教えてください。そこに転職したいです。

  4. 精神科と聞くと偏った見方をされがちですよね。私は新人時代2年間精神科に勤務しました。新卒で採決や注射の経験も無く、精神科は特に採決のチャンスは少ないのです。そんな中、体調を崩されたご高齢の統合失調症の男性患者さまに採血と点滴の指示が出ました。統合失調症の症状は見る影もなく、物静かで几帳面な紳士でした。ただ、摂食量が非常に少なく羸痩著名で、その方の血管には弾力がなく新人の私には至難の業を要しました。私が物品を準備して病室に向かうとギョロっと大きな目を見開いて「お願いですから、一回でよろしくお願いします」と頭を下げるのです。経験の浅い私は練習台にでもなってもらおうと心のどこかで思っていた事に気付き、恥ずかしくなりました。「はい」と大きくうなずき顔面から噴き出る汗を感じながら穿刺させて頂きました。血液が逆流した瞬間は緊迫していた空気から一揆に開放されました。お互いに大きなため息をついたことを良く覚えています。翌日出勤するとその患者さまは既に永眠され、退院されていました。あれから30年近くが経ちました。各科を経験、特に救命の場面など一瞬が勝負の場面も多いです〝患者様と向き合うほんの一瞬を大切にしたい。常に手を抜かず真面目に向き合いたい”あの男性からの学びはとても大きく、新人時代に彼と出会えて本当に良かったと常に感謝の念で看護に当たらせて頂いています。
    みなさん恐らくご自分の体験を回想しながらコメントされているのではないでしょうか?sin.cos.tan.さん私の心の引き出し開けて頂きありがとうございます。

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