今回はICU看護師から訪問看護師へ転身を図ったスタッフの思いと看護の姿を紹介します。
自分は看護師といえるのか……
前田和哉は、静岡県西部の基幹病院である浜松聖隷病院でICU看護師として勤務していた。超急性期の医療を必要とする重症患者が来る日も来る日も運ばれてくる。最新の医療技術と手厚い看護が功を奏して一命を取り留めると、無事に一般病棟へと移っていく。
「ICUの看護は、患者さんに寄り添うというよりも『患者さんの命の管理人』といった印象が強く、超急性期の治療を終えれば、私たちの看護は終了です。
患者さんと話をしたくても、命のやりとりをするようなレベルだから叶わないことですし『あの患者さんは障害が残ったかもしれないが、幸せなのだろうか……』と経過が気になっても、個人情報保護の壁に阻まれて、看護の当事者だった私たちですら、カルテで追跡することはできません。
責任は重大でやりがいのある職場でしたが、これは『看護』といえるのだろうか、自分は『看護師』といえるのだろうかと、疑問が次第にふくらんでいったのです」