• 公開日: 2021/12/20

ズバリここが出る「健康支援と社会保障制度」第111回看護師国家試験【予想解説】


近年の社会動向を反映した社会保障制度(社会保険、社会福祉、公衆衛生)と、関係法規から幅広く出題されています。それだけでなく、小児看護学、成人看護学、老年看護学、母性看護学、在宅看護論、精神看護学の一般問題や状況設定問題のなかに散りばめられるように出題されています。出題数は年々増加している印象です。





社会動向を踏まえた社会保障制度や関係法規について扱っています。看護学の一般問題・状況設定問題なかにも含まれて出題されています!


何を習熟することが求められるの?


 目標は4つあります。それらをわかりやすく言い換えると、
 1)国民の年齢構成や生活の状況から、国民が健康で文化的な生活を送るうえでの課題は何かを理解すること。
 2)限られた財源のなか、1)の課題を解決するためにどう社会保険・社会福祉・関係法規が対応しているか理解すること。
 3)国民の健康レベルを向上させるための公衆衛生の施策について理解すること。
 4)看護師に関する法規や、医療提供体制のなかの看護師の役割、課題について理解すること。
 となります。


国民の健康課題を解決するために、どう社会保障制度や関係法規が対応しているか。また医療提供体制のなかの看護師の役割、課題についての基礎知識が問われます


近年の出題傾向は?


 主に目標2)3)から出題されます。

 まず目標2)に関してですが、医療費を削減するための施策についての問題が中心になります。そのなかで、介護保険は頻出です。2000年に誕生した介護保険は、それまで介護レベルの高齢者を長期間入院させた(社会的入院)ことで高騰した医療費を削減する目的で制度化されました。介護保険は毎年出題されていますが、高齢者介護を担う家族が減少していることから今後もますます重要度が増すことでしょう。

 医療費を削減するための施策は他にもあります。一次予防、二次予防、三次予防という言葉がありますが、これらは医療費削減にも大いに貢献する考え方です。現在話題となっている医療施策のほとんどは、これらのどれかに当てはめて整理することができます。

 一次予防(疾病予防・健康増進)には、「健康増進法」などが該当します。健康増進法では、国民の健康習慣を把握し(「国民健康栄養調査」)、健康目標を設定して国や自治体レベルで様々な取り組みを行っています。三次予防(早期復帰、再発防止)としては、入院調整や退院調整、クリティカルパス、医療連携(急性期病院→回復期病院など、病状に応じた連携)などが該当するでしょう。地域包括支援システムも、在宅を中心とした医療システムの構築ですから、ねらいのひとつに医療費削減があります。

 頑張って切り詰めている国民医療費ですが、高騰する一方です。国民医療費は、どのような財源で賄っているのでしょう。国民は皆保険で何らかの医療保険に入っているので、医療費が発生すると、自己負担分だけ払います。残りの医療費は医療保険者が払います。医療保険者には、被保険者(加入者)から収入に応じて集めた保険料がありますが、保険料では足りず、公費(税金)を投入してもらっています。公費の割合が多いのは国民健康保険と高齢者医療です。医療保険は赤字経営で、保険料を上げたり、自己負担率を上げたり、公費の負担率を上げたりしてやりくりしていますが、このままでは破綻してしまう危険性があります。こうした深刻な現状があるために、医療費削減や公的医療保険に関する問題は必ず出題されるのです。

 目標3)については、保健統計や感染症対策が中心に出題されています。保健統計は、国民医療費高騰と医療保険の赤字経営を説明するための、高齢化率、出生率、有病率、健康寿命などが必ず出題されます。

 他に、地域保健、母子保健、精神保健、学校保健などから毎年出題されています。また、その中での看護師の役割について問われることもあります。


国民医療費が高騰している原因である少子高齢化にまつわる統計や、医療費削減のための一次~三次予防に関わる施策が高率に出題されます


この出題傾向をクリアするための勉強方法は?


 出題範囲が非常に広い分野ですが、まずは「ズバリ近年の出題傾向」でも示した日本の医療における課題について概観を頭に入れることが重要です。施策や法律を学ぶ前に、必ず日本の医療にはどんな課題があるのかを、保健統計資料を見ながらしっかりイメージしてください。

 今の日本の医療の最大の課題は、医療保険の破綻を防ぐことです。そのためには、女性や障害者、高齢者にもどんどん活躍してもらい、経済的に日本を盛り上げてもらうこと、特に女性には子どもも生んでもらえるような社会を作ること。公衆衛生を向上させ、国民の健康レベルを全体的に上げること。医療費を削減するために一次~三次予防に力を入れ、在宅療養を中心とした医療のしくみをつくること。介護保険と連携し、医療レベルではないものは介護保険で担当してもらうこと。看護師の機能を拡大させ(一部の医療行為を代行する特定看護師の養成)、医療費の削減をはかることなど、いろいろ挙げられます。

 これらを関連付けて図にしてみると、頭が整理されて苦手意識が薄れ、勉強しやすくなります。過去問に取り組む際には、図のどの部分を学習しているのか確認しながら取り組むと、さらに理解が深まります。

 地域保健、母子保健、精神保健、学校保健については、地域看護学、母性看護学、小児看護学、精神看護学を学びながらのほうが頭に入りやすいと思います。実習でも関係法規を意識して取り組むとよいでしょう。


日本の医療における課題を、保険統計を根拠に書き出し、各課題にどんな施策や法律があるのか、関連図で整理してみましょう。全体を概観することでぐっと勉強しやすくなります!


ズバリここが出る予想問題「健康支援と社会保障制度」


問題 労働災害の防止を目的のひとつとしている法律は次のうちどれか?

1.労働基準法
2.労働者災害補償保険法
3.労働安全衛生法
4.労働組合法


解答:3

1.(×) 労働者が人間らしい生活を送るうえでの最低基準の労働条件(賃金、終業時間、休憩等)について定めた法律である。
2.(×) 労働者災害補償保険法(労災保険法)とは、雇用されている立場の人が仕事中や通勤途中に起き傷病や障害、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度である。
3.(○) 労働安全衛生法は、職業病や労働災害の防止、より健康的な労働環境の確保や労働者の健康の向上を目的とし、労働者の安全と健康を確保した快適な作業環境をつくるための最低限の基準や組織、責任体制について定めている。
4.(×) 労働者が使用者との交渉で対等の立場に立つことを促進することによって、労働者の地位を向上させることを目的とする法律である。




執筆・解説

廣町 佐智子<日本看護研究支援センター 所長>

看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。




関連記事