• 公開日: 2018/11/23
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】基礎から学ぶ 漢方薬ガイド

第4回 漢方での病気のとらえ方

第1回にも登場した「未病」に代表されるように、漢方には病気に対する独特の考え方があります。今回は漢方医学でいう病気と病名について少しお話ししておきましょう。


漢方での病気のとらえ方

漢方医学では、身体に悪影響をもたらすものを「邪」あるいは「病邪」と表します。前述したように陰陽論を医学理論としている漢方医学では、この病邪にも虚実があると考えます。

体内に入って何らかの障害を引き起こすほどに力が強いのが「実」、体内に入っても病気を引き起こすほどの力がないのものが「虚」という具合です。

この考え方は、これまで述べた人の虚実とはちょっと異なっているので注意が必要です。ただ、病邪が虚の場合、病気は通常発症しないので、病邪と実と患者の気の虚について対比することになります。

したがって、「実証」であることは、必ずしも健康な状態であるということにはなりません。例えば、病邪によってイライラ感が高い場合には「実証」となり、気逆による気の流れの逆行の程度が強い状態にあるということになります。

特に漢方では、陰陽、虚実ともにどちらかに偏ることはよくないとされ、バランスを保った「中庸」が正常とされます。

蒸気機関車で例えれば、その動力となる石炭をたくさん燃やして蒸気圧を上げると、蒸気圧が高くなりすぎて逆に機関車自体の動きが悪くなってしまいます。

これを身体で考えてみると、生命エネルギーとなる気が過剰になることは、正常にコントロールできていないということで、病的な状態にあるといえるのです。

中庸の概要説明図

このように、漢方医学では常に正常である状態と比較して、それが異常であれば病的ととらえます。

こうした概念は、当然治療法にも影響を与えています。それが「補剤」と「瀉剤」です。補剤は、虚証で体力が弱い人に対して、必要なものを補う療法を指します。逆に瀉剤は、実証で強い病邪に侵入された人に対して、病邪を取り除く療法をいいます。

さらに、病気は単独で起こるわけではなく、気・血・水それぞれの要素が相互に関連し合って起きていると考え、診断をしていきます。

例えば、気虚で胃腸機能が低下していれば、水分を循環させる力も弱くなってくるので、しばらくすると水滞の症状が現れ、気虚に水滞が合併してきます。また、最初は気滞だったのが、気の流れの停滞によって、エネルギーも低下して次第に気虚になり、それが血虚にもつながっていくなど、さまざまに派生するケースがあります。つまり、病態は複合しており、さらに変化していくものなのです。

もちろん、気や血・水の証に特化した漢方薬もありますが、基本的には複合した診断がなされるのはこのためです。

漢方医学での病名

漢方医学では、病態をとらえるよりも、訴えのある症状をいかに改善させるかが重要で、症状がどの漢方薬の適応であるかを判断していきます。

したがって、漢方医学には西洋医学でいう厳密な「病名」や「診断名」というものがありません。あるのは、例えば葛根湯で治る症状であれば「葛根湯の証」となり、さらに別の症状も併発していれば「葛根湯の証と、小柴胡湯の証」などと表現され、診断がそのまま漢方薬の処方となっています。

また、気虚などを記す場合には、五臓のどの機能が気虚であるかにかかわらず、単に「気虚」と表現されることが、これまでは多かったのです。

しかし、現代においては漢方医学もきちんとした説明が求められてきています。状態はどうか、それが起きている臓腑の機能はどうかなど、言葉の組み合わせによって、より細分化された漢方的な病態診断が必要であると考えます。

次回は、診察の方法(四診)ついて解説します。

(『ナース専科マガジン』2007年11月号~2008年3月号より転載・再編集)

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