一言で漢方薬といってもわからないことばかり……。そこで、初めて漢方医療に触れる人に向けて、違いのわかる「漢方Q&A」から始めてみましょう。
今回は、おもに治療薬としての漢方薬についてお答えします。
Q漢方治療に向き・不向きの病気はあるのでしょうか?
A 明治時代に入って日本の医学が西洋医学中心となる以前は、蘭方医学もありましたが、漢方医学が中心となってすべての疾患に対応していました。
それは現代においても変わることはなく、西洋医学が優先されるべき病態もありますが、疾患全般に対応できるといってよいでしょう。
漢方医学の治療は、「本治」と「標治」からなっています。本治とは、体質を改善して根本から治療することで、標治は出現している症状を取り除いていく治療です。
この2つを組み合わせて、まずは標治で症状を改善し、次に本治で体質を改善していく場合、あるいは2つを同時に行う場合、さらに本治だけを行う場合があります。
こうした治療法と漢方薬の特徴から、漢方治療が向くとされるものには、胃腸障害や慢性肝炎、アレルギー疾患、婦人科系疾患、ストレス性症候群、風邪などが挙げられます。
一般的に、急性期疾患や特殊なウイルス感染には西洋治療が向いているとされていますが、風邪に関していえば、どの段階にあってもどんな体質の患者さんであっても共通に薬が処方される西洋治療よりも、症状や体質、風邪の時期(初期、こじれかかったとき等)などの所見に合わせて薬を処方し、きめ細かな対応ができる漢方薬のほうが、早く治ることがあります。
ヘルペスやインフルエンザなど明らかな特効薬がある場合には、もちろん副作用も考慮のうえで西洋治療が優先されますが、それ以外のウイルス感染に漢方治療は非常に向いているといえるでしょう。
一方、向いていないと思われる疾患には、心筋梗塞などの心疾患、高血圧、糖尿病、悪性腫瘍、抗生物質が有効な感染症、急性腎不全など緊急処置の必要性が高い疾患などがあります。
ただし、これもその段階によって異なります。例えば糖尿病の場合、漢方薬にはインスリン作用が期待できないので、食後血糖値のコントロールはできません。
したがって、高血糖による糖尿病性昏睡を起こしている患者さんを漢方治療で対応しようとするのは無謀なことですし、心筋梗塞でのカテーテル治療が必要な場合には、それを優先するほうがよいでしょう。
しかし、軽い糖尿病や高血圧の場合は食事・運動療法に漢方薬を服用することで体調がよくなり、血糖や血圧が安定してくるという症例もあります。
また悪性腫瘍でも、化学療法を行うときによりスムーズにいくように、漢方薬で副作用を緩和して体調を整えるといった、西洋と漢方の併用療法が行われています。
漢方治療は、どちらかといえば西洋医学の代替補完療法としての意味合いが強いように思われますが、漢方医学からみれば西洋医学が代替補完療法ということもできます。
ですから、どちらがどうというのではなく、疾患の特徴や患者さんの体質などに合わせて、西洋医学・漢方医学の特性をうまく取り入れていくことが大切なのです。
Q 現在どれくらいの種類が保険適用で処方されているのですか
A 1976年に保険薬として収載されて、現在は147種類のエキス剤と1種類の軟膏(紫雲膏)が保険適用となっています。
エキス剤は、煎じ薬を乾燥させて顆粒にし、賦形剤を入れて保存できるようにしてあるものです。生薬の形でも保険適用のものがあるので、煎じ薬もある程度保険でカバーすることができます。
ただ、医療費が抑制される方向にあって、現在、漢方薬の効果判定を再評価していこうという議論もあります。西洋薬は臨床研究によって治療効果をRCTといった大規模実験などで判定していますが、漢方薬は個人の症状に合わせるため、西洋医学的な研究デザインを描きにくく、効果判定がしにくい一面があります。
Q 東洋医学や中医学という言葉を聞きますが、漢方医学と違いはあるのですか?
A 漢方医学は、2000年前に著された中国の『傷寒論』と『金匱要略』を原典とし、輸入も含めて日本で入手できる生薬などを用いて、日本人の体質に合わせた独自の発展を遂げ、体系化されたものだといわれています。
一方、中医学は、1950年代に入ってそれまで数多くあった伝統療法を、明・清王朝時代の医療を中心に理論統一し、新たに体系化された現代の中国医学を指します。
どちらも中国伝統医療を起源としていますが、漢方医学が疾患の機序ではなく、症状に応じて決められた治療を行う実証医学であるのに対して、中医学は、病態を分析、診断してから治療する弁証的医学となっています。
東洋医学といった場合には、朝鮮半島も含めてアラブ地域まで範囲はかなり広汎となります。しかも、韓国には日本と同じように中国伝統医学を起源として独自に体系化された韓医学があります。
インドにはアーユルヴェーダ、アラブにはユニナといった伝統医学がそれぞれあり、実に多様な伝統医学体系を指すことになります。
次回は、診断の基本となる「証」のとらえ方について解説します。
(『ナース専科マガジン』2007年11月号~2008年3月号より転載・再編集)