エッセイ

ナースのちょっとイイ話

ナースとして、今後の見通しができたから

2016/8/10

テーマ:最も心に残っているエピソード

お通夜の席で

bath

入浴サービスを拒否するお客様

訪問入浴サービスをご利用されたお客様のお通夜でのことです。
50代男性で、癌の進行に伴いターミナル期を在宅で過ごしていました。
腹水の貯留により呼吸状態が不安定になったり、麻薬での疼痛管理がうまくいかない状態が続いて、本人はイライラして、奥様に辛く当たってしまう日々だったそうです。
そんな時に、私は訪問入浴の看護師として訪問させてもらいました。
職人で頑固、人に援助してもらうことは好まない性格の方で、入浴サービスに対しても難色を示し、表情が硬く拒否的な態度をとっていました。
初回のサービス時にはタイミングが悪く痛みが強い日で、身体に触れられる事が苦痛の様子でした。

全身状態から考えた「入浴できるチャンスの少なさ」

「風呂なんか入らなくてもいい」「どうせもうすぐ死ぬんだ」「痛くて仕方ないんだ」「チューブだらけでこんなの自分の体じゃない」
奥様も「本人が嫌がっているなら、お風呂は無理して入らなくてもいい」と、一緒に訪問したスタッフに話していました。
私は全身状態の状況から入浴できるチャンスは少ないと考えていたので、ご本人に提案をしてみることにしました。
「だまされたと思って入ってみてくれませんか?今日、入って嫌だったら1回だけで構いませんから」
渋々でしたが承知してもらうことができ入浴しました。
可能な限り身体への侵襲を最低限とするように、訪問した私を含めた3名で、協力して対応しました。
入浴中から痛みが軽減し始めて、穏やかな表情になり、奥様は「こんな穏やかな顔、久しぶりに見た」と笑顔でした。
その後は拒否なく、週1回のペースで入浴されました。
どんなに痛みが強い時にも入浴を希望され、意識レベルが低下してきても「お風呂入りますか?」の問いにはうなずくようになりました。
ご本人がうなずくことができなくなると、奥様が代わりに「入れてやってください」と。

選択を誤らなくてよかった

奥様はご主人の最期を自宅で看取り、その時には涙が出なかったそうです。泣けなかったと。
私たちは業務の間を縫うようにして、失礼を承知でユニフォーム姿でお通夜に参列させていただきました。
「お父さん、一番好きな3人が来てくれたわよ」と言って奥様は泣き始めました。
奥様はその姿を見て穏やかな表情のご主人の顔を思い出し、ホッとして、やっと泣けたと話してくださいました。
入浴の可否判断は看護師の重要な仕事です。初回の訪問時に選択を誤らなくてよかったと思いました。

●執筆●k.k さん
在宅ならではのやりがいを感じつつ、悩みながらも訪問入浴に15年ほど携わっています。
このエッセイは 「ナースエッセイ」 にご応募いただいたものです。
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