看護師にとって「看護観」は、自分らしく働くための軸となるものです。また転職活動の履歴書や面接ではアピールのチャンスでもあるため、構成から伝え方までこだわる必要があります。今回は、看護観の組み立て方から伝え方のコツまで例文を交えて解説します。
目次
看護師があらゆる場面で問われる「看護観」
転職の面接や目標設定時など、看護師はあらゆる場面で「看護観」を問われます。看護観を明確にすることは、今後のキャリアプランを描くうえでも大切です。臨床経験からどのように看護観をアップデートするべきか、例文を用いて解説するので参考にしてみてください。看護観とは?
看護観とは「看護師としてどのような看護を行いたいか」についての考えのことです。今回実際に働く看護師に自分の看護観について尋ねところ、以下のような回答が得られました。- 病気をみるのではなく、人間としての患者さんをみる
- 患者さんの気持ちに寄り添う
- 患者さんの話をよく聞く
- 患者さんの生活や価値観を重視して、その人らしさを重視する
- セルフケア能力を見極めて、伸ばす、維持する
- 退院後、その人らしく生きていけるように援助する
なぜ看護観を問われるのか?
看護観を問われる理由は、看護観がその人の看護に直接反映されるからです。看護観が明確であると今の自分が何をすべきか理解できるため、より円滑に業務を遂行できます。また転職の面接で問われる場合は、転職先の職場の理念と看護観が合致しているか確認する意図もあるでしょう。看護観は経験を重ねることで変化する
看護観は実際に看護の現場を経験する中で変化するものです。看護観に影響を与える因子として以下があげられます。- 患者さんとの関わり
- 医師をはじめとする他職種との関わり
- 指導者との関わり
- 家族や友人などの人間関係
- 自身や身近な人物の病気体験
- 成功体験
- 死生観

転職の面接で伝える看護観の組み立て方
転職の面接では下記のような形式で看護観を問われることが想定されます。- あなたが看護をするうえで大切にしていることはなんですか?
- 看護師としてどんな看護をしたいですか?
- 将来どんな看護師になりたいですか?
- あなたは患者さんに寄り添うことに関してどのように考えますか?
転職活動で活用する看護観を作るための3つのステップ
看護観を問われたときに、漠然と伝えるだけでは伝わりません。伝わりやすい看護観を組み立てるために必要な3つのステップをご紹介します。ステップ1:過去の経験を生かす
看護観は、これまでの自身の看護の経験から成り立っています。なぜそのような看護観に至ったのか、自分の看護師人生に影響を与えた具体的なエピソードを生かしましょう。また転職や次の病院選びに関わる内容であれば、志望理由・転職理由に結び付けると効果的です。ステップ2:転職先の医療機関の理念・方針に沿う
転職のときに問われる看護観は、転職先の医療機関の理念や方針とマッチしているかを重視されます。事前に転職先の理念や方針を充分に確認した上で、ズレのない看護観を伝えるようにしましょう。ステップ3:転職後のビジョンを織り込む
看護観は「今の自分の看護の在り方」だけではなく「これからどんな看護師になっていきたいか」という理想の姿でもあります。今の知識や技術を生かしてその先にどんな看護師になりたいのか、転職後のビジョンを明確にして伝えるようにしましょう。看護観を組み立てるときに意識したい4つのポイント
次に看護観を組み立てるときのポイントを4つにまとめました。下記の4つを意識して看護現場で通用する看護観を組み立ててみましょう。ポイント1:自分らしさを表現する
看護観は主体的に考えて、自分の言葉で表現しましょう。一般的な看護師としてこうあるべき、というイメージだと自分の考えが伝わりづらくなります。看護観に正解はないので、自分の理想とする看護を素直に伝えるのが大切です。ポイント2:患者さんを最優先して考える
自分本位の看護観ではなく、患者さんを最優先に考えるようにしましょう。看護師として自分がどうしたいかだけに固執した看護観になってしまうと本末転倒です。看護の現場は患者さんがいて初めて成り立つという前提で、患者さんを優先して看護観を組み立てましょう。ポイント3:一貫性を持たせて趣旨を明確にする
看護観を組み立てるときは「結論・理由・体験・エピソード」が一貫性を持つように意識しましょう。最初に述べた結論と体験やエピソードに関連性がないと、相手に伝わりにくくなるからです。看護観を組み立てるときに一度第三者に聞いてもらって一貫性があるかどうか確認してもらうと良いでしょう。ポイント4:志望先の理念とすり合わせる
看護観は、志望先の理念とすり合わせた内容にしましょう。転職において、看護観が転職志望先の理念と合っているかどうかは重要なポイントです。自分の看護観を明確にしたうえで志望先の理念とすり合わせると、より自分の思いのこもった看護観を伝えられるでしょう。面接で看護観を伝えるときのコツ
看護観を面接で伝えるときは、伝える順番も大切です。特におすすめなのはPREP法と呼ばれる手法で、下記の4つの構成にするのが良いとされています。PREP法
- 結論(Point)
- 理由(Reason)
- 具体例(Example)
- 結論(Point)
1:結論(Point)
「自分がどんな看護師になりたいか」を一言で簡潔にまとめます。詳しい理由はそのあとに述べるので、長くならないように心がけましょう。
例)「私は看護師として、常にベストな対応ができるように心がけています」
2:理由(Reason)
次に最初に述べた結論を補足します。「なぜその看護観を大切にしているのか」を詳しく述べていきましょう。
例)「1年目看護師の頃、“もっと何かできていたのでは”と現場を振り返って思うことが多かったからです」
3:具体例(Example)
さらに業務や患者さんとのかかわりで得た具体的なエピソードを伝えましょう。ただし長くなりすぎないよう、コンパクトにまとめるように意識することが大切です。
例)「余命僅かの患者様に対し、何かできることはないか患者様の好きだった映画を一緒に観る時間をつくりました。本当にこれで良いのかと悩むこともありましたが、最期に安らかに眠られた患者様のお顔を見て、ご家族も安心されたのを見て、ベストを尽くして良かったと思っています」
4:結論(Point)
最後は改めて最初に述べた看護観をどう生かしたいのか、どのように深めていきたいのかを伝えます。
例)「患者さんとご家族にとって何が一番必要なのかを常に考え、より良い状態を保てる看護を、全身全霊で提供したいと考えています」
面接での回答例を領域別で紹介。「看護観」を考える参考に
ここでは領域別の患者特性、看護技術、キャリアプランをもとにした看護観の例と、具体的なエピソードを紹介します。他の人の看護観からヒントを得られることもあるので、自身の看護観を組み立てるときの参考にしてみてください。急性期を経験した看護師の看護観
急性期は「病期になり始めた時期」です。患者さんの状態が変化しやすく経過が早いという特徴があり、症状によっては検査や手術も必要になることがあります。そのため患者さんの状態に合わせた的確な判断と対応力が求められます。さらに患者さんの身体的・精神的な負担にはもちろん、ご家族へも配慮も重要です。例文1:“対応力”がキーワードの場合
「看護師として常にベストな対応ができるように心がけています。急性期は元気になる患者さんばかりではありません。亡くなる患者さんも多く“もっと何かできていたのでは”と、1年目看護師の頃は毎日思っていました。その時、先輩から言われた“目の前の患者さんと向き合って、その時その時のベストを尽くすことが大切”という言葉を今でも大切にしています。患者さんとご家族にとって何が一番必要なのかを常に考え、より良い状態を保てる看護を、全身全霊で提供したいと考えています」
例文2:患者さんへの“寄り添い”がキーワードの場合
「患者さんが何を考えているのか、何を望んでいるのかを深く観察し、的確に察知して寄り添うことを意識しています。例えば意識がなく言語コミュニケーションが難しい患者さんでも、些細な表情やバイタルサインに患者さんの思いは表れます。以前、心肺停止で緊急入院し気管内挿管を行い、意識も悪く言語的コミュニケーションが取れない患者さんを担当したことがあります。ある日、ケアや声掛けで眉毛が動き、心拍数や呼吸数が変化することに気づきました。はじめは偶然かと思いましたが、数日担当していると、その時々で患者さんの反応が異なっていることがわかりました。そうした患者さんの様子をスタッフ間だけでなく、ご家族とも共有し、苦痛を予測して少しでも穏やかに過ごせるケアを行いました。患者さんとは意思疎通が難しいと思っていたご家族も、患者さんの反応を感じることができ、思いが通じたと涙を流されていたのが印象的でした。治療行為がメインになりがちな急性期ですが、この経験以降、常に患者さんの立場に立って“どうしてほしいのか”考えることを意識しています」
例文3:“貢献”がキーワードの場合
「どのようにしたら現場に貢献できるかを常日頃から考えています。急性期で働き始めたころは、医師と看護師が協同してベストな医療・看護を提供することが大切だと思っていました。しかし、次第に医師と看護師だけでは患者さんの命を守ることができないことに気づきました。人工呼吸器を動かすためには臨床工学技士のサポートが、栄養状態を良くするためには管理栄養士の専門知識が、状態に応じたリハビリテーションを行うためには理学療法士や作業療法士が欠かせません。事務的な手続きにおいてはメディカルソーシャルワーカーが必要です。それ以外にも多くのスタッフが毎日患者さんをアセスメントし、ベストな医療を提供するためにチームで関わっています。
良いチームは円滑で安全な医療・看護を提供できます。それは患者さんだけでなく、患者さんご家族の不安や心配を軽減することにもつながると感じています。自分一人で看護を提供するのではなく、チームで患者さんに関わっていることを忘れないようにしたいです」
回復期を経験した看護師の看護観例
回復期は、患者さんの容態が急性期を脱し身体機能の回復を図る時期です。病気によるダメージの回復だけでなく、可能な限り前の生活に戻るためのリハビリ期間でもあります。しかし急性期を脱したとはいえ安心はできず、急変や合併症などのリスクも高い時期なので、患者さんのメンタルも揺らぎやすくなります。患者さんの気持ちの寄り添い、退院後の生活まで見据えた回復期の看護を経験した、看護師の看護観の一例をご紹介します。例文1:“傾聴”がキーワードの場合
「患者さんが何を望んでいるかをキャッチアップできるように、コミュニケーションを大切にしたいと考えています。患者さんは医療者の前では無理をしているケースも多いこと、一見、順調に見えてもサポートを必要としていることも多いことを、回復期病棟で経験しました。現在は常に患者さんの思いを傾聴し、希望と現実のすり合わせを意識しながらリハビリや治療に前向きになれるよう、患者さんのそばにいられる信頼感のある看護師でいることが大切だと思っています」
例文2:“多様性”がキーワードの場合
「多様性を配慮して患者さんのQOLに貢献することが私の看護観です。回復期に転院してきた患者さんの中には、病気や後遺症を受容できないまま転院してくる患者さんも少なくありません。病気になる前に戻りたいと願う患者さんも多いのですが、機能回復が望めないケースもあり、患者さんが目指す姿と医療者側が設定した目標に乖離が生まれることがあります。一方で患者さんのリハビリへの意欲や効果的なリハビリによって、医療者の想像を上回る回復を遂げる患者さんにもたくさん出会いました。そのような患者さんを担当していく中で、私たち医療者がゴールを決めてしまうのではなく、患者さんが何を目指しているかがとても重要だと感じるようになりました。常に、患者さんを主人公としてその人らしく生きていけるように関われることを目指しています」
例文3:患者さんへの“寄り添い”がキーワードの場合
「患者さんの立場に立って気持ちや感情を大事にして寄り添うことを大切にしています。回復期看護では、リハビリで獲得した機能や能力を、日常生活動作に繋げていく視点が重要だと考えています。例えば「自宅で暮らしたい」「娘の結婚式でバージンロードを歩きたい」などと言った、患者さん自身の具体的な目標がリハビリへの意欲を高め、病気と向き合う力になることを多くの患者さんから学びました。患者さんだけでなく家族の思いや価値観、希望も患者さんのリハビリへの意欲と病状の回復に影響を与えます。患者さんだけでなく患者さんを取り巻く人たちにも真摯に関わることを意識しています」
慢性期を経験した看護師の看護観例
慢性期の看護は、慢性的な病をかかえた患者さんが「その人らしい」生活を送るため、長期的にサポートしていく看護です。外来や在宅療養など、急性期や回復期に比べて患者さんに向き合う時間が長くなります。患者さんの思いや価値観をより深く理解し、1人ひとりに合った看護をしていくために必要な看護観が求められるでしょう。例文1:患者さんとの“信頼関係”がキーワードの場合
「患者さんとの信頼関係を重要視しています。慢性期では患者さんとの付き合いが長く、より深く関わる場面も増えます。信頼関係を築けていないと、患者さんの本音を知ることができず、適切なタイミングでサポートできません。私たちは状態の安定している患者さんは「大丈夫だろう」と看護ケアの比重を軽くしてしまいがちです。しかし、患者さんは常に病状の変化や合併症への恐怖、不安と戦っており、落ち着いている状態の時こそ話を聞いてほしかったり、気に留めてほしいと感じていたりするケースを知るにつれ、安定している時に気に留めて心配してくれる看護師のほうが、慢性期では信頼関係を築きやすいのだと学びました。現在は自分が何をすべきだ・何かをしたいと思うことより、常に患者さんに心を配り、適切なタイミングでサポートできるように意識しています」
例文2:“患者さんとご家族への寄り添い”がキーワードの場合
「患者さんやそのご家族の気持ちや感情に向き合うことを大切にしています。慢性期では元気になる患者さんばかりではありません。時には治療効果が望めず、最期の時間を待つ患者さんもいます。ご夫婦2人でお子さんのいないある患者さんから学んだことがあります。患者さんは自宅で最期を迎えたいと思っていたのですが、持病のある妻の負担を考え病院で最期を迎える決意をされていました。一方で奥様は夫にできるだけ自宅にいてほしいと思っていて、夫婦で思いがすれ違っていました。最終的に、病状の許す限り外泊や外出をする、ということで話がまとまりました。あまり長い時間ではありませんでしたが、ご夫婦ともに望む時間を過ごし、穏やかに最期を迎えられました。時間をかけて関わる慢性期だからこそ、患者さんやご家族の思いをくみ取れて、個別性に配慮できるのだと感じています。このご夫婦を担当した経験から、最期まで患者さんが自分らしく生きていけるように、患者さんとご家族の意思を尊重した関わりをしたいと思うようになりました」
例文3:“患者さんへの寄り添い”がキーワードの場合
「患者さんに寄り添うことを最も大事にしたいと考えています。慢性期では生涯にわたって病気や後遺症と付き合っていかねばならない患者さんも多く、それを受け入れることができない瞬間もあります。以前は「医学的にどうしようもないことなのに、なぜ受け入れてくれないのだろう」と悩んだこともありました。しかし、どのような思いを抱える患者さんにも、一人ひとりの価値観があり、医学的に正しいからと言って医療者の価値観を押し付けることは正しい看護ではないと多くの患者さんから学びました。外来看護という限られた関わりでも、患者さん一人ひとりに寄り添うことはできます。いつでも寄り添う気持ちを忘れず、話しかけやすく相談しやすい看護師でありたいです」