近年男性看護師の人数が増えていますが、まだまだ女性が多い看護師の世界。働き方やキャリアプランについて相談できる男性看護師が身近にいない場合もあるでしょう。今回は男性看護師の給料・年収事情や、キャリアアップを考えるうえで役立つ情報を解説します。
目次
男性看護師がやりがいをもって働くために
女性が圧倒的に多い看護師の世界で、男性看護師も徐々に増えてきました。それでもまだ全体からみると1割以下。男性看護師特有のさまざまな悩みや不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。キャリアモデルとなる人が身近にいない、気軽に相談できる人がいない心細さなどもあるかもしれません。具体的なキャリアや働き方、男性看護師のコミュニティの紹介をしていきますので、自身のキャリアプランや働き方の参考にしてください。
男性看護師はまだまだマイノリティな存在?
ナース専科で勤務先に「男性看護師がいますか?」とアンケートをしたところ「いる」は約6割で自身が男性看護師との回答は7%弱でした。つまり7割近くの職場で男性看護師は働いていることがうかがえます。

男性看護師の人数や就業場所は?
男性看護師は厚生労働省の報告によると、2008年~2018年の就業者数の年次推移は以下のようになっています。
年次 | 男 | 女 | 総数 |
2008年 | 44,884人 | 832,298人 | 877,182人 |
2010年 | 53,748人 | 898,975人 | 952,723人 |
2012年 | 63,321人 | 952,423人 | 1,015,744人 |
2014年 | 73,968人 | 1,012,811人 | 1,086,779人 |
2016年 | 84,193人 | 1,065,204人 | 1,149,397人 |
2018年 | 95,155人 | 1,123,451人 | 1,218,606人 |
引用:平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(厚生労働省)
2008年の男性の割合は5.1%だったのに対し、2018年には7.8%となり、人数も倍以上に増えてきていることがわかります。
また、日本看護協会が公開している『令和2年 看護関係統計資料集』によると、2018年の男性看護師の就業場所別の就業者数は、病院や訪問看護ステーション、診療所が多いようです。
病院 | 83,806人 |
訪問看護ステーション | 2,717人 |
診療所 | 2,329人 |
介護老人保健施設 | 1,912人 |
看護師等学校養成所・研究機関 | 1,207人 |
居宅サービス等 | 1,114人 |
介護老人福祉施設 | 970人 |
社会福祉施設 | 688人 |
事業所 | 77人 |
市区町村 | 43人 |
都道府県 | 37人 |
保健所 | 8人 |
その他 | 247人 |
男女比でみる男性看護師の給料
看護師の給与は性別と経験年数によってどのくらい変わるのでしょうか。厚生労働省が公開している男女別の給与に関する調査結果を見てみましょう。
男性 看護師
経験年数計 | 0年 | 1~4年 | 5~9年 | 10~14年 | 15年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
所定内給与額 (千円) |
318.4 | 252.0 | 275.3 | 305.9 | 326.5 | 326.5 |
年間賞与その他特別給与額(千円) | 867.4 | 48.9 | 692.3 | 887.9 | 986.5 | 1054.1 |
女性 看護師
経験年数計 | 0年 | 1~4年 | 5~9年 | 10~14年 | 15年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
所定内給与額 (千円) |
307.8 | 249.8 | 270.9 | 287.1 | 301.9 | 338.3 |
年間賞与その他特別給与額(千円) | 856.2 | 98.3 | 715.9 | 812.9 | 877.9 | 1016.9 |
引用:令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
※所定内給与額とは、基本給、職務手当、通勤手当、住宅手当、家族手当などが含まれたものです。
「経験年数計」の項目を取り出すと以下のようになります。
・男性 看護師
所定内給与:月31万8,400円(夜勤手当などはなし)
賞与・ボーナス:86万7,400円(年間)
・女性 看護師
所定内給与:月30万7,800円(夜勤手当などはなし)
賞与・ボーナス:85万6,200円(年間)
男性の給与が多くなっている理由としては、女性は妊娠・出産・育児などで非常勤に切り替わる、男性は危険手当が出るような特殊病棟での勤務が多い、住宅手当や家族手当などの上乗せがあるなどが考えられます。
男性看護師の実態
男性看護師が配属されやすい部署
男性看護師が配属されやすい科として、救急外来、ICU、手術室、脳神経外科、整形外科、泌尿器科、精神科などがあげられます。移動介助や不穏患者さんの対応で体力が必要、男性患者さんが多いなどの理由です。反対に、施設によっては産婦人科や小児科では男性看護師は働けないところなどもあるため、注意が必要です。
男性看護師に多い悩み
職場に男性看護師がひとりしかいない…という心細さだけではなく、働くうえでもいろいろと苦労はあるようです。以下のような口コミ、反応が目立ちます。
- 患者さんや家族から「男性看護師NG」といわれてしまう
- トイレや更衣室、仮眠室がない、または医師と兼用で場所が遠い
- 女性大勢のなかに男性が少数だとモテる、遊んでいると勘違いされる
- 少数で目立つためか会議でリーダー、入浴担当、夜勤専従にさせられるなど、面倒な仕事を押し付けられることもある
- 突然、不機嫌になったりする、察しろ文化がわからない
- 若い女性の患者さんへの対応にすごく気を使う
- 医師やリハビリ職種と間違えられて看護師だと思われない
メリットもたくさんある。男性看護師活躍するシーンは?
ナース専科で「男性看護師の活躍するシーン」をアンケートしたところ下記のような意見がありました。
- 暴れる患者さんの対応
- 患者さんの搬送や移動
- 患者さんの移譲、体位交換
- 思い機器の持ち運び
- 女性看護師がテンパっているときに、穏やかに接することができる
- 合理的で冷静な判断
- クレーム対応
- セクハラ対応
- 迷惑電話の対応
- リーダーシップがある
力が求められるような仕事はやはり欠かせない存在のよう。また、女性が慌ててしまうようなシーンでも時に男性ならではの落ち着きで対処して頼りになるという声も数多く見られました。
マイノリティな存在だから起こりうる辛いと感じること
男性看護師も受けるセクハラ、パワハラ
男性看護師はセクハラやパワハラを受ける側としての問題もあります。男だけの飲み会で裸にさせられたり、お尻や腕など身体を触られたり、性的な話題をオープンな場で投げかけられたり、笑いを提供する目的、コミュニケーションの延長で行われていることもあるようです。男なら我慢しなきゃいけない、男なら下ネタが好きという男だからこうあるべき!に押しつぶされて声を上げられない、弱音を吐きにくい現状があります。こうしたときのために、男性看護師のコミュニティで情報交換をしたり、弱音を吐いたりする機会を少しずつ作っていくことも大切です1)。
男性看護師のコミュニティ
病院などでは男性看護師会、他職種を含めたサークルなどの活動が行われていることもあります。また、匿名で相談できるカウンセラーなどが在籍していることもあるでしょう。SNSなどでも男性看護師のオフ会なども行われています。所属している施設にそうした集まりがなくとも、全国には男性看護師の集まりがさまざまあります。ここでは3つご紹介します。
団体名 | URL |
---|---|
全国男性看護師会 | https://www.samurainurse.com/ |
日本男性看護師会 | http://nursemen.net/ |
日本看護連盟青年部 | https://kango-renmei.gr.jp/about/seinenbu |
各都道府県の看護連盟青年部は男性看護師に限ったものではありませんが、若手男性看護師も多く参加しています。日頃の悩みや不快な思いをしたとき、自分を責めたり一人で抱え込まず、こうしたコミュニティを活用することもひとつの手段です。
男性看護師のキャリアアップ例
男性看護師にはどのようなキャリアアップがあるのでしょうか。それぞれ違う分野で活躍する4人のご経歴を紹介します。
Aさん(フライトナース候補生)の場合
新卒でオペ室に配属となり3年経験を積んだ後、ICUに異動して2年働きました。そのときにドクターヘリやフライトナースの活動を知り、初期治療や災害医療などにも興味を持つようになりました。そして、フライトナース・スキルアップのために三次救急の病院へ転職。救急外来で5年経験を積み、現在はフライトナース候補生として、ACLS(二次救命処置)やJPTEC(病院前外傷教育プログラム)、日本航空医療学会のドクターヘリの講習などを受けて訓練しているところです。
※フライトナースになる条件は各施設で異なります
Bさん(訪問看護ステーション勤務)の場合
私は元々精神科で働きたかったのですが、新卒では脳神経外科病棟の配属でした。2年後に希望を出し、精神科病棟へ異動。精神科病棟では急性期病棟と認知症病棟でそれぞれ3年働きました。その間に結婚して子どもが生まれ、パートナーも看護師で夜勤をするのは厳しい状況だったので、精神科に特化した訪問看護ステーションに転職をしました。オンコールは週に1回程度はありますが、毎回出勤するわけではないのと、現在は病棟で夜勤をやっていたときと同じくらい給与をいただけているので満足しています。仕事も家族との時間も大切にしていきたいです。
Cさん(クリニカルスペシャリスト)の場合
看護学校を卒業してからはICUと外来カテーテル室で6年ほど働いていました。結婚したことをきっかけに病院を離れ、医療機器を扱う企業に転職。クリニカルスペシャリストとして、担当病院をまわり、医師や臨床工学技士、看護師などに対して扱っている医療機器の教育指導、営業などをしています。ビジネスマナーや営業スキルなどを身に着ける大変さはありますが、ICUや外来での経験、知識が生きてくるので楽しく仕事しています。
Dさん(認定看護管理者)の場合
新卒で救急外来に配属されて5年、小児科病棟に異動して約10年になります。小児科病棟には男性看護師は常に1~2人と少数で、思春期の女児のケアなど難しさを感じることもありますが、ドラマの影響か最近では男性看護師に対する風当たりは少し柔らかくなったように思います。数年前には認定看護管理者のファーストレベルの教育課程を修了し、小児科病棟の主任となりました。男性看護師で看護管理者はまだまだ少ないかもしれませんが、看護師の教育、マネジメントにも力を入れていきたいと思っています。
男性看護師としての働き方とキャリアプランについて理解を深めよう
看護師の世界でもまだまだ少数派の男性看護師。男性特有のさまざまな悩みや課題もあるなか、全国や施設ごとにそれぞれ工夫されていることも多いようです。男性看護師としてのキャリアも多様化するなかで、具体的なキャリアイメ―ジや活用できるコミュニティの情報を把握して、働き方やキャリアプランを考えていきましょう。これからは男性看護師という言葉がなくなるくらい一般的にも看護師のなかでも馴染んでいくようになればと願っています。